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「現在の日伯2国間関係超えよ」=『実業のブラジル』45周年記念=堀坂上智大教授が講演

8月14日(土)

  『実業のブラジル』創刊四十五周年を記念して、上智大学の掘坂浩太郎教授が「アジアとブラジルそして日本」と題する講演を行った。
 会場にはJACTOの西村俊治社長など、日系の企業人を中心に百人を越える聴衆が集まり、掘坂教授の話に熱心に耳を傾けた。また、特別ゲストとして日本経済新聞アメリカ社の和田昌親社長も熱弁を振るった。
 「斎藤広志先生が『外国人になった日本人』という本を書いたが、日系人はそろそろ『国際人』になるべき頃なのではないか」と掘坂教授は語る。
 「移民百周年も日伯二国間だけのお祝いをすればいいというのではなく、例えば、百周年祭に建設が予定される日伯総合センターは日本だけのことではなく、アジアのことも発信するような施設にすべき」。
 この発言の裏には、FTA交渉などを通じて地域の国際化が進む現代の国際事情がある。
 『アジアの日本』
 日本がFTA交渉に力を入れ始めた要因として、実力中心主義の競争社会へと日本が急速に変化して来たこと、WTO加盟後の中国が積極的に東アジアでFTA交渉を行っていることがあげられる。
 FTA交渉が進む中で、単一通貨導入の声まで聞かれるなど、「東アジア共同体も現実味を帯びて来た」と掘坂教授は指摘する。
 太平洋戦争という負の遺産が日本と他の国との緊密化を阻害することも心配されるが、堀坂教授によると、中国人、韓国人、台湾人だけで日本を訪れる観光客総数の五割が占められている。
 『南米のブラジル』
 一九九一年のアスンシオン条約をもとに一九九五年、メルコスール(南米南部共同市場)は発足した。
 堀坂教授は「ブラジルは地域統合十五年の経験を持っている」とその地域化の歴史を評価する。
 ブラジルはメルコスールを外交政策の基本として捉えているが、掘坂教授もまた「ブラジル通商外交のフロントラインの一つ」としてメルコスールを見ている。
 また、ブラジルは第三世界の雄としての活躍が期待されており、最近でもWTOの農業交渉で成果を収めている。「ネオリベラリズムが反省期を迎える今、労働者階級出身のルーラの存在に期待」と堀坂教授。
 こうした背景から、「二国間関係を越えて、アジアの日本、南米のブラジルとして外交をしていく時だ」と掘坂教授は説いた。
 また、現在のブラジルはかつてのような内向きな発展を目指すのではなく、「外に組み込まれることを大前提としてブラジルは動き始めた」と指摘する。 
 「現在、東アジアは資源、マーケットの確保をブラジルに期待している。この状況は七〇年代の日伯間の補完関係に似ているところもあるが、当時と違い、今ブラジルは外へと足を踏みだし始めている。七〇年代には、ブラジルからの直接投資はなかった」。
 この変化を受け止め、「新しいブラジルを見て、対伯関係を考えて行かなければならない」とも述べた。
 講演後、実業のブラジル社の鈴木與蔵社長が拍手で壇上に迎えられた。「私は四十五年間、日系企業の振る舞い酒を飲んできた。ずっと、何かお礼がしたいと思っていました」と今度の講演会が開催できたことの喜びを語り、「今晩はささやかではありますが、酒を用意しているので、旧交を温めてほしい。ありがとうございました」と感謝の意を述べた。

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