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神戸移住センターから見た移民史=日伯協会の黒田理事著す

 ブラジル日本移民に焦点を当てた著書『神戸移住センターから見た日本とブラジル』(黒田公男著、221ページ、神戸新聞総合出版センター)が今月、日本で発売された。来年は外交樹立120周年を迎えるが、日系移民の歴史は1908年、神戸港を発った笠戸丸から始まった。
 送り出した側の国立移民収容所(その後、神戸移住センター)に所在する「日伯協会」の事務局長や理事として、機関紙発行や展示会の開催を主導してきた著者ならではの、深い知識に本書は裏付けられている。
 たとえば65頁からは、1939年に杉浦千畝領事代理が在リトアニア領事館で、ドイツ軍に追われたユダヤ人数千人に人道的なビザを発給した際も、同センターやその付近に一時避難したとの説を紹介している。
 ここから希望を胸に旅立った移住者たちが苦難と努力の末見出したものは――を考えさせる一冊だ。第1回芥川賞受賞作の小説『蒼氓』はまさにこの建物を舞台に、物語が進む。当時、まったく無名だった石川達三も移民の群れに紛れて渡伯し、幸運の女神を呼び込んで小説家となった。
 元神戸新聞記者の黒田さんには、移住史関連の著書に『アローブラジル』(76年、私家版)、『ブラジルへの虹』(95年、六甲出版)もある。購入は各日系書店から問い合わせを。

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