29回 ブラジルはグローバル化のバロメーター ②

 日本からブラジルに進出する製造業、メーカーの方々は、当然だが必ず日本や欧米で販売している最先端、もしくはもっとも自信のあるものを売ろうとする。
 また、自社の製品は、品質が高く、絶対に壊れない、簡単には故障をしない、とおっしゃる。さらに、展示会では反響がいいので売れるはずだと。しかし、実際に販売を始めてもなかなか結果が出ず、思ったように売れないので首を傾げる。
 ブラジルで生活をすればよくわかるが、買ったものが何でもすぐに壊れる。このような国で育った人は、どんなにその商品の品質が高くて壊れないと言っても信用しない。
 また、それを目で見える形で証明するのも難しい。いったん1年、2年使ってもらうしかないが、そういうわけにもいかない。だから、ブラジルではアフターケアの体制がキチンと出来ていて、文句を言う場所があって、トラブルにすぐに対応してくれそうな商品しか売れない。
 販売店だけつくって、ハイクォリティだからとアフターフォロー体制を作らないでタカをくくっていると、まったく売れない。そして、それを代理店のせいにしているケースがある。
 代理店ははっきりしていて、売り易いもの=適度な価格でアフターが万全なもの、もしくは利幅の大きいものを売る。だから、売れないのは代理店の問題ではなく、メーカー側に問題がある場合の方が多い。
 またブラジル人には、ブラジル人の生活がある。育った水も、空気も、土地も違う。週末の活動も違えば、物事の判断基準・価値観・宗教もまったく違う国で、日本で売っているもの、もしくは欧米で売っているものと同じものをそのまま売ろうとしているわけだ。
 ブラジル人にはブラジル人なりの心地よさがあり、味覚があり、固定観念があり、喜ぶツボがある。そこを外すと、どんなにクォリティが高くても売れない。もし、どうしても同じものを売りたければ、ブラジル人の固定観念を変える必要があり、それが欧米、韓国企業が良く行う、大量の広告投資を伴うブランディングである。
 もし実際に、ヒュンダイのように新聞に毎日広告を出し、テレビに大量にCMを流し、ノベラでプロダクト・プレイスメントを仕掛けるのであれば、日本や欧米で販売しているような仕様のままでもある程度は売れるだろう。
 成功している外資系企業は、ブランディングもやりながら、ブラジル人、ブラジル文化を良く調べて、自社がグローバルで売っている商品も、彼らに合うようにカスタマイズして販売している。
 例えば、P&Gの紙おむつも最初はまったく売れなかったが、徹底的に調査した結果、ブラジル人には特殊なギャザーがない紙おむつは売れないことに気付き、それを取り入れたら売れるようになった。
 タイヤもブラジルの道路は独自の特性、状況があり、ゴムの成分比率は独特なものが必要となる。それをわからずに製造販売をして、トラブルになって撤退したメーカーもある。
 ブラジルは、ヨーロッパからの移民が多いため、ヨーロッパのメーカーも強く、アメリカ企業と競り合っており、かつ韓国・中国メーカーも本気で投資をして来ている。
 ある意味グローバル市場の縮図であり、アジアと同じ戦い方では勝てない。ブラジルは、どこまでターゲット・マーケットを理解し、市場に合わせたカスタマイズができるかという、企業のグローバル度が試される市場だ。

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。  2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。