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新年占う編集部座談会2=ざっくばらんに行こう!《ブラジル社会編》=〃泥〃まみれの一年振りかえる

レヴィ財相(当時、15年11月18日、Foto: Antonio Cruz/Agência Brasil)

レヴィ財相(当時、15年11月18日、Foto: Antonio Cruz/Agência Brasil)

レヴィ辞任の意味するもの=3月からデモどうなる?=リオ五輪は本当に大丈夫か=「中国の成長率が下がるとサマルコのダムが決壊する」

深沢正雪(編集長)=いやあ、2015年は凄い年だったね。ちょっと近年まれに見る大変動、ハラハラドキドキの年だった。
 京都の清水寺が毎年12月、その一年を一言で表す《今年の漢字》を発表するけど、さしずめブラジルの場合は「泥」じゃないかね。
 ラヴァ・ジャット(ジェット噴射洗浄機)作戦でジャブジャブ洗っても、首都ブラジリアの〃汚職の汚れ〃はしつこくて、なかなか落ちない(笑)。北パラナのテーラ・ロッシャ(赤土)のようだね。その〃汚れ落とし〃が、ついに12月には大統領だけでなく、下院議長の罷免審査にまでつながった。
 そして11月5日にミナス州マリアナ市で決壊した鉱滓ダムの物理的な泥、泥、泥…。
 なんというか、まさに泥まみれの一年でしたね。
鈴木倫代(2面デスク)=毎朝、毎朝、新聞を開くのが嫌になるような気が重いニュースばっかりですよね。
深沢=2015年はクーニャが下院議長になった年初から、ジウマ大統領との対決の図式に、みんなの目が奪われた。ジウマ第2次政権の目玉人事はレヴィ財相だった訳で、彼こそが活躍しなければいけなかった。でも、まっさきに居なくなって欲しかった2人(失礼!)が、こびり付いた〃泥〃のように残り、一番居残って欲しかったレヴィが最初に居なくなった印象だね。

2014年大統領選挙のひどさ加減の巻

沢田太陽(翻訳記者)=2014年10月の大統領選挙のひどさが、2015年にツケとして廻って来た感じですね。選挙中、PTが主張する政策は雇用の保持だけ、あとはライバルの悪口しかいってない。
深沢=ああ~、ひどかった。いかにして相手の足を引っ張るかという異常な選挙だった。嘘ばっかりならべて、最後まで国民を騙しきって、今そのツケを払っている。
沢田=最悪の流れですよ。選挙中は悪い数字を隠しまくっていたのが、選挙が終わってからボロボロ出始め、大統領支持率が14年末から一気に下がり始めた。それをなんとかするという大任を果たすために登場したのが、レヴィですよね。
鈴木=ブラジルには「大統領支持率は経済の成長率に比例する」という鉄則がある。だから、まず経済を立て直さないと、支持率は上がらない。そうなると、2016年の地方選挙の結果に響き、そこが悪いと2018年の大統領選挙に直結する。
深沢=レヴィはリオ州財務局長として財政再建の大ナタを振るった手腕を高く評価されているから、「連邦政府にも財政緊縮が必要だ」とジウマが理解したことを示す人事だと評価された。
 レヴィを前面に立て、破たん寸前の国の財政バランスを立て直すのに、政権が一丸となって取り組むのかと企業筋や市場筋は期待していた。
井戸規光生(翻訳記者)=ああ、今となってはむなしい期待でしたね。
深沢=単純な話、経済が好調だったルーラ政権の時はよかったけど、リーマンショック後に経済が怪しくなったのに、第1期ジウマ政権は同じ調子でお金を使い、金庫が空になっても使い続けた。
 PTの金看板である社会福祉政策(ミンニャ・カーザ・ミンニャ・ビーダ、ボウサ・ファミリアなど)に度を越えて使っていたのをペダラーダ(粉飾会計)で隠していた。実際は2014年からかなりひどくなっていたが、選挙前なので本当の数字を隠していた。
 選挙が終わってから本当の数字が出始め、不況が顕在化したことで税収が大きく減って、失業率がどんどん上がり、消費者心理はさらに冷え込み、雪だるま式に赤字増が進んでしまった。
鈴木=収入より支出が大幅に大きい不均衡状態が続けば、国家財政は破綻します。だから収入の足りない分は、大幅増税するか、国債発行などで補うしかない。
沢田=増税するには野党やPMDBの一部の反対が根強く、難しい。ならば削減しかない。ジウマは「10省庁を減らす」とか大見得を切ったが、あまり大きな効果はなさそう。
深沢=日本のようにゼロ金利の国ならいざしらず、ブラジルのように基本金利が14・25%という世界有数の高金利の国で、ここ数年のように国債を大量発行し続けたら、利払い負担だけで大変な額になる。遠くない将来にデフォルト(債務不履行)の危険性が増すことは間違いない。
沢田=だから、世界3大格付け会社の一つS&Pが15年9月9日に、フィッチは10月15日に続いてこの12月16日にも格下げして、三つのうち二つで投資不適格級に落とされた。このことで、世界の機関投資家からまともな投資先とは考えられなくなった。そして、ムーディーズも格下げを示唆している。つまり、まだまだ下がる可能性がある。

