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杉田監督と三好プロデューサー
杉田監督と三好プロデューサー

「日本と真逆、でも近い国」=震災映画の杉田監督来聖=予想外の反響に喜び語る=上映は本日20日まで

 聖、ベロ・オリゾンテの2市で本日20日まで上映中の、震災孤児の生き様を描いた長編映画『人の望みの喜びよ』(ポ語名「O Desejo da Minha Alma」、9日付け詳報)の杉田真一監督(すぎた・まさかず、34、兵庫)が15日に来聖した。同監督の長編デビュー作品で、昨年2月にあったベルリン国際映画祭で、子どもが審査員を務めるジェネレーション部門の特別賞に輝いた。18日、観客との交流のためサンパウロ市レゼルバ・クルツラル館を訪れた杉田さんは、「まさかブラジルで上映されるなんて思ってもみなかった。日系の方が沢山来て、日本語で一生懸命話しかけてくれたし、『30年ぶりに映画館に来た』という人までいた。日本と真逆なのに、すごく距離が近く感じた」と喜びを語った。

 同作品は3月28日に東京で公開され、名古屋上映を終えたばかり。欧州からも連絡があったが、真っ先に公開が決まったのがブラジルだった。ベルリン国際映画祭で作品を観た配給会社「Supo Mungam Films」のスタッフが伯公開を決めた。同社のグラシエさんは「日本映画を配給するのは初めてだけど、どこの市でも好評。上映後、泣いている観客も沢山いた」と手ごたえを語る。
 杉田監督の来伯は「現地の方がどういう感想を持つかは、その場に行かないとわからない」という現場主義の信念による。交流の感想を尋ねると、「思ったより(想いが)熱い。震災の映画ではあるが、どの国にも当てはまることが沢山ある。あの姉弟と同じ境遇の人もいて、身近に感じてくれた。日本人が作った映画なのに、別の国の人が共感してくださったことが一番うれしい」との喜びの心情を吐露した。
 作品には、出来事の起こった年も場所の記述もなければ、説明も台詞もごくわずか。終幕すら姉弟の行く末は明らかにされず、「あの二人はどうなったのか」との疑問が残る。作品の中で全てが完結する「娯楽映画」とは一線を画す。
 そこには「過去の出来事として限定せず曖昧にしておくことで、自分の物語として観てもらえると思った。思考の始まる引き金になるような、観る度に新しい発見が生まれるような映画にしたかった」との意図が込められているという。
 制作人数はわずか十数人。しかし、「少数精鋭だからこそ各メンバーの思いが凝縮できた」という。主演の大森絢音さん、大石稜久くん二人の迫真の演技も見所だ。
 これがデビュー作となった三好保洋プロデューサー(35、長崎)も同行し、「時間があれば見に来て頂き、何かを感じて頂きたい。日本の風景を懐かしんで頂ければ」と来場を呼びかけた。
 上映日程は次の通り。
【サンパウロ市】▼エスパッソ・イタウ・デ・シネマ・アウグスタ(Rua Augusta, 1.475, Consolação)で午後4時、8時、9時40分~▼レゼルバ・クルツラル(Av. Paulista, 900)で午後3時50分、5時35分、7時15分、9時~【ベロ・オリゾンテ】シネ・ベラス・アルテス(Rua Gonçalves Dias, 1581, Lourdes)で午後2時、5時50分、9時40分~。※入場券は各映画館のチケット売り場、もしくはサイト(www.ingresso.com)も利用可。


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 中学2年生のころに兵庫県伊丹市で阪神・淡路大震災を体験した杉田真一監督は、「学校が真っ二つに割れ、いくつもの家が全壊した」と当時を振り返る。卒業するまで被災者が学校の体育館や教室に暮らしていたにも関わらず、復興した所ばかり焦点を当てる報道と、現実とのギャップに違和感を持った。「それを見てみぬふりをするしかなかった」との思いが2011年の東日本大震災で蘇り、必然的に初の長編デビュー作のテーマが「震災」になった。子どもの視点に立って作られた作品なので、時間のある方は子どもや孫も連れて来場を。

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