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イビウナ庵便り=中村勉の時事随筆=金利=11年6月27日

ニッケイ新聞 2011年6月28日付け

 ブラジルの公定歩合(Selic)が12.50%paと高止まりしている。日本は13年もの長きに亘ってゼロ金利政策を採ってきた結果、公定歩合と言う用語は意味を失ってしまった程だ。一方はインフレ対策だと言い、他方はデフレ脱却の為だと言うが、どちらも目標が手段(政策)を嘲笑っている。金利政策(公定歩合操作)を喪失した日銀は、通貨の量的コントロール以外の手段を持っていない。
 ブラジルは公定歩合操作手段を持っているが、役立っていない。何故ブラジルは高金利国なのか、説明できない。「高インフレ国だから」では、インフレが同程度あるいはもっと高い国でも低い金利の国は少なくないので、説明にならない。では、「低い貯蓄率」はどうか? これもブラジルと同程度の貯蓄率で低金利の国があり、ブラジルの高金利を説明出来ない。ブラジルのマクロ経済指標はG-20の中で抜群によいし、公的債務の対GDP比率も低いので、財政赤字が高金利の原因だとするのも首肯けない。
 所得格差が大きく、所得が少数者に集中していて、大多数の国民の消費が長年抑制されてきたブラジルのような国では、貯蓄率が低くなるのは分かるとしても、同様な消費性向を持つ他の新興国に比べてもブラジルの金利は高すぎる。最近ついに、金利率=購買切望率(impatience rate)と言う新説が出てきた。「ブラジル人は何でも新商品を欲しがるので、割賦購入に走るインフレ体質がある」、そこまではよい。だが、それが直ぐ高金利につながるだろうか、疑問だ。
 インデクゼーション(編註=【大辞泉】indexation、あらかじめ定められた方式によって、賃金・金利・年金などを物価指数に連動させて決める制度)が身体にしみ込んでいて高インフレを呼び、高金利で対抗しなければならない、という尤もらしい議論もあるが、インフレとインデクゼーションの因果関係が逆だ。
 ハイパーインフレに対処すべく発想されたのがインデクゼーションだ。又、需給の構造的不均衡(需要>供給)がインフレの原因だとする説も根強いが、輸入が自由化した現在、説得力に欠ける。という訳で、どの説も高金利の原因を突き止めていない。
 反対の極にある日本はどうか? 長年ゼロ金利政策を採ってきたが、デフレ脱却に成功していない。対米ドル為替レート(レアル高であり円高である)では共通している。米国がこれでもかこれでもかと大型景気対策を打つと、グローバライズされた世界では注入された米ドルは米国経済を刺激せずに先物市場や他国に向かう。資源や食糧の先物価格が値上がりし、他国通貨が買われ、米ドルが売られる。さすがのバーナンキFRB議長も、これ以上の米ドルの量的緩和策を諦めたようだ。
 かつて金融政策は国家経営の最重要政策手段だった。今や金利操作も通貨操作も働かなくなった。市場は超国家の政策手段を求めているのではなかろうか?

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