「成長至上主義」と「財政バランス主義」の根強い対立

ネルソン・バルボーザ企画相(当時、15年6月10日、Foto: Lula Marques/Agencia PT)

ネルソン・バルボーザ企画相(当時、15年6月10日、Foto: Lula Marques/Agencia PT)

鈴木=政府会計で一番大事なのは「基礎的財政収支」(プライマリー・バランス)。これは、「過去の債務に関わる元利払い」以外の『支出』と、公債発行などを除いた『収入』との収支バランスで、黒字が大きいほど経済状態が良いと判断される。
 少なくとも、基礎的財政収支が『均衡』していれば、その年の政策的な経費(支出)が、税収などの収入でまかなわれていることを示す。
 ジウマ政権の場合、格差是正・社会福祉政策の予算を大きく削らないと黒字にできない。にも関わらず、ネルソン・バルボーザ企画相(当時)はそれを許さなかった。
深沢=レヴィは辞職を賭けて「財政収支の黒字0・7%堅持」を主張したが、結局、ジウマは支出削減のすくないバルボーザ案「0・5%」を選んだ。0・5%を決定した会議に、レヴィは呼ばれてすらいなかったとか。
 この時点でレヴィは1秒たりとも大臣でいる意味はないと悟ったんでしょうね。本当は1月の定例人事刷新まで待つはずだったのが、フィッチの格下げもあって速攻で辞職した。最後の殺し文句は、「(財政バランスを軽視した今の経済政策の)結果は、時が立てば分かる」というもの。その通りだろうね。
鈴木=レヴィの後任には成長至上主義論者のバルボーザが横滑り。
 伯字紙には「2015年の年頭からレヴィとバルボーザが対立する場面が数回あったが、常にジウマはバルボーザを支持した。最初から彼が財相だった」とまで書かれる始末。実際、レヴィは立つ瀬ないでしょうね。
深沢=一般的に、支出超過時の経済開発戦略としては、(1)「まず財政緊縮を図って国家財政のバランスをとり、その上で経済拡大政策に投資する」という『財政バランス優先主義』的な考え方と、(2)「経済拡大を最優先すれば、結果的に税収が増えて国家財政は好転する」という『成長至上主義』の二通りの対処法がある。ちょっと「鶏が先か、卵が先か」的な感じがある。
 レヴィはどちらかと言えば現実派の(1)、ジウマやバルボーザは理念重視でイケイケの(2)。この違いが最後まで埋められなかった。
 ジウマは本来ブラデスコ銀行のルイス・カルロス・トラブッコ社長に財相をまかせたかったとエスタード紙12月19日付に出ていた。ジウマがその相談をしたとき、社長が「自分の代わり」に指名してきたのが同行専務のレヴィだったとか。社長はその辺のズレ、不確定さを最初から見抜いていたのかもね。自分の出る幕じゃないって。
井戸=じゃあ、2016年はレヴィという重石が無くなって、さらに緊縮財政はおざなりになって、借金重ねて過剰支出を維持していく方向なわけですか?
深沢=基本的には、そっちの方向に行くだろうね。なんといっても新年10月は地方選挙だから。いま、北東伯を中心にPT票を支えているボウサ・ファミリアを減額したら、選挙に悪影響を与えると心配しているだろうね。

