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日伯は生産拠点の補完関係=竹中平蔵元大臣が講演=震災機に未来図描き直せ=早期復興の大事さ強調

ニッケイ新聞 2011年10月27日付け

 経済学者で経済財政政策担当大臣などを歴任した竹中平蔵氏の講演会『大震災の教訓と日本のゆくえ』が23日、サンパウロ市の文協ビル小講堂で開かれた。竹中氏はブラジル日本研究者協会の第20回年次総会に出席するために来伯し、同協会が主催した。当日、200席を埋めた来場者は、大震災の被害の実態と今後の展望、特にブラジルとの関係を知ろうと、熱心に耳を傾けていた。

 「日本とブラジルは地理的に地球の真反対に位置し、最も直接的影響も受けない関係である上、日本と強い絆を持つ150万の日系人がいる。企業が両国を生産拠点に選ぶことで、日伯相互に大きな事業継続計画(BCP)が得られるのでは」と来場者に語りかけた。
 事業継続計画とは、今回のような大規模災害などの予期せぬ出来事により、今ある生産設備で最低限の事業活動を継続し、できるだけ短期間に復旧再開できるように、事前に策定される行動計画のことだ。竹中氏は、日伯の遠さがむしろ利点となり、相補関係を強めると力説した。
 「復興には早さが大切」と繰り返し、東北地方の生産工場の破壊とともに部品供給連鎖が崩壊し、「一度離れた顧客は戻ってこない」と警鐘を鳴らした。日本政府は早期に復興予算をつけ、企業はライバル会社を含めた新しい関係を作る時とした。
 今回の被害総額を、「内閣府が震災後に算出した固定資本(住宅やインフラ)の被害推計は17兆円。阪神大震災の9・9兆円に比べおよそ2倍。放射線や津波の影響を含めると3〜4倍になる」と説明し、震災の心理的なダメージが個人消費の低下を進め、結果的に成長鈍化が進んでいると付け加えた。
 日本が立ち直るためには、第一に「原理原則に適った政策が大切」と強調し、「復興費用は一時的支出。マイナス成長時の増税は原則上ありえない」と増税論に疑問を呈し、建設国債発行などの臨時収入が必要と指摘した。
 第二に「ビッグピクチャー(理想的な未来図)を描けるチャンス」とし、「復興ではなく、省エネが進んだエコシティー(環境重視都市)推進や、海外に負けない大規模農業化を進める機会」との希望をのべた。
 関東大震災の際に帝都復興院総裁の後藤新平が構想した都市計画を好例に挙げ、「その名残りである昭和通りや隅田川の橋が、現在でも市民生活を支えている」とした。
 質疑応答でモジ市在住の鶴我博文さん(75、福岡)は、「今日の話を聞いて、ブラジルのTVでも一日中震災の様子が放送され、世界が日本を見ていたことに感謝しなければ、と感じた」との感想を語っていた。
 この日以外に、マッケンジー大学やサンパウロ州立総合大学でも講演が行われた。

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