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第13回 日本とブラジルで似た消費動向

 日本とブラジルでは、経済の規模や産業構造がまったく違い、20年近いデフレからようやく少しインフレの芽が出だした日本と、20年前のハイパーインフレは収まったが、毎年数%前後のインフレがあり、年々物価が上がっているブラジルを比較することはあまり意味がないかもしれない。しかし、昨年も日本?ブラジルを7?8往復する中で、ブラジルと日本で似た現象が3つ起きていることに気づいた。背景や理由は違っても消費、投資の現象が似て来ているのである。  
 まず第一は、購買層である。ブラジルは公定歩合が上昇していること、そして日本はアベノミクスによる株高により、両国とも富裕層の貯蓄が膨らみ、この層の消費意欲が旺盛になっている。ブラジルはインフレによって、日本は消費税アップによって、両国とも中間層以下の生活がアップアップしてきているが、両国の富裕層はどちらも、膨らんだ資産を元手に高級品、贅沢品を買いあさっており、ブラジルは高級ショッピングセンター、日本は百貨店の売上げが好調である。両国とも選挙が終わったばかりなので、この傾向は場合によってはあと3?4年は続く可能性があり、消費材メーカーは今、高級品のラインナップや生産を増やすべきであろう。部品・素材メーカーも売込み先は高級品・贅沢品の製造メーカーを狙うといいかもしれない。残念ながら、中間層はどちらの国もしばらくは我慢をするしかない。財政規律を厳しくして、公共投資を抑制するブラジルと、消費税の再引き上げを先送りして、ますます社会保障が重くなる日本は、ニューディール的な景気浮遊も期待できない。奇しくも、両国ともこれからオリンピックを迎えるわけだが、リオはペトロブラスを巡る巨額収賄事件で大手ゼネコン幹部が大量に逮捕され、工事の進捗も危ぶまれ、日本は東京一極集中是正による地方再生を掲げながらの東京五輪というちぐはぐさ。どちらも経済再生にオリンピックが果たす役割は限定的になりそうだ。
 2つ目は、そのオリンピックの限定的な効果が唯一どちらも期待できそうな分野=円安、レアル安による観光客の増加だ。ドル・ユーロを持って観光に来るには絶好の機会である。オリンピックにおいても、海外からの観光客が落とすお金は期待できそうだ。日本はすでに円安によるアジアからの観光客ラッシュが始まっている。
 3つ目は、その足を引っ張りそうな自然災害である。日本もブラジルも、近年の急激な天候の変化や天変地異による災害がすごい勢いで増えている。日本にいる時は、常に地震や津波の脅威を感じ、大雪、集中豪雨などによる土砂災害や交通機関の障害なども頻発している。同時にブラジルの特にサンパウロは、水不足に喘ぎながらも突発的地域的な集中豪雨による停電、倒木、冠水の災害が日常化しており、毎日雲の動きを心配しながらの生活となっている。これらの天災は治安と並んで、今後観光客誘致の障害となりかねない。逆に公共投資が期待できる分野である。
 両国を行き来していて、以上3点が日本とブラジルで共通して起こっている現象である。企業のマーケティング担当者は、富裕層向け、観光客向け、防災・セキュリティ向けの商材開発などを意識して進めると両国で市場を掘り起こせるかもしれない。

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。  2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。

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