〃千両役者〃クーニャの「清水の舞台」的演技の巻

クーニャ下院議長(15年12月15日、Foto: Valter Campanato/Agência Brasil)

クーニャ下院議長(15年12月15日、Foto: Valter Campanato/Agência Brasil)

井戸=単純化していえば、国の財政より、自分の保身とか、来年の選挙を心配しているわけですか?
深沢=そうだろうね。クーニャは2013年ぐらいから徹頭徹尾、ジウマと対立する姿勢を崩さない。ラヴァ・ジャット作戦の捜査が自分に迫っていることを知っていたから、2015年年頭に下院議長席を狙い、その立場を濫用しまくって保身を図ってきた。
 その手段の一つとして、なんと大統領罷免審議の受理まで使った。いわば「清水の舞台」から飛び降りるぐらいの一世一代の奥の手。クーニャはリオ州選出だから「ポン・デ・アスーカルから飛び降りる」かな。
 「よっ! 千両役者」って掛け声を入れたいぐらいの〃憎まれ役〃というか〃悪役〃が板についた人物。保身に関しては病的なぐらいの執着があり、周りを巻き込む交渉力の凄さはハンパじゃないよね。
 まあ、客観的に言って、あんなに職権濫用しまくってまで、自分への罷免審議を遅らせたいという状況から、逆説的に分かるのは、それだけ「知られたくない重大な秘密がある」ということ。あの才能が〃良いこと〃に活かされていれば、「時代を変える寵児」になれたかもね。

レナン上院議長(15年12月2日、Foto: Jane de Araújo/ Agencia Senado)

レナン上院議長(15年12月2日、Foto: Jane de Araújo/ Agencia Senado)

鈴木=レナン上院議長はその逆ですね。クーニャはジウマに力で対決したけど、レナンは終始ジウマにすり寄る態度。そうすることで自分への捜査の手をさえぎる事ができるかも、と考えたのかもしれないですね。
深沢=でも年末、レナンにも最高裁から銀行口座の情報開示の許可がおり、結局は捜査の手が伸びた。もう時間の問題でしょうね。
 大統領はインピーチメント(罷免)、下院議長は最高裁で罷免審議開始、上院議長にも捜査の手――という事態が、なんと同時に起きている。これは、どう考えても国家的異常事態でしょう。
井戸=そんな時なのに、連邦議員のみなさん、23日から普通にクリスマス&新年休暇をとられたわけですよね。すごい度胸ですよね…。
深沢=面白いのは、クーニャとレナンは態度こそ逆だけど、「ジウマが連邦警察や連邦検察庁を操っているはず」と勘違いしている点は共通している。もし操っていたなら、メンサロンも起きなかっただろうに、その辺の理解が不思議ですよね。
 そして百鬼夜行のPMDB首領、テーメル副大統領は、その「ジウマ対クーニャ」という大きな図式を抜け目なく利用して、「漁夫の利」的に大統領の座を狙っている。PTはPTで、大統領の座を死守することと新年の選挙を考えるのが最優先にみえる。
 その結果、国民に一番関係のある経済政策が、結果的に先送りされ続けてきた(涙)
井戸=なんて可哀想な国民なんでしょうか!

