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ソファーの向こうにある天国

 ネルソン・ゴラさん(74)はサンパウロ市の特別養護ホームに入院する愛妻が「死にたい」と願ったのを真剣に受け止め爆弾で心中を図った。エスタード紙10月11日付によれば、昨年9月のある日曜午後3時半、妻の胸の上に爆弾を置き、自分が覆いかぶさって抱きしめ爆発させた▼爆発音に驚いた関係者の通報で警察が到着した時、妻は亡くなっていたが、彼には脈があった。遺言には「キチガイだと思われるに違いない。でも救いのない妻の苦しみに終止符を打つにはこれしかなかった。私も妻も幸せだった。息子よ、許してくれ」と書かれていた▼病院で目を覚ましたネルソンさんは失敗を悟った。しかも殺人容疑で懲役20年の可能性も。数カ月前に「死にたい」と言った妻だが、事件の頃には話しかけても返事が返ってこない半ば植物状態になっていた。だが妻の同室者は「彼女は嫌なら叫ぶ事はできた。だけど静かに受け入れた。きっと分かっていたはず」と証言した▼彼は「人生はあんなに苦しむためにあるんじゃない。後悔はしてない」と同記者に語った。心理療法の一環でダンス教室に参加し、ある未亡人から「一緒に暮らさない?」と誘われた。でも「妻は若い時ダンスが上手だったが、結婚してからまったくしなくなった。今からダンスを習うのは彼女に対して失礼」と断った▼息子は自宅を売ろうとしたが、やはり断った。彼はなぜかベッドでなく、ソファーで寝るようになった。「いつかこの家に妻が現れる。ここが無くなれば彼女が道に迷う。だから僕はこのソファーで寝て、いつものように彼女に優しく起こしてもらうのを待っている」。(深)

ネルソンさんを取材したエスタード紙10月11日付の記事

ネルソンさんを取材したエスタード紙10月11日付の記事

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