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ルーラさんの功罪=パラナグア 増田二郎

 この頃、テレビをつけたり、あるいは新聞や週刊誌をめくると、目に入るのはPT(労働党)政権の汚職事件ばかりです。その水増し予算や公共事業費ピンはねは通常の度を越し過ぎていて、ここに至ってとうとうジルマ大統領の弾劾裁判に発展しようとしています。
 ブラジルの歴代大統領にも、規模の大小こそあれ、汚職問題はありました。記憶を遡れば、20数年前にはコロール大統領も汚職事件で罷免されています。しかし、今度のジルマさんの罷免問題は、彼女だけの責任だけではないようです。元凶は前大統領のルーラさんから始まったようなのです。
 では、前大統領ルーラさんの生い立ちから見ていくことにいたしましょう。彼は東北ペルナンブッコ州出身で、幼少時、母たちと共に出聖するのですが、バス代が払えなかった家族は、俗に言うパウデアララと呼ばれるカミニョンに乗って上聖したようです。
 親父さんは数年前サントスに来ていて、すでに他の女性と同棲していたので、長兄の世話で上聖し(彼等は港湾労働者)サントスに居を構えます。
 それから苦節10年、青年になったルーラさんは、サンパウロ市近郊のサンベルナルド・ド・カンポ市に居を移します。そして、機械工養成所の免状を習得します。その免状をもって一人前のトルネイロメカニコとして働き始めますが、そこでは労働組合のメンバーとしても頭角を現し、10数年後には押しも押されぬ労働組合の一台リーダーとして、全伯にその名を轟かせます。
 折りしも時代は軍事政権末期の直接選挙要求運動の花盛りで、ルーラさんは民主化運動の重鎮タンクレード氏や、政界の貴公子として一目置かれていたカルドーゾさん達と運動を共にし、軍事政権を間接選挙で倒し、民間人の政権奪回を成し遂げます。
 しかし、あれほど期待されていた勝利者のタンクレード氏は、運命の皮肉に翻弄され病に倒れ、政権はお飾り的、副大統領に招聘されていたサルネイ氏に転がり込みまう。中道右派だった彼はいろいろ試みますが何れも中途半端で、天文学的数字に膨れ上がったインフレに押し潰されてしまいます。
 結局、政界の貴公子カルドーゾ大統領の登場によってインフレは退治され、8年間のPSDB政権が誕生したわけです。8年後、後継者選びというより再選問題の無理が祟り、その年の選挙はPT労働党生みの親的存在だったルーラさんが勝ち取ります。
 さあ、それからです。彼が大統領として公約していた貧困救済の善政を敷くのはもちろんですが、その裏で選挙参謀や同志たちと諮った事は政権続投の秘策です。まず、選挙に勝つ最高の方法とは、浮動票を少なくし義理堅く投票してくれる人たちを増やす事と悟ります。
 貧困層の人たちをPT陣営に釘付けにする方法として、彼らに家族生活手帳を発行する妙案を考え付きます。ルーラの腹心たちは国家予算を膨大に使い、東北地方だけでなく、ブラジル中のPT党員の公務員を総動員して家族生活手帳を政権の目玉として発行し続け、その票のおかげで勝ち進んで来たのです。もちろん、大統領としてブラジル中の貧困層2千万人の底上げ達成という功績は、後世に伝えられることでしょう。
 しかし選挙に勝ち続けるため彼らは、貧困層の人たちだけでなく一般の人たちをも喜ばせ票に結びつけようと、選挙演説当日の人寄せに人気歌手を多数招待したり、シュラスコ食べ放題ビール飲み放題など民衆を烏合の衆として楽しませ、その勢いで勝ってきたのでした。その膨大な経費は、国営事業からのピンはねで賄ってきたようです。
 ルーラ政権再選の8年も、その後で選んだ後継者のジルマさんも、ルーラさんの人気とその手で勝たせ、その4年後の再選も野党連合にあわやとまで追い込まれましたが、東北地方の票田のおかげで勝つ事ができ、今日に至っているのです。
 しかし最近、ルーラさんの往年の神通力は、その勢いを失っているようです。と言うのも、彼は自分の力を過信しすぎました。彼らの羽目を外した汚職行為に、法務省の若手役人たちが不正を憎む正義心をもって、多数動き出したからです。
 PT政権が16年続き、その後もまた自分がと目論んでいたようですが、ここに来てジルマ大統ともども追い詰められ、ジルマさんは弾劾裁判に、そしてルーラさんは汚職問題での裁判に―と行き着くようです。
 『奢れる平家久しからず』ですかな。

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