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もしルーラの妻が司法取引に応じたら…

官房長官就任式で嬉しそうなルーラとジウマ(Foto: José Cruz/Agência Brasil)

官房長官就任式で嬉しそうなルーラとジウマ(Foto: José Cruz/Agência Brasil)

 ルーラは庶民の心に響く言葉を紡ぎ出す天才だ。野党時代の彼が88年に言った名言「貧乏人が盗めば刑務所だが、金持ちなら大臣になる」が先週から、皮肉を込めて見直されている。連邦警察から逃げるように17日、慌しく官房長官として入閣したからだ。これでジウマがいつ大統領罷免されても、第3次ルーラ政権が始まるだけになった▼カーニバル直後からルーラにはサンパウロ州海岸部グアルジャー市の高級リゾート地にある三層マンションを、ラヴァ・ジャット作戦で摘発されたOASから特別待遇で入手する寸前だったことや、アチバイア市にある豪華別荘をまるで自分の物のように利用してきたこと等々が暴露され始めた▼つまり、小学校出で旋盤工出身の庶民派大統領というカリスマ性で人気を博してきたルーラだが、大統領時代に築いた名声と汚職による余得を、後継者に継続させ、大富豪同様の生活をするようになっていたようだ。その挙句、逃げるように「大臣になった」訳だから、まことに本人の言葉通りで感心する。マルフやサルネイですら小者に見えてくる▼現政権中枢を巻き込んだなりふりかまわない〃有言実行〃ぶりにはため息しかでない。ルーラが今後、最高裁に起訴されれば、ジウマは曾根崎心中ならぬ〃ブラジリア心中〃だ▼ルーラが「クリチーバ共和国」と呼ぶことから、モーロ判事を中心とする同地の連邦地方裁判所の動きは、まさに〃独立〃した司法であることがよく分かる。〃ルーラ帝国〃傘下かと噂される最高裁なら息のかかった判事が複数おり、先行案件が山積みだから、起訴されても結審までに10年かかってもおかしくない。その間に再び大統領になって徹底的にもみ消しをはかる可能性すらある▼ルーラ本人は入閣によって最高裁扱いの特別待遇になれる。だが、同様に連警の捜査対象である妻や息子らは一般人だ。「ルーラが官房長官に就任か」と16日に報道された直後、妻マリーザ氏は気分が悪くなりシリオ・リバネース病院に緊急入院した。もしや入閣を知らなかったのかもしれない。いずれ彼女や息子がクリチーバに連行されたら、結果的に自分だけ特別待遇した夫に対し、どう思うだろうか▼最近のジウマ大統領による怒り丸出し演説を聞くたびに、軍政時代に拷問された経験が彼女を強くしただろうと思える。周りがどんなに説得しても辞任はありえない。とはいえ、ルーラの妻や息子はそんな経験を持たない一般人だ。実際、ジウマの側近だったアマラル上議ですら司法取引を交渉中であり、いずれは…。もしそうなれば、ブラジル人が大好きなノベーラの筋書きによくある家族内の骨肉の争いになる。グローボ局のノベーラより100倍面白いだろう▼インピーチメント(罷免)を「ゴウペ」(クーデター)と呼ぶPT勢を見るにつけ、ブラジルの民主主義の未熟さを痛感する。憲法に書かれている法的な手続きをクーデターというのだから恐れ入る。民主主義を体現する制度「選挙」で選ばれた政治家に任せれば、本来は国が動くはず。だが道徳意識が低く、民主主義が未熟なら、まともな政治家が選ばれず、ラヴァ・ジャット作戦のように司法が大活躍することになる。してみると、司法による政界洗浄は民主主義の最後の砦だ▼万が一、司法までが〃ルーラ帝国〃に下れば、次に国を立て直す手段は本当に軍事クーデターしかなくなる。実際に南米では頻繁にそれが起きてきた。今回の事態が司法の段階で踏みとどまるよう、心から祈りたい。(深)

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