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第45回 日本人が信じられないブラジルの不都合な真実 ⑤

 会社設立後、業種・業態によって、ブラジルでは次にやらなければならないことが全く違ってくる。商品によっては、ブラジルで販売するための認証を政府機関から取得しなければならない。そこでまた、前回記した会社設立時と同じ役所の真実に再会する。
 認証取得後の販売段階では、本当に高い税金と格闘しなければならない。このように、ブラジルには悪い意味での不都合な真実が多いわけだが、実は良い意味での不都合な真実もある。
 変な言い方だが、要するに他国にはあまりなくて、本来はこれまでの不都合を補って余りある非常にプラスの真実なのだが、日本人、日本企業にはピンとこない、駐在員がいくら論理的に説明をしても、本社に理解されにくく、感情的に納得してもらえない、非常に不都合な真実がいくつかある。
 まず代表的なのが政策金利。インフレを抑えるためにということで、この3年近く会議毎に上がり続けて、すでに14・25%弱で高止まりしている。ということは、ブラジルの銀行にレアルで1年寝かせておけば、14%前後の金利収入があるということだ。この金利収入を有効に活用すれば、他国での事業投資に比べて、確実でダイナミックな事業展開ができる。
 例えば最初に大きく資本金を入れておけば、営業開始の準備ができる1年の間に、会社の当分の運営経費、もしくはブランディングをするための広告宣伝費をまかなえる軍資金を金利で作ることができ、当初から大胆に展開しても、資本金があまり目減りしないということである。
 当然、欧米・韓国企業はこの武器を最大限有効に活用して、どーんと資本金を入れ、毎日のように新聞広告を出したりしている。今や新聞の広告費は日本よりも高いのではないかと思われるブラジルであるにもかかわらず、である。
 ところが、日本の場合はちょっと事情が違ってくる。いくら本社に説明しても、理屈はわかるが、額に汗して稼いだお金ではないアブク銭は身につかないとばかりに、「感情的に」同意をしてもらえない。
 現場ではまわりのライバル社がこれを武器に戦いを仕掛けている時に、アブク銭はダメだとか、結果が出ていないのに追加投資はできないとか言われると、いつまで経っても同レベルでは戦えないので結果が出せないのはあたり前で、そのうち担当者がやる気を失くしてしまったとしても無理はない。
 特にブラジルの市場においては、ブランド確立は非常に重要であり、各市場で1、2強しか大きな利益を上げられないような構造になっている。業界トップとそれ以下の売上・利益格差が非常に大きい。ブランドがありシェアを持つと、商品を日本よりも高い金額で販売することができ、利益率が極端に高くなるのだ。
 しかし先ほども述べたように、広告宣伝費の高いブラジルで、ブランドを確立するためには、かなりのお金がかかる。それを少ない資本金から出していくと、アッと言う間になくなってしまう。一方、大きく資本金を入れた会社は、その金利分をどんどん広告につぎ込んでも、ほぼそのまま資本金は残っているので、それを今度は、販売店へのリベートやインセンティブに使える。
 当然販売店は1台売った時の利益率が高い方を売るに決まっている。ユーザーからのブランド認知で大きく差をつけられた後に、販売店でもライバル商品を勧められると、どんなに頑張っても勝ち目はない。
 非常に論理的で明らかな事実ではあるが、日本やアジアで小さく産んで大きく育てる成功体験を持っている日本本社には、感情的に受け入れられない不都合な真実なのだろう。(つづく)

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。  2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。
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