樹海

 意図せずして、自分の発言や振る舞いが人を傷つけたり、気分を損ねていることがある。謝り、反省すればいいのだが、それが出来なければ心に小さな棘が立つ。時間とともにそれは抜けてしまうものだが、そうでないデリケートな人はいるものだ▼本紙投稿欄「ぷらっさ」に林良雄さんの一文が載った(5月10日付け)。同船者の調査で連絡先を調べているさなか、ある同船者の夫らしき人の投稿が同欄に載った。文章を書く人であればーと住所を調べ、家族構成や近況などを知らせてくれるよう手紙を送った▼しかし返事はなく、その名前での投稿がなくなったことから、「偶然と懐かしさで相手の迷惑も顧みなかった私の軽率さ、身勝手な頼み事を幾重に悔やんだ。もしそれで筆を折られたのであれば深くお詫びしたい」と綴られていた。7、8年前の出来事だという▼無神経を自認するコラム子はビックリした。関心がないのか、と放っておくか、返信もないのか、と不愉快な気持ちを持つのが普通ではないか。それが相手の気持ちを忖度し、自分を責め続け、ようやく今、打ち明ける気持ちになったのだろう。さらに驚いたのは次週である▼件のご主人である鈴木登茂弥さんの投稿が載った。返信しなかったのは妻の問題であるし、筆を折ったわけでもないと書きつつ、「知らぬうちに心に深い傷を植えつけてしまったこと」へのお詫びをされている。新聞の配送が遅いなかで、この返信の速さ。その棘を抜いてあげたいというやさしさの表れだろう。これに気づいた同欄担当の対応含め、なんとも心温まる土曜日となった。(剛)

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