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日本文化の伝承を考える(18)=見える文化、見えない文化

3月10日(水)

  日本文化の伝承について、何を伝承するのか、伝承の対象となる日本文化を明らかにするため、これまで、文化の意味を考え、日本文化の輪郭を描き出すことを試みてきた。
 現在、既にブラジルに定着していると考えられる日本に由来する文化を幾つか挙げると、カラオケ、寿司・刺身・やきそば等の日本料理、茶道、生け花、柔道、空手、和太鼓、マンガ、アニメなどがある。
 ブラジルに定着していると考えられるものを挙げて見たのだが、これらは五感(視・聴・嗅・味・触)の内、視・聴・味に訴えるものとスポーツで、共通する点は、社会構造(人間関係のあり方)との関連が希薄なものである。
 文化は社会構造との関連で、その関係が濃厚なものから希薄なものまである。社会構造との関連が濃厚な文化を一方の極におき、関連の希薄な文化を一方の極に置いて、日本文化の伝承を考えるとき、社会構造との関連が希薄なほど伝承が容易であると考えられる。次に文化と社会構造との関連を単純化して区別してみた。
 * 社会構造との関連が希薄な文化―衣、食、科学としての学問、美術(折り紙、形式美・造形美としての生け花)工芸、音楽(カラオケ、リズムとしての演歌、和太鼓)、マンガ・アニメ、凧揚げ、踊り、スポーツ、外国語としての日本語。
 * 社会構造との関連が濃厚な文化―言語(敬語、言外の言、以心伝心)道徳(世間を配慮した言動、慎み深い、謙遜、恥、和の精神、義理人情)根性、先輩後輩、親分子分、本家分家、ウチ・ソト、婿養子、家元制度。
 社会構造との関連が希薄な文化は、五感に訴える文化やスポーツで、音の文化も含めて言わば見える文化である。細かく見ればはみ出すものもあるが大まかに四捨五入して、形ある文化として分類してみる。社会構造との関連が濃厚な文化は、文化規範としてこれまで説明してきた。これは見えない文化に含まれ、人間関係の文化と言える。その他に、社会の中での人間関係のあり方とは異なった意味をもつ、日本人の自然観を表す対自然の文化があると考えられる。整理すると次のようになる。(見える文化―形ある文化)(見えない文化―対自然の文化、人間関係の文化)
 対自然の文化は芸術(美術や文学)宗教(神道や禅)を通じて認識されることがほとんどである。自然に対する考え方は、人間関係の文化や形ある文化と密接に結びついているのだが、ここでは便宜上このように分類してみる。 (中谷哲昇カザロン・ド・シャ協会代表)

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