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高齢者福祉 各国日系共同体の実状(1)=カナダ、バンクーバー=ケア付き住宅「日系ホーム」=入居者へ細やかな気配り

5月14日(水)

 今年の海外日系新聞協会共同企画は「高齢者福祉」である。各国日系社会の高齢者福祉の現状はどのようになっているのか――加盟十九社(ラジオ二社を除く)に報告・執筆を呼びかけたところ、北米報知社(米国・シアトル)、日米タイムズ(米国・サンフランシスコ)、バンクーバー新報(カナダ・バンクーバー)、日系ジャーナル(パラグアイ・アスンシオン)、らぷらた報知(アルゼンチン・ブエノスアイレス)、それにニッケイ新聞社(ブラジル・サンパウロ)が応じた。以下五回にわたり、ブラジル以外の四カ国の実状報告を紹介する。

 二〇〇二年九月十三日「日系ホーム」がオープンした。これで「新サクラ荘」、「日系ヘリテージセンター」を含む総工事費二千万ドルをかけたカナダ最大の日系人総合施設が完成した。

 「日系ホーム」は高齢化が進むバンクーバー日系社会の中でシニアにとっては待ちに待った施設だった。そのサービス内容というのは、隅から隅までシニアのケアを第一に考えたもので、バンクーバーの中でもこれほど充実した設備を持つところは少ない。
 ケア付き住宅という名が示すとおり、食事、家事はもちろん個人的に介護が必要ならば介護サービスも受けることができる。室内も日系シニア用に設定され、台所の流し台は低めに、バスルームには手すりを、足が弱くなってくるお年寄りや車いすの人のためにバスルームへの入り口も含め室内は一切の段差をなくすといった配慮がなされている。一見普通のアパートに見えるがシニアへのこうした細やかな気配りがあちらこちらにみられる。サービスも充実しており、家事の補助、薬の服用の管理、着替え、入浴、排泄後の手助け、食事の補助など日常生活の範囲内での介護サービスが受けられる。
 入居者からは「施設の人がとても親身にやってくれるし日本語でなんでも通じるから幸せ」、「自分の自由がきくこと,台所で好きなものを作れるところなんかがとってもいい」などの声が聞かれた(入居者へのインタビューは二〇〇二年十二月にしたもの)。
 「日系ホーム」は四階建て、五十九ユニット、うち五十六がワンベッドルーム、九ユニットが車いす専用。建物の中にはダイニング・ルーム、談話室、ティールーム、アクティビティルーム、美容室、スパ室、手工芸室があり、館内どこでも車いすの使用が可能。キッチン、洗濯機、乾燥機は各ユニット内に完備、一人もしくは二人で居住することができる。家賃は七百九十ドルから最高二千ドルまで、入居者の収入及び資産に基づいて決定される。家賃には暖房費、光熱費、朝食、夕食、ライフ・ライン(緊急時にボタンを押して知らせるシステム)、個人的な介護サービスが含まれている。
 スタッフは約三十人、二十四時間体制で職員が常に勤務している。入居条件は五五才以上、長期介護サービスを受けている(もしくは介護サービスを必要としている)人、自立して生活すことによって伴う様々な出来事に対応する覚悟があることなどで、ちなみに条件が合えば日系以外のカナダ人でも入居することができる。現在、入居者は約七十人。

 このケア付き住宅の向かいに建っているのが「新サクラ荘」。こちらは中・低所得の日系シニア向け住宅で、一九九八年四月に完成した。木造三階建て三十四戸あるユニットは現在満室、こちらも日系シニアの間で非常に人気が高い。それというのも、「日系ホーム」同様、各ユニットは日系人シニア向けに設計されており、全戸バルコニーつき、居住者が集まって楽しめる共同スペース、歓談室兼ランドリールーム、多目的ルームなどを兼ね備えた施設となっているからである。
 違いは「日系ホーム」がケア付きであるのに対し、こちらはあくまでも健康な日系シニアのためのアパートであること。入居条件は、五五才以上もしくはどちらかが五五才以上の夫婦で、一年以上BC州に在住しているカナダ市民・移住者、年収三万七千カナダドル以下である。現在でも入居希望者は後を絶たない。

 どちらのシニア住宅にも言えることは、シニアが安心して、日本文化を取り入れた環境の中で、日本語でサービスを受けることができるということ。「日系ホーム」入り口すぐのレストランでは日本食が用意され、いつでも日本食が楽しめる。このレストランは一般にも開放されていて、特にランチ時は多くの人で賑わっている。その左隣にある日系文化センターとは渡り廊下で結ばれ、入居者はいつでも日系コミュニティのイベントに気軽に参加できるようになっている。
 このような日系人を対象にした施設がバンクーバーで完成をみたきっかけは、一九八四年に介護ボランティアをしていた女性達の声に賛同者が集い、何とかして日系シニアのための施設をと立ち上がったのがことの起こり。その後様々な壁にぶち当たるも、一九八八年九月カナダ連邦政府が第二次世界大戦中の日系人に対する不当な扱いを認め、その補償として日系コミュニティに千二百万ドルを支払うことを決定した。一九九二年、そのうち、三百万ドルが日系ヘリテージセンター協会に支給され、日系人のための総合施設計画は滑り出し、軌道に乗り始めた。一九九三年協会はバーナビー市(バンクーバー中心地から車で約三十分の所)に三エーカー(約十二平方キロメートル)の土地を購入、ここに「日系ヘリテージセンター」、「新サクラ荘」、「日系ホーム」が建設された。
 「日系ホーム・新サクラ荘」の運営・管理は日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会(NSHCHS)が担当、介護サービスはサイモン・フレーザー保健局が、建物の管理はBCハウジング社がそれぞれ対応している。(取材 三島直美)

*ドルは全てカナダドル、四月六日現在1カナダドル=約八十円

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(1)=カナダ、バンクーバー=ケア付き住宅「日系ホーム」=入居者へ細やかな気配り

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(2)=米国・サンフランシスコ=住みにくくないが高額な費用=言葉や食事も問題

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(3)=米国・シアトル=ホーム「敬老」に高い評価=入居者家族の信頼も厚く

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(4)=アルゼンチン・ブエノスアイレス=必要叫ばれて10数年=十分といえない対策

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(5)終=パラグアイ・アスンシオン=65歳以上は平均14%=まだ若い日系社会 問題はこれから

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