二つのルーツ、リオで表現=笑顔の走り、恩返しに

 【共同】南米初の五輪開催地となったリオデジャネイロで、日本とブラジル両方にルーツを持つ選手が世界に挑む。陸上400メートル障害のブラジル代表杉町マハウ選手(31)は日系四世。「笑顔で走ることが恩返しになる」。陸上の世界に導いてくれた日本への感謝の気持ちを胸に、祖国を駆ける。
 父親の仕事の都合で8歳のころ来日。学生時代に日本国内の陸上大会で活躍し、実業団から誘いがあった。「日本人の五輪選手を出したい」。相手は国籍の変更を求めたが、ルーツを捨てることはできなかった。「ブラジル人であることが、自分にとって自然だから」
 卒業した日本の専門学校のチームに所属し、ブラジル代表として2008年北京五輪に出場。ロンドンは逃したが、祖国での五輪出場を目指し、日本でトレーニングを続けてきた。
 親族からルーツは北海道にあると聞かされた。曽祖父は子どものころ日本を離れてブラジルに渡り、家族は剣道や卓球を教えていた。スポーツにゆかりのある家だった。来日したころ「やんちゃだった」自分を導いてくれたのもスポーツ。仲間と競い合うことで日本に溶け込んでいった。
 今年3月に生まれた次男に俐生と名付けた。「ブラジルでも日本でも通用する読み方を」と夫婦で考え、自然に浮かんだ。五輪を意識したつもりはなかったが「頭のどこかにリオへの思いがあったのかも」。2歳の長男世成の名前は、ブラジル出身のF1世界チャンピオンと同じだ。
 息子2人は、父の応援のために初めて“祖国”の土を踏む。記憶に残るかは分からないが、ルーツを感じる機会になることを願っている。
 会場の競技場は改装前、6連覇したブラジル選手権で走った経験があり「日本の競技場に似ている部分も多くて、相性はいい」。ブラジル代表として走る自分への応援で「ホーム」の雰囲気も期待できる。常々口にする「日本への恩返し」の条件は整った。
 目標は決勝進出。「こわばった顔だと、応援してくれる人に楽しんでもらえない」。笑顔でゴールするつもりだ。(共同=若松陽平)