権力闘争の陰で後回しにされる経済政策の巻

深沢=しかも経済政策が先送りされていることに危機感を感じているのは、国内の政治家より、国外の投資家たち。
 政治家の視線が余りにも内向きというか、こう言っては申し訳ないが、〃ブラジリア村〃の「コップの中の嵐」に向き過ぎているよね。外国からどう判断されているかを、冷静にみられる人があまりいない。だからレヴィの言うことが、聞き入れられない。
 あのブラジリアという大陸中央部の「陸の孤島」的地理環境にいると、自分たちが世界の中心にいると誤解してしまうんじゃないかね。
 海岸地方の都市とかに首都があれば、もう少し開けた視線が維持できた―ということはありませんかね。
井戸=じゃあ、もう一回、遷都ですか。いよいよ次はサンパウロ!(笑)
深沢=という冗談はさておき、本題のレヴィ辞任の経緯だよね。
 レヴィは、基礎的財政収支の黒字目標0・7%堅持は、格付け会社から降格されない最低限の条件だと見ていた。だから大臣職を賭けて主張した。でも、ジウマは選挙に悪影響を与えそうな社会政策削減をしたくなかったから0・5%を支持、途端にフィッチは降格させた。いかにレヴィは正確に外の状況を判断していたか、だよね。
鈴木=でも、やっぱり最初に言った通り「大統領支持率は経済の成長率に比例する」という鉄則からすれば、経済政策を先送りしたことが、今後、PTの致命傷になる可能性がありますよね。
深沢=政治や文化、社会など全ての人の営みは、経済活動の上に乗っていると思えば、経済軽視は、日本的に言えば「天に唾する」に等しい行為ですもんね。
 PTのような左翼思想が強い政党には、経済や資本主義を悪者にしすぎる傾向があって、理念ですべてを解決できると思っている節がある。
 バルボーザ財相という選択肢では、現在1割しかない史上最低の大統領支持率を改善できない可能性がたかい。驚くべきは、インフレ率はうなぎのぼりで10%を超え、遂に支持率を抜いたことだね。
 ちなみに、政治評論家ケネディ・アレンカールは12月18日付ブログで《最高裁による大統領罷免手続き確認で、罷免派の勢いはそがれて、大統領は一息ついたが、まだ安心はできない。バルボーザ財相による財政緊縮をゆるめる政策で経済がさらに悪化したら、インピーチメントという焚火に油を注ぐことになる》と書いている。

〃目くそ鼻くそ〃大統領と下院議長の罷免の巻

インピーチメントの手続きを決めた最高裁の様子(15年12月16日、Foto: Jose Cruz/Agencia Brasil)

インピーチメントの手続きを決めた最高裁の様子(15年12月16日、Foto: Jose Cruz/Agencia Brasil)

鈴木=政府は当初、大統領罷免審議を年内にも〃お蔵入り〃させて終わらせたい気持すらあった。でも、最高裁の審議手続き確認に1週間かかったこともあり、結局、年明けに特別委員会設置の投票をやり直すことになり、カーニバル後にインピーチメントは本格化しそう。
沢田=一方、クーニャ下院議長の罷免を審議する下院倫理委員会も、下院が年末休みに入ったから続きは来年2月以降。その間、ロドリゴ・ジャノー検察庁長官は、最高裁に下院議長更迭提案をしたが、これも遅すぎた感がある。最高裁はクリスマス前からカーニバルまで休みに入ったから、結局、その審議もカーニバル明け。
井戸=つまり、本会議場の投票機を壊したり、議員どうしが撲りあったり、あんな大騒ぎまでしたのに、結局は今年もクリスマスからカーニバルまで、ブラジリアはまともに働かないんですか?!
鈴木=その通り。連邦議会は1月11日ぐらいに臨時招集されるという話もあるけど、最高裁は2月からだから、クーニャ罷免の大きな判断は、それ以降になった。
深沢=一分一秒をあらそって世界中の株式証券市場が変動する時代に、この1年間を左右する危機的な財政状態を放っておいて、そのまま2月まで首都は休眠状態…。みんな度胸ありすぎだよね。
 クーニャにしても、ジウマにしても2、3月頃から罷免審理が始まり、判定が下されるという日程ですよね。「ブラジルの新年はカーニバル後に始まる」という言葉が、やっぱり今回も当てはまった。
沢田=それに、ラヴァ・ジャット作戦はこれからが本番だしね。2015年は、クリチーバの連邦裁判所による政治家以外の捜査や裁判が中心だったけど、年末からいよいよ政治家に焦点を当てた捜査が始まり、クーニャ議長をはじめPMDB議員の事務所や自宅に家宅捜査の手が入った。60人とも言われる政治家の捜査が、新年に本格化する流れ。
深沢=ラヴァ・ジャット作戦のいわば「政治家編」が3月から本格化する。これから数年がかりで、どんどん連邦議員が議席剥奪されていって、今は補欠扱いになっている日系議員、安部順二とかがどんどん正規議員に繰り上げになっていくかも。

