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『百年の水流』開発前線編 第一部=北パラナの白い雲=外山脩=(81)

南米土地会社事務所跡

南米土地会社事務所跡

市長解任

 ところが、2011年、この市村之が、93歳という高齢で務めていたウライー市長職を、市議会から解任される(!)という信じ難いスキャンダルが突発した。
 解任前は、90歳を越す市長ということで、新聞やテレビで大きく報道され、大統領から激励される――という華やかさであった。が、それが一転……。
 一体、何があったのだろうか? 
 議会による解任の理由は、市役所の市村側のスタッフの会計上の不始末――とされる。しかし金額的には僅かなモノであり、市村の財力を以ってすれば、簡単に処理できた筈である。が、発覚の時期が遅すぎ、事務処理上、それができなかったという。ただし、これは表面的な事情であり、裏では、市議たちとの間にトラブルがあったようである。

政治道楽

 この一件、まず、市村が市長を務めていたという点からして、おかしかった。ウライーはムニシピオといっても、人口は1万余でしかない。日本語の感覚では、市というより町である。なんで市村ほどの大物が、しかも90歳を越す高齢で態々、そんな格下の端役についていたのか――。
 ところが、彼がウライーの市長になったのは、実は、これで五度目だった――のである。1960年代から、度々その椅子に座っていた。理由を当人は、四度目の時、雑誌のインタビューで、「市の財政が悪化する度に、引っ張り出されてきた。ワシが自腹を切って穴埋めするので、それを期待して……」と、語っている。
 そういう一面もあったであろうが、筆者は、その記事を読んだ時、政治道楽の臭いを嗅いだ。後に一住民から聞いた所によると、やはり「市村さんはポリチコが好きだった」という。政治に手を出すことは、実業家がもっとも慎むべき道楽である。
 その政治道楽の癖が治らなかったために起きた結末が、このスキャンダであったろう。
 若き日、営農規模を一挙に拡大できたのも、ロッテリアに当たったからだという。その後の事業の推移に関しても、判らぬ部分がある。たとえば、負債がどの位あったかは不明である。晩年、規模は極端に縮小していたという。
 それと、90歳を過ぎて、公職につくという行為自体、無茶である。体力も思考力も相応に衰えていた筈である。現に解任の翌年、94歳で没している。
 余り厳しいことを言わず、かつて大ファゼンデイロだったお爺ちゃんが晩年に犯した小さな失敗――とユーモラスに捉える方法もあるが……。

史料館

 2014年の暮れ、筆者はウライーを訪れた。サンパウロ―パラナ鉄道の線路が未だ残っていた。表面が光っていた。貨物車が時々通っているらしい。駅は小さな建物で、入り口の戸には錠がぶら下がっていた。
 すぐ傍に、南米土地会社の事務所だった建物があった。木製で、昔のままという。市役所が管理しているという。壁を真っ赤なチンタで塗ってあった。史料館に改装することになって、そうしたという。日系の住民が「素人がやるものだから……」と舌打ちしていた。が、ウライーが日本人によって創立されたことが、これで歴史に残ろう。
近くに帝国繊維の旧工場もあった。別の会社が使用していた。
【六章=引用資料】牛窪襄『ウライー開拓五十年史』、その他。

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