第3回 選挙とマーケティング ②

 前回のコラムで、今回の選挙でどの候補に投票するかで、かなりはっきりと階層の違いが分かるという仮説をもとに、第1回投票の各候補の得票比率に応じて、かなり強引ではあるが、各州の人口を当てはめて、エリア分析の参考にしたい旨を述べた。
 選挙自体は僅差でジルマ大統領の再選で終わったが、第1回投票と比べて地域における傾向はほぼ変わらなかった。変動要素であったシルバ票の多くはネベス氏に流れており、それによって接戦になったわけで、南部のリオグランデ・ド・スール州においては、劣勢を逆転したが、残念ながら人口が多く、シルバ票も多かった北東部でジルマ大統領が僅差分を取り込んだ勝利であったと言えそうだ。
 しかし、全体では決選投票も大きな傾向の違いがなかったので、第1回の投票をもとに、低所得者層に厚く、経済を停滞させた労働者党に投票した人の多くは低所得者層、ネベス候補に投票をした人を中間層以上と仮定して分析を進めると、エリア、州の新しい姿が現れてきた。中間層以上をターゲットとしている企業には興味深い。
 まず、全国でのジルマ大統領の獲得数は約8400万人、ネベス氏が約6600万人となるが、圧倒的労働者党の地盤で、中間層以上が少ないと思っていた北部の州の中で、ロライマ州とロンドニア州はネベス氏の方が得票数も多く、44%前後となっており、両州で100万人程度の中間層以上の人がいることになる。そもそもの人口が少ないので、ボリュームとしてはたいしたことはないが、北部のテストマーケティングなどには向いているかもしれない。
 北東部は、完全な労働者党の票田で、7割近く獲得した州も多い。中西部については、これまで分かりにくかったが、全州でネベス氏が勝ち、40%以上の票を獲得した。人口に落とし込んで計算すると、約600万人以上の市場となる。
 一方、南部、南東部はネベス氏が票を稼いでいるが、リオデジャネイロ州、ミナス・ジェライス州、リオグランデ・ド・スール州ではわずかではあるが、ジルマ大統領がネベス氏を上回っている。 サンパウロ州だけで、ネベス候補を選んだ人の人口換算が約2000万人、サンパウロを含む南東部が3300万人と、全体の約半数を占めている。その次に多いのは南部で約1300万人。事情がちょっと複雑なのが、人口で2位、3位のミナス州とリオ州である。
 前述したように、労働者党の方が比率的にはわずかだが高く、低所得者層も半数以上いることが予想される。中間層以上はそれぞれ、800万人、440万人と数は大きいが、それよりは中間層以上の比率が高く、1300万人程度の南部3州を攻めた方が戦略は立てやすいかもしれない。 これまでは、サンパウロの次は人口も経済規模も大きいリオやミナスへ向かいがちだったが、南部から攻めた方がサンパウロと同じ戦略が通用する可能性が高い。どちらにしても、中間層以上のターゲットに対しては、まず南東部、南部を攻めるという戦略は間違っていないようだ。
 その後をどうするかということであるが、その次は普通であれば、広い北東部の約800万人となる。
 北部、北東部の人口が大きい州は比率が小さくても、実際の数字は大きい。中でも、バイア州、パラ州、セアラ州を合わせるとネベス氏支持が、630万人前後となるが、中間層比率が高い620万人の中西部を先に手を付ける方が、効率は良いかもしれない。
 このように見ると、確かに南東部、南部の大都市圏が日本企業のターゲットとなりそうな層が多いのは確かであるが、その分競争も熾烈である。競争が激しい分野の場合、まず中西部、北部に工場をつくって、そこから攻めるというのも一つの選択肢になりそうだ。北部、北東部の州などはかなりインセンティブも期待でき、労働賃金も低めである。ここでまずはシェアを取り、経験と体力を蓄えて、大都市圏を攻めるのも、商材によっては面白いかもしれない。
 以上は、あくまで仮説で、実際には商品に合わせてきちっとリサーチをする必要があるが、ブラジルは広く、人種も多様なため、全国調査はお金と時間がかかって大変であり、正確な情報を得るのがなかなか難しい。ブラジルの大統領選挙は直接選挙であり、かつ電子投票なので、早く細かく数字が出るためマーケティングには活用しやすいデータと言える。
 ただ、「次の大統領にふさわしいのは誰?」と、質問は一つしかできないが…。(輿石信男・株式会社クォンタム代表取締役、ニッケイ新聞東京支社長代理)

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよ びビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場 用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。
 2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小 企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント 企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。