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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(47)

「私がこんなことを言うのも何ですが、今回、仕事でいろいろお話をお伺いして思ったんですが、社長には、誰か心の支えになってくれる人が必要じゃないですか? それは、家族、友人、あるいは恋人かもしれませんが、身近にいて、社長のことを本当に愛して考えてくれるような人ですよ。私、社長より長く生きてきてようやく分かったんですが、そういう人間って、時には煩わしく思うこともあるんですが、大切にしなきゃいけないんですよね。その大切さに気付いた時には、相手はもう身の回りにいなかったりしますからね」
 自分より若い人間と話すといつも出てくる、偉そうで説教じみた話がまた出たかと思って黙っていると、木村社長が反応してきた。
「ジュリオさんの言うことに同感ですよ。今思えば、ブラジルにアナを残して帰国したのは、アナのためというより、自分の都合のためでした。南米でアナが私を受け入れてくれたように、日本で私がアナを受け入れてあげればよかったんです。ひょんないきさつから、大久保のぼろアパートで妹のカロリーナと過ごし始めた頃は、仕事も生活も大変な時期でしたが、何か毎日楽しかったです。今思えば、そんな新婚生活をアナと送ることができたかもしれません」
「カロリーナさんは、ここにいるリカルドさんと『そんな新婚生活』を送っていたんですよ」
「カロリーナから聞きました。強制送還されたけど、ある日系人の方のおかげで、また日本に来れたと。何か不正な手段を使ったんでしょうが、結婚した旦那さんとの生活について語るカロリーナは、本当に楽しそうでした。お金がなくても、信頼できるパートナーと励ましあって生活できるのは幸せだと言ってました・・・」
 リカルドは、いつの間にか黙り込んで何も言わなくなった。
「カロリーナと旦那さんには、本当に申しわけないことをしたと思っています。それから、カロリーナからペドロの居所を聞いてなかったので、今日こちらにお伺いすれば、何か情報が得られるかと思いました。カロリーナとの約束だけは必ず守りたいのですが・・・」
 木村社長は涙ぐみながらそう言うと、私とリカルドに深々と頭を下げて出て行きそうになった。
「あっ、社長、忘れ物です。まずこの新聞。先日のインタビュー記事が載っています。それから、このメモ。サンパウロにいる息子さんの連絡先が書いてあります」
 その夜、私は、サンパウロのセルジオ金城にメールを送り、事の顛末を知らせるとともに、それまでの情報提供についてお礼をした。

【第22話(エピローグ)】


 11月に入り、秋の気配が深まったある日曜日、私はリカルドを表参道にあるシュラスコ(ブラジル風焼肉)のレストランに誘った。その日はジュリアーナがギターを弾いて歌う予定だった。
 レストランは自宅の近くにあるので、早めに行ってソーセージをつまみにビールを飲みながら待っていると、12時半過ぎにリカルドがやって来た。
 リカルドの後ろに、男女の二人連れの姿が見える。どこかで見たなと思いきや、リカルドの愛すべき同僚フリーター君とその彼女のアドリアーナだった。
 南米では、誰か一人を招待すると、その友達の友達まで付いて来ることがよくある。まあ、リカルドと二人よりは、若い二人がいた方が賑やかで楽しいし、店の方も予約より人数が増える分には大歓迎だ。
 南米流に、リカルドとフリーター君とは握手で挨拶、ガロータ(ブラジルの女の子)とは、またしてもフェロモンに当てられながら頬を付け合う挨拶をした

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