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コロニア高齢貧困者の現状=(上)=家族3人が最低賃金で生活=息子たちの支援もなく…

吉田さん一家

 「昨年病気になり仕事ができなくなった。同居している娘は数カ月前に失業、同い年の妻が受給する1サラリオの年金だけで3人が生活している。自分も年金をもらえれば少しは楽になるのだが…」という切実な声が、カンピーナスに住む吉田茂輔さん(82、山形)から本紙編集部に寄せられた。高齢化が進むコロニアの紛れもない現実だ。吉田さんを取材するとともに、サンパウロ日伯援護協会の副会長で、こうした相談も受け付ける福祉部の運営委員長を務める山下忠男さんに聞いた。

 1937年、吉田さんが7歳のとき家族で移住し、奥パウリスタに入植した。約10年各地を転々としながら農業に従事。サンパウロ市を経てカンピーナスに移り、車の機械工として働いた。部品や販売や不動産業も手がけ、約30年前に家を建てた。
 97〜02年までデカセギとして大阪の工務店で働いた。戻った後も息子に譲った工場で働き、昨年脳の病気で倒れるまで毎日仕事をしていたという。
 これまでINSSは支払ったことがないため、当然一切年金は受け取っていない。しかしSUSには加入しているため、ケガや病気のさいには無料で治療を受けることができた。
 同い年の妻、イザベルさん(二世)は1年ほど働いたことがあるが、同じく年金を払ったことはなかった。しかし12年ほど前から毎月、最低賃金分の金額を政府から受け取っている。今月から620レアルに上がったものの「生活はとても厳しい」と表情を曇らせる。
 子供は3人おり、同居している娘のタニアさん(36)は数カ月前に失業した。失業保険は受け取っていないため、イザベルさんが受け取っている金額で3人が生活している。市内に住む息子2人はそれぞれ家庭を持っており「小さな子供がいるから援助は難しいみたい」とため息をつく。
 昨年5月に吉田さんは手術し、近いうちに再び受ける予定だという。倒れた直後は歩けず、話もよくできない状況だったが、快方に向かっているようだ。
 イザベルさんは、「年をとっているのにとてもよく働く人で『良くなればまた働く』といつも言っている。日本でも工務店の社長に気に入られていたみたい」と夫を案じながらも笑みを浮かべた。
 取材に訪れた、カンピーナス市のセントロ近くにある吉田さん宅。番犬が出迎え、車も数台ある。中に入ると、小奇麗なリビング、台所が続く。一見、貧しい暮らしには見えない。しかし、この状況が続けば——一家はどうなるだろうか。
 援協福祉部では、医療一般や職業、法律など様々な相談が持ち込まれる。そのなかで、貧困相談は毎月数十件に上る。昨年12月を例に挙げれば、男性43件、女性41件。相談全体の6・5%を占める。
 傾向としては男性が比較的に多く、70代以降の高齢者が大半。「家賃を払えない」という相談のほか、「3日間何も食べていない」という人も来ることがあるという。(田中詩穂記者、つづく)

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