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イースター島ですし握る=滞日歴10年のチリ人シェフ=日本食の“伝道師”サビエルさん

ニッケイ新聞 2009年11月7日付け

 人面を模したモアイ像で知られるチリ領イースター島。チリ本土から約3800キロ離れた南太平洋の孤島の中心街で毎夜、赤ちょうちんがともる。竹の格子戸に奥座敷。
 日本に10年近く滞在し、料理を学んだチリ人店主、フランシスコ・サビエルさん(33)が2007年2月に開いた島で初の日本料理店「居酒屋甲太郎(こうたろう)」だ。「私は本当の日本の味を出す」と流ちょうな日本語を操る。米国人観光客らにも好評で、連日遅くまでにぎわう。
 日系2世の妻との間に生まれた一人息子の名前をつけた店では、地元のマグロや白身魚など9種類のすしを握る。豆腐やうどんは自家製、ラーメンのめんも小麦粉から自分で打つ。
 「イタリアで修業中にパスタの作り方を学び、それを応用した」。みそや米は約4千キロ離れたタヒチ経由で日本から取り寄せ「日本の伝統の味」にこだわる。
 首都サンティアゴの大学で声楽を学んでいたが、1993年に来日。大阪市で大学に編入し日本語や日本文化を学ぶ一方、鮮魚店でアルバイト、週末は外資系ホテルで料理人として腕を磨いた。「日本では勤勉さや仕事への責任感を学んだ」
 卒業後は米国やイタリアのホテルなどでも働き、帰国後の03年ごろ、サンティアゴにあるホテルの日本料理店のシェフにと声がかかった。
 だが長年の海外暮らしで「周囲のチリ人の仕事などへの責任感の乏しさに悩んだ」。口づてで島のホテルの料理人の職を見つけ、06年末、廃材を再利用して自ら店を建てた。
 島には昨年、約3万9千人の観光客が訪れ、外国人の中で日本人は米国、フランスに次ぐ第3位の約2800人。店の客の8割は日本人だ。バックパッカーには破格の安値で料理を出す。
 「日本ではお金がなくつらい時もあった。今は生活に少し余裕がある。ここで満腹になってくれれば」と打ち明ける。
 「懐石料理や居酒屋の一品など日本の料理は幅が広く、伝統の味がある。その伝統の上で私も良い仕事をしたい」と話した。(イースター島、共同=名波正晴)

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