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コチアは生きていた=30年ぶりのセラード「赤木報告」(3)=人工衛星コントロール方式=究極まで生産性を追求=人工衛星操作でトラクターを運転

ニッケイ新聞 2007年12月15日付け

 ミナス州サン・ゴタルドでは、トウモロコシや大豆など、植え付けた作物の一列の長さが約二キロに達する。その列が一ミリの狂いもないほど一直線に植えてある。これはトラクターを人工衛星操縦によって行っている結果であり、一列が何キロになろうと、最終点までの誤差は、最大二ミリ以下に制御するコントロール設備を採用しているからである。
 GPSと呼ばれるこの方式を、ブラジルで採用しているところはほかにない。ここで初めて、これを採用して日系二世たちは、これもブラジルで先駆者となった。
 なぜ、農作物の栽培に、ミリメートル単位の誤差も許さない設備を導入したのか。しかも、この設備はトラクターにすえつけると、一台十万レアルもする。少々列が曲がっても、収穫には影響はないだろうと考えがちだが、彼らの考えは違っていた。列が曲がれば、列が隣とくっついた部分は密集になり、小さい実しか成らない。一方の空間が大きくなった部分は、まばらになって、その分、一本の作物が吸う肥料が多くなり、大きな実になる。完熟期も不揃いになり、作物の粒の大きさに均一の製品ができない。これでは生産性や等級が落ちると計算している。
 また、人工衛星コントロール方式は、コンバインに設置して、耕地全体の平方メートル当たりの収穫量を、全部記録し、耕地全体を、メートル単位で収穫量地図を作成する。この地図を肥料散布機に記憶させて、肥料を撒くと、痩せて収量が低い場所は、自動的に肥料が多く撒かれる。こうして、耕地全体の作物が、全部平均して成長し、均一の作物を生産できるようにしている。
 サン・ゴタルドの二世たちは、米国がミサイル誘導用に開発した人工衛星誘導システムを、農業に導入して、耕地全体の産物に、均一性を高め、輸出市場で、有利に立つ作戦を採用している。戦争用に開発された技術を、平和利用に転用した。
 このようなアイデアは、すでに彼らがセラード開発に乗り出した三十年前から、何事も常に仲間同志で協議し、高い生産性を追求してきた結果、生まれたものである。まだ、セラード開発に乗り出した初期に、筆者は、当時二十代だった彼ら二世の若者に集まってもらい、座談会を開いたことがあった。彼らはその中で、いつも国際市場を見つめたブラジル農業の将来を考えていることを強調している。セラード開発開始当初から、世界の市場を標的に、仲間の間で、いつも話し合って来た結果が、ブラジルでは例のない人工衛星によるトラクター操縦を農業に導入させた。
 彼らの農業は、日本人が考える篤農家的農業ではなく、企業家的センスで推進されている。トウモロコシやニンジンを、一ミリも曲げない真っ直ぐな列に植えて、〇・〇一%のくずも出ないように、均一の製品をつくり、究極まで生産性を追求する着想は、企業家的考えであって、一世の農業者には、なかなか思いつかないことである。
 自分達は、世界一の品質の農産物を生産してみせる、という三十年前からの決意を、彼らはいまも固持し、実行している。(続く)



「コチアは生きていた」=30年ぶりのセラード「赤木報告」(1)=小笠原一二三さんの先見の明=驚嘆させられる変貌

「コチアは生きていた」=30年ぶりのセラード「赤木報告」(2)=100年前の農地再生され、今は穀倉地帯、なお余裕

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