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第6回=古いポ語から独自に発展したブラジル語

ニッケイ新聞 2012年3月28日付け

■フェリッポンのCM

【小林】=(在リスボン日本国大使館で)現地職員の人がいて、毎朝色々教えてくれるんだけど、これが、最初は聞いてもわからない。
全員=ははは(笑)。
【小林】=まず単語がね、色々違うんですよ。例えば「モッサ(moca)」っていうの、向こうでは「ハパリーガ(rapariga)」っていいますね。ハパリーガってここでいうとまたちょっと違う。
【岸和田】=要するに売春婦。
【深沢】=えっ、売春婦?
【岸和田】=ポルトガルでの意味は、普通の女の子、ブラジルでは売春婦。
【小林】=ほかにも例を出せば、ブラジルで「トレン(Trem)」って電車のことでしょ。あれポルトガルでは「コンボイオ(Comboio)」っていう。それで今、パルメイラスの監督をやってるスコラーリっているでしょ。ルイス・フェリッペ。
【深沢】=はいはい。〃フェリポン〃ですよね。
【小林】=ブラジルでは「フェリパン」っていうけど、ポルトガルではスコラーリと呼ばれていた。彼がポルトガルのサッカー代表チームの監督だった時代、ブラジルの銀行のコマーシャルに出てるのが、すごい面白かった。
 CMの中で彼はこんなことを言う。「トレン、アキ・エ・コンボイオ、アエロモッサ・エ・オスペデイラ(Trem, aqui e comboio, aeromoca e hospedeira)」。それは辞書引っ張ったら、ちゃんと出てくるんですよ。
【深沢】=そうなんですか。
【小林】=「カダルソ・エ・アタカドール(Cadarco e atacadora)、ハパイス」って。で最後に「バンコ・エ・バンコ(Banco e banco)」。
全員=ははは。
【深沢】=ブラジルとポルトガルの単語はこれだけ違うって言いながら、バンコはバンコ。
【小林】=それは単語の違いですよね。あとはその、いわゆる現在分詞。「エストウ・ファランド(Estou falando)」っていうでしょ。「ジェルンジオ」って現在分詞、これポルトガルでは使わないんですよ。
【岸和田】=エスト・ア・ファラー(estou a falar、私は話している)。
【小林】=エスト・ア・コヘー(estou a correr)とか。
【深沢】=ふ〜ん。
【小林】=で後はね、やっぱり、再帰動詞ですか。ミシャモ何とかっていうでしょ。それはね、今のポルトガルの言葉では「シャモ・ム(chamo-me)」。ムが後ろに来るんです。
【岸和田】=「シャモ・メ」だけど「メ」が「ム」になる。


■古いポ語から独自に発展してブラジル・ポ語に

【小林】=僕の同僚は言語学をやってる人だった。彼に聞いたら、それはポルトガル本国でも「セ」が前に来たり後ろに来たり、歴史的に繰り返しているんだそうです。昔はジェルンジオを使ってた時期もあったけど、使ってない時期もあった。たまたまポルトガルがブラジルを植民地にした時期が、使っていた時期だったということじゃないかと。
【深沢】=本国にはなくなったけど、それがブラジルに残って一般化した訳ですね。
【小林】=さらに後日、独自の発展を遂げる。だから今こんなに違うんだと思うんです。
【深沢】=あ〜。古いポルトガル語が源流になって、今のブラジルのポルトガル語(=ブラジル語)になっていると。
【岸和田】=基礎はそうだと思いますね。ベースは。
【深沢】=はあ〜。よくほら大宅壮一の「明治の日本が見たければブラジルにいけ」という言葉が引用されますが、「大航海時代のポルトガルが見たければブラジルにいけ」みたいなのは、ポルトガルにもあるかもしれませんね。
【小林】=でも、今では「昔のポルトガル」が残っているというより、すでに「ブラジル独自の姿」じゃないですかね。
【岸和田】=それはアメリカ英語とイギリス英語が、似てる面と違う面と両方あるのと同じ。あとポルトガル人はブラジル人の言うことは全て分かる。
【深沢】=そうなんですか。
【小林】=ノベーラとか見てるから。
【深沢】=ああ、なるほど。
【小林】=だからポルトガル人も「ダー・ウン・ジェイチーニョ(Da um jeitinho)」と言っても分かる。ジェイチーニョって言ったらブラジルのポルトガル語ですよね。
【深沢】=じゃあ、ブラジルのポルトガル語の方が、世界的にみたら知られている訳ですね。(つづく)

写真=サンパウロでかつて走っていたBondeはポルトガルではElectricoと呼ばれ、今でも現役。(写真提供=中山雄亮)



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