裏千家助教授=上原さん、天谷茶を紹介=「移民の挑戦に痛いほど感動」

 昨年8月にあった裏千家中南米大会の折に、サンパウロ州レジストロ市の天谷茶園を訪問した裏千家茶道助教授の上原美奈子さん(55、東京)=神奈川県在住=が、茶業に携わる日系人らの取り組みを日本で広めている。
 NPO法人日本茶インストラクター協会理事や東京国際大学付属日本語学校茶道クラブ講師をつとめる上原さんは、「自分で摘んで自分で製茶するマイオリジナルティー作り」をコンセプトに、同県清川村に茶畑も運営する茶農民でもある。
 2013年に農水省の事業で初訪伯し、日本茶セミナーを10日間に亘って展開した際、当地の茶史に関心を抱き、帰国後も文献で追いかけ協会紙に紹介するなどしていた。
 昨年は、当地で茶畑から工場までの工程を唯一自社で続けている天谷茶園(紅茶が中心)での茶交流のほか、元茶工場や移民にゆかりのある教会や博物館を訪問した。「短い滞在の中で、茶園の100年の物語に触れた。自分がお茶を育てていることで、移民の方の挑戦に痛いほど感動したのだと思う。それらをほとんど知らない日本の茶業界に、何か伝えなくてはという想いが日々強くなった」と振り返る。
 帰国後、歴史と合わせて茶の香りを楽しむ歴史茶会「歴茶」や、NPO法人「現代喫茶人の会」の会合で天谷茶を紹介。当地茶業の歴史や現在の取り組みについて講演を行い、現地の方法で茶を振舞ったところ、味も南米ならではの取り組みも大好評を博した。「それどころか、年配の男性は涙しながら『全く知らなかった。恥ずかしい。天谷さんのお茶を買うことが、茶業に係る移民の方々の人生への感謝であり、ブラジルの茶の歴史への評価だ』とおっしゃられた」と喜ぶ。
 岡本久江さんの著書『茶の花』も涙を誘い、「そのままNHKの朝ドラにしたらよい」という声まで上がったという。
 また上原さんは「カザロン・ド・シャーは素晴らしい文化財なのに、日本で全く知られていない」とし、「お茶で南の国々とつながる会」も立ち上げ、JICAの活動団体として登録。専門家を動員して茶文化、移民の歴史を伝えていく意気込みだ。
 「政府の事業でもなく、どこかの援助でもなく、植民地産業でもなく、『個人がお茶を育てたい』という取り組みから育ったブラジルの茶業は、歴史的にも大変珍しいケースで本当に素晴らしい。これからもブラジルのお茶の歴史を追いかけ、少しでも正しくその深い歴史を伝えられるよう勉強を続けたい」と話した。

【大耳小耳コラム】

 日本でブラジル移民の茶業の歴史を伝え広めている上原美奈子さんは、「日本には様々なお茶の研究機関があるが、ブラジルで茶業を拓いてきた方々は目の前のお茶と向かい合い、機械をご自分たちで作り、素晴らしい製茶の文化を作り上げて来られた」と感じ入っていた。天谷茶園の応接室に飾られてあった「拓魂」の二文字は、「今の日本の茶業界にこそ必要なキーワードと感じた」とか。上原さんが紹介することにより、当地のお茶と移民の〃拓魂〃が、日本茶業界にも新風を吹き込みそう。