どんどん狭まるルーラ包囲網の巻

ジウマ大統領とルーラ前大統領(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

ジウマ大統領とルーラ前大統領(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

沢田=12月にルーラは「情報提供者」の立場で連邦警察に聴取をされたし、彼に対する包囲網が徐々に狭まっている感じがしますよね。新年には大きな展開がありそう。
鈴木=ペトロロンの関係の捜査で、サントアンドレーのセルソ・ダニエル市長誘拐暗殺事件に関する新しい情報も出てきたみたいですしね。
深沢=加えて、新年の人事刷新でも財相はおそらくバルボーザが続けるだろうから、今の経済政策が継続・強化される方向であり、さらに経済は悪化する方向かも。
鈴木=それからいけば、2015年の経済成長率は約マイナス3・5%と言われているから、2016年もほぼ同様かと。
深沢=いや、さらに悪くなる可能性すらもある、ということだろうね。
 2016年度の政府予算が12月に可決されたが、それにはCPMF(小切手税)の収税がちゃっかり計上されている。今後近いうちにCPMFが復活される見込み、つまり増税だ。
 一方、レヴィ蔵相の辞任直後に「1ドル=4レアル」まで下がった。このレアル安傾向はしばらく続きそうで輸入に関わる企業は辛い。インフレが止まらないから基本金利(Selic)を新年早々、もう一段階上げるとの見通しもささやかれており、企業の資金調達はさらに難しくなる。
 12月にアメリカまで石油輸出を開始して、さらに価格は低迷して、ペトロブラス再建は困難に。マリアナ鉱滓ダムの堤防決壊事故でヴァーレの資産まで差し押さえの対象になった。米国は利上げ傾向、ブラジルは国債格下げ傾向、もう外国の投資資金はもうブラジルには向かわない。
 国内政治はさらに混迷、こんな感じで経済の低迷が続けば、ドル建てのブラジル国債はますます〃ジャンク債〃扱い…。
 まあ、これらを複合して考えれば、新年の早々の先行きはどう見ても良くないよね。
井戸=いわゆる、お先真っ暗状態ですね。
深沢=最近、しみじみと思い出す言葉があるんだよね。「柿の実は熟さないと落ちない」って。これだけ悪くなっても、まだ〃熟〃していないのかって、12月13日のパウリスタ大通りのデモを取材してて思ったね。
 クーニャが嫌だから今回のデモには参加しないと、国民は選り好みをしている余裕のある段階で、大統領罷免から一歩も二歩も置いている気がしたね。
 経済より理念重視のPT的な内向きさが、とことこん酷い結果を現して、どうしようもなくならないと国民の覚醒につながらない。ブラジルの場合、インフレや景気変動は、経済学的要素より、集団心理学的部分が大きいですよね。
鈴木=今よりもっとひどい状態って、例えばコーロル罷免直前の1992年前半の様な年1千%のインフレとか、あれぐらいですか。あの頃は大変でしたよね。朝と晩でスーパーの値段表が違うと言われた時代ですよね。
深沢=さすがに今回は、あれほどひどくなる前に〃熟〃すと思いますよ。

