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ブラジルに於ける茸栽培の沿革と一考察=野澤弘司=(15)

ニッケイ新聞 2013年5月9日

《衰退期》

 2006年2月13日、日本の厚生労働省は、キリンウエルフーズ社のアガリクス製品に、発癌を促進させる作用を認めたと公表した。その日まで日本癌学会が認めたアガリクスの制癌剤としての薬効を確信し、命綱として毎日服用して来た多くの癌患者や生活習慣病患者、そしてアガリクスの生産と流通の関連事業に携わって来た者に大きな衝撃が走った。
 厚生労働省の公表の内容は、今回調査対象となった3社のアガリクス製品の内、キリンウエルフーズ社の製品が遺伝毒性試験で陽性を示した。また5種の発癌性物質を与えたラットに同製品を経口投与した所、前胃、腎、甲状腺に発癌作用を認めたが、直ちに発癌の恐れは無いとも付言した。また調査対象となった3社の内、他の2社製品は何等の異常も見られなかった事も公表された。
 キリンウエルフーズ社はキリンビールの小会社で、元来中国産アガリクスを取り扱っていた企業である事は、業界では周知の事実であった。厚生労働省は食の安全を図る為、厳しく産地表示を義務付けているにも拘らず、今回の遺伝毒性試験に陽性を示したアガリクスが、中国産である事は明言せず、あたかもアガリクス全般に及ぶイメージを、アガリクス依存者や業界に故意に暗示させたものとも思われる。
 この厚生労働省の公表でブラジル産アガリクスの潔白を例え一行だけでも、言及してくれて居たら、津浪の如く余りにも突如として襲いかかったアガリクス市場の終焉は回避できたと思う。ブラジルでアガリクス栽培と流通に従事していた約4000人の日系人は失職、破産等の路頭に迷い、多くは日本への出稼ぎを余儀なくした。
 かかる行政の一方的な公表に対し、強硬に反旗を翻すべきアガリクス関連業者は、役人からの後難を恐れてか省庁からの通達に対しては、法的手段を講じて大々的に反駁する
 事も無く服従し商品の回収等に応じた。一方TVや大手新聞を始め医薬関連マスコミは、競ってアガリクスの有害説を報道したので、風評被害は更に拡大した。
 中国産のアガリクスが市場に出始めた頃のアガリクスの乾物は、一般にブラジルの山野に自生する原種の様な外観が黒ずんでいて、菌柄が長くて皺が多く、子実体は縦に二つ割りにせずにラウンド状で乾燥しているので一見して中国産と識別が出来た。然し数年後にはブラジル産同様に白味を帯び、色つやも良く、外観はズングリムックリの2つ割でブラジル産と遜色がなくなった。中国産アガリクスの末端価格は、殆ど ブラジル産の1/3以下だった。
 日本でのアガリクス業界には約200社以上がひしめいていたが、昨今は数社に淘汰されているようである。
 此れを機会に日本では、アガリクス協議会が発足し、原産地の確認,製薬業界との共存共栄策の推進、重金属や大腸菌群の規制、原産地証明添付の励行、無毒試験及び臨床データーの共有と整備等が遅ればせながら実践されるに至った。
 天恵の生薬として華々しく世界のサプリメント業界の檜舞台に君臨したアガリクスは、日本の産官の意図的と思われる弾圧に屈し、古本がアガリクスをこの世に出してから30年余りにして、生産と流通の幕ははかなくも降ろされた。嘆かわしい事である。
 アガリクス栽培の往時の主役であった日系人は、日本政府や業界への不信感が募り、折角栽培技術を体得したが、アガリクス栽培に復帰する者が今日では皆無に等しいのは残念である。
 日本及び世界の癌関連学会が公認した、アガリクスの抗がん剤としての薬理効果を信じ、日本厚生労働省からの発癌の恐れの勧告にも従わず、アガリクスが市販されて以来現在でも、30年以上に渡って服用を続け、発癌は愚か人並み以上に正常な体調機能を維持している多くのアガリクス信奉者の存在を忘れてはならない。
 厚生労働省の公表から3年半が経った今日では、日本でのアガリクス需要が復元する兆しは微かに窺える。食の安全には異常な迄も敏感な反応を示す日本市場でも、過去には学術的にも立証された癌患者や生活習慣病へのアガリクスの薬理効果が、良い物は良いとの単純な原理原則で、いつの日か必ずや日本市場でのアガリクスの真価が公然と再認識される事を、古本や呉も見守ってくれるに違いない。(終り)

(参考文献)熱帯技術叢書18号ブラジルの野菜、刊行1983年、農林水産省熱帯研究センター
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