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W杯開幕戦の観客席の様子(6月12日、Foto: Ricardo Stuckert CBF)
W杯開幕戦の観客席の様子(6月12日、Foto: Ricardo Stuckert CBF)

リオ五輪で抗議行動は起きるか?=不発に終わったW杯での抗議行動

 いうまでもなくサッカー選手の大半は貧困層から生まれている。世界に誇る優秀な選手が輩出される裏には、教育が行き届いておらず、サッカー以外に社会上昇の手段があまりない、という格差社会の現実が前提としてある。

ブラジリアのファン・フェスタ会場で、対コロンビア戦で代表チームを熱烈に応援するブラジル人たち(Foto: Fabio Rodrigues Pozzebom/Agência Brasil)

ブラジリアのファン・フェスタ会場で、対コロンビア戦で代表チームを熱烈に応援するブラジル人たち(Foto: Fabio Rodrigues Pozzebom/Agência Brasil)

 人口の大半を占める貧困層からスポーツの逸材をサッカーに集め、莫大な投資をしてエリート教育をする構造がある。例えばサントスFCは収入の1割を幼年青年チームに投資することをクラブの定款に定めており、その資金で全国に約100校のサッカー学校を運営している。そこに地域のめぼしい逸材を集め、勉強そこのけで合宿生活をさせて競わせ、優秀な才能をプロチームに吸い上げ、外国クラブに高く売る。そのようなサッカー産業の広大な裾野から、ネイマールのような天才的選手が育ち、世界に輸出されている。
 エスタード紙14年1月14日付によればサッカー選手の輸出は昨年だけで世界最多の1530人を誇った。金額にして3780億円にもなり、世界1位のコーヒー豆輸出額(2010年)の5294億円と比較しても、十分に一大輸出産業といえる規模だ。

14年7月4日のコロンビア戦で活躍するネイマール選手(Foto: Rafael Ribeiro/CBF)

14年7月4日のコロンビア戦で活躍するネイマール選手(Foto: Rafael Ribeiro/CBF)

 W杯本番では、大量の外国人観光客が目の前にいるのを見て抗議行動よりも「来客歓待」を旨とする国民慣習が頭をもたげ、試合展開の面白さ自体に国民の興味が集中し、抗議行動は不発に終わった。
 しかし「W杯で常勝であることは社会として喜ばしいことなのか?」――世界最多5度優勝を誇るサッカー王国の国民が、地元開催を機にそんな自問を始め、中流層の抗議デモという形で表れた。それに気付いたという意味で、ドイツに惨敗して4位で終わった代表チームの成績とは別に、ある意味、「画期的な大会」であった。

PB疑惑の捜査次第ではインピーチメントも

 統一選挙でジウマ大統領は大苦戦を強いられた。第一次投票まではマリナ・シルバ(ブラジル社会党=PSB)に追い上げられ、決選投票ではアエシオ候補(ブラジル民主社会党=PSDB)に薄氷を踏む様な戦いを迫られた。従来のPT組織票がどんどん削られ、ジウマ票はやせ細った。
 もともとは親PTだった6月抗議に参加した層や中産階級が、現政権への批判を強める中で、第一次投票で元PTのマリナに移り、決選投票ではかなりの部分がライバル党であるアエシオに乗り移ったと言われる。PT票が直接にPSDB票に変わることは難しいが、途中にマリナという親PT的人物を挟むことで〃乗り移り〃が可能になったようだ。
 W杯で不発だった現政権への抗議は投票行動に現れたが、過半数を占めるには至らなかった。しかし、選挙戦を通してどんどん拡大したことは間違いない。
 しかも途中から表面化したペトロブラス疑惑(PB疑惑)は、選挙後に大建設会社経営者が続々と逮捕される異例の事態に発展し、新年には政治家に捜査の手が広がると見られている。
 PB疑惑にまみれた政治家の名がPT、PMDB、PPなどの与党の中核から明らかになる展開が予想されている。経済情勢が好転せず、万が一、元大統領やジウマ政権主要閣僚の中から出てきたらインピーチメント(大統領弾劾裁判)――という可能性すらあるだろう。
 社会学者の中には「汚職したからといって、国民は投票する政治家を変えない」と指摘する識者もいるが、中産階級は違う。その層が年々増える中で2016年のリオ五輪は開催される。辛くも再選を果たしたジウマ大統領だが、リオ五輪前にも大規模な抗議行動は起きる可能性はかなり高まっていると言えそうだ。(深沢正雪記者)

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