いったいどうなるリオ五輪の開会式の巻

深沢=ラヴァ・ジャット作戦のルーラ包囲網、インピーチメント、クーニャ罷免の最高裁判定など、まさにそれら一連の動き再開の矢先、3月13日に次のメガ・マニフェスタソンが予告されている。これが次の大きな転換点かも。12月のような不発でなく、大規模なものなれば〃国民の審判〃が10月の選挙で下る流れになる。
井戸=でもその途中、というか選挙直前の8月から1カ月間、リオ五輪があるんですけど。一体どうなるんでしょうか? 五輪の開会式とかどうなっちゃうんですかね。
沢田=まだ、誰もそれどころじゃない。
鈴木=開会式では誰が挨拶するんでしょうね?
深沢=W杯の開幕試合の時のように「エイ、ジウマ、ヴァイ・トマ・ノ・◎ー!」(ジウマ、オカマほられろ!)と大合唱になったら大変?! 世界生中継でね。五輪では前代未聞の事態。
 個人的には、リオ五輪みたいな外国の目が集まる時は大人しくなると思うけどね。W杯の時も大したマニフェスタソンは起きなかった。
井戸=では、リオ五輪開幕前にひと騒動の抗議活動が起き、本番中は意外に大人しくなるわけですか。そして、立派にやりとげる、と。
深沢=ああ、きっとちゃんとやると思うよ。例えば、あの酷い経済状態の中で、歴史に残る「リオ・エコサミット」を立派にやり遂げたし、サッカーW杯もしかり。今回もリオ五輪が終わった後に経済最悪の状態になって、ようやく国民も〃熟〃したと感じる状態になるのかも。
 ブラジル人というのは、意外なほど「我慢強い」という気がするよね。特に政治家の酷さに対して。

中国の成長率が下がると鉱滓ダムが決壊する?

沢田=最近、雨続きでサンパウロ州のカンタレイラ水系に水が溜まってきたのはありがたいですね。
深沢=そういえば、2015年6月に赴任した中前在聖総領事が〃雨男〃との噂ですね。確かに、彼が赴任してからアルバレス・マッシャードの招魂祭とか、県連の日本祭りなど1日は大雨に降られている。冗談で「総領事公邸をカンタレイラ水系に一時的に移転させたら」とかいってたら、本格的に降り始めた。アウキミン州知事は、総領事に表彰状を出した方が良いですね(笑)。
鈴木=えっと、脱線はその辺にして、と(苦笑)。
深沢=あっ、すみません。

ダムが決壊した翌日のマリアナ市の様子。汚泥の濁流が屋根まで達している(Foto: Corpo de Bombeiros/MG, 05/11/2015)

ダムが決壊した翌日のマリアナ市の様子。汚泥の濁流が屋根まで達している(Foto: Corpo de Bombeiros/MG, 05/11/2015)

