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在日日系社会の教育意識=エスコーラ・フジの場合=(6)=地方にある国際問題の現場=行政で共有されない意識

1対1のサポート教室

1対1のサポート教室

 「フィス」の夏休みサポート教室は午前か午後の2時間。基本的には一人の児童に一人のボランティアがつく。ボランティアは高校生が多い。コーディネーターを務める白銀真由美さんはこう話す。
 「来たり来なかったり、ということもあるけれど、指導の高校生に懐いて、今日もあの人がいいって指名する子もいる。来てしまえば2時間とても集中していてすごいと思う」。
 小学校会場以外は親の送り迎えが必要だが、市内の各地から参加する。中には、エスコーラ・フジの児童が同校の宿題を持って来たり、中学生が自習に来たりすることもあるという。
 冨田さんは「今や高校を目指すのは当たり前。全日制への進学も増えたし、塾に行かせる外国人も多いです。でもそこがゴールになっていると、すぐにやめたりやめさせたり、卒業しても結局お父さんと同じ工場で働くことが多くある。就職のときには日本人に負けない強みを身に着けてほしいけれど、まだそこまではなかなかね」と話す。
 また、冨田さんは教科書の問題も指摘する。「話し言葉に問題がない子供でも、教科書は読めないケースがある。教科書特有の言葉が多すぎる。ボランティアの高校生も大変そう」。
 「フィス」の活動によって、公立学校へ通う外国籍児童へのサポートは比較的手厚いようにも見えるが、根本的な解決にはなっていない。これらの活動はほとんどボランティアの声から生まれ、彼らの奉仕なくしては実現しないからだ。
 「学校からこれをサポートしてほしいという要望は全くこないので、教室での様子は私たちには伝わらない。支援員さんに聞いてやっと、あの子は生活で精一杯で勉強以前の問題、ということが分かったり。学校はその年が無事に済めばいいのね。わからない子はおいてけぼり。一人の外国籍の子がどうしたら日本の教室で授業を普通に受けられるかという計画がないのがジレンマね」。
 産業社会の労働力不足によって、地方が国際化するジレンマが、否応なく教育現場にしわ寄せとなって現れている。
 本来、国が率先して対応すべき「国際問題」だが、現実には市の行政に押し付けられている。そんな中、市民安全課の窓口である「フィス」と教育委員会・学校が、「地域の教育」が国際化する現実にどう対応して行ったらいいのか―という将来ビジョンを共有できずにいる。
 冨田さんにエスコーラについても聞いてみた。「帰国の予定がなく、小学校にいられない父兄には、こどもの教育について長期的に考えてほしいと願います。中学生の年になって急に日本の高校に進学させたいというのは難しいし、どこの高校でもいいってことではないでしょ。公立校にいても一時の感情で学校をやめさせたり、帰国したり。子供にとっての2、3年は長いんです」。
 15歳を過ぎてしまえば中学には戻れないし、中学卒業資格がなければ高校受験もできない。
 「苦しい時期も一緒に頑張る。親も言葉ができないままではなく、先生に訴える力をつけて、親子で乗り越えてほしい。勉強を頑張るのは子供だけど、モチベーションを上げるのは親の役目。乗り越えれば絶対将来が広がるから」と語る。
 そこには、個人の進路の問題だけではない、日々、外国人からの相談を受ける冨田さんの気づきがある。「最近教育に関する相談より、年金、病院、介護の相談が多いの。これからもっと増えますよ」。
(つづく、秋山郁美通信員)


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 「フィス」の白銀真由美さんは、「クーラーが効いている部屋で、みんなと勉強できる。わからなければ聞けるという場所があるのはいいことね」という。父兄を対象にした懇談会では、自分たちの悩みを話し合うのはもちろん、「学校からの成績表の見方」「成績を上げる方法」「生活の言葉と学習の言葉の違い」などをテーマに講演を行っている。冨田さんは「フィスで働くのは外国生活で不便を感じた経験を持つ人が多い」と話す。相手の身になって相談を受けることでこのようなアイディアを思いつくのだろう。

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