鈴木=で、ミナス州の方は逆に心配ですね。11月5日にマリアナ市にあるサマルコ社の鉱滓ダム決壊事故が発生しましたが、この雨で水位が上がり過ぎて、他のダムも危険にさらされる可能性があると報道されています。
深沢=鉱滓ダム決壊事故に関して、評論家の話を聞いていると、中国の経済成長率が落ちて、鉄鉱石などの鉱物資源価格が下がっていることが影響しているとの指摘がありましたね。本紙2面も12月10日付で「鉄鉱石価格4年で5分の1」と報じています。
 サマルコや親会社のヴァーレは、世界の鉄鉱石価格が下がったから、採算を取るためには増産して薄利多売せざるをえなかった。でも、利益が薄いから、本来すべきだったダム設備投資を怠った。その結果、過剰に輩出された鉱物ゴミの量にダムが耐えきれなくなって決壊したという説です。
 「風が吹けば桶屋が儲かる」じゃないですけど、「中国の成長率が下がるとサマルコのダムが決壊する」みたいな、そんな関係があるとの専門家のコメントを聞いて、なるほどと思いました。
鈴木=それに、サマルコのダム構造は一番安上がりに造れて、一番危ないタイプだったと報じられています。フォーリャ紙では、三つの図があって比較していましたが、思わず「えっ!」と思ったぐらいひどい構造。
深沢=他の鉱滓ダムも全部徹底的に検査しないと怖いですよね。
鈴木=思えば、ここ何年で何カ所か鉱滓ダム決壊事故が起きているのは、大方が同じ構造だったらしいですね。
深沢=だいたいミナス州は名前からして鉱物資源を意味している訳ですから、要注意な州です。州内だけでも700カ所くらいダムがあるのに、監査して回る役人が4人しかいないって報道されてました。マリアナ事故の直後から、本来なら野党代表としてガンガン追及すべき地元ミナス州出身のアエシオが妙に静か、環境政策が看板のはずのマリナ・シウバもなぜか積極的な批判をしなかった。ヴァーレは結構、文化や環境事業にお金を出す企業ですから、どっかで世話になっていたのかな―と邪推してしまいますよね。

汚泥が通り過ぎた後のマリアナ市は廃墟のようになった(Foto: Antonio Cruz/Agência Brasil, 07/11/2015)

汚泥が通り過ぎた後のマリアナ市は廃墟のようになった(Foto: Antonio Cruz/Agência Brasil, 07/11/2015)

沢田=12月に入って罷免騒ぎで、マリアナの話が段々紙面に出なくなった。それどころじゃないのかな。
深沢=マリアナの〃被害〃は、リオ・ドッセ流域や海岸部全域にかけて住んでいる何十万人の生活に加えて、動植物、生態系一般がいっぺんに直撃をうけたことですよね。
 こう言ってはなんだけど、パリのテロよりもはるかに大きな被害を地球に与えていると思うよね。でも死者や行方不明者の数が20人程度と少ないから、メディア的にはインパクトがない。魚が何トン死んだところで、「イ・ダイ?」(だから何)という意識が国民の多くにある。
鈴木=流域に住むインディオ部族の生活はまったく成り立たなくなってしまった。魚が採れない、水が使えないとなれば、あとは、自然の中での生活を捨て、都会に出て文明化するしかない。彼らには何の責任もないのに、今まで数千年も先祖代々培ってきた生活を捨てなければならない。でも、そういう話はあまりブラジルの新聞にもでないですね。

ミナス州に始まるドッセ川は、エスピリットサント州の美しい海岸部に汚泥をもたらし、海の色を変えた(Foto: Fred Loureiro/Secom-ES)

ミナス州に始まるドッセ川は、エスピリットサント州の美しい海岸部に汚泥をもたらし、海の色を変えた(Foto: Fred Loureiro/Secom-ES)

深沢=そうなんですよ。事故の直後2、3週間は「こんなに大変だ」「こんな悪影響も」って、一生懸命に記事にしてたけど、同じ話は二度かけないから、もうでなくなる。でも、その人たちの生活の困難はずっと続くわけですよね。インディオもしかり。環境問題に対する意識の低さが、全ての問題の根底にある気がしますね。
鈴木=とにかく、サマルコ鉱滓ダム問題も、川に流れ込んだ物理的な泥の処理と同様、ラヴァ・ジャット作戦のように徹底的に会社の〃泥〃を洗い流して、発生原因を明るみに出してもらう必要がありますね。
一同=まったく、同感です。
鈴木=ペトロブラス汚職疑惑にしても、マリアナ鉱滓ダム問題にしても、どっちもブラジルの歴史に〃泥〃を塗るような、ひどすぎる話ですね。
深沢=おお、鈴木さんうまいこと言いますね。座布団一枚!(終わり)

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