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ニッケイ俳壇(902)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

われに六句虚子入選句虚子祀る
鹿鳴くや二人を娶り戻り来ず
木いも擦る土人女乳房ゆすり上げ
木いも擦る土人女丸太に掛け並び
河波の飛沫とび来る青嵐
ゴヤス野の空の広さよ星月夜

   カンポスドジョルドン    鈴木 静林

七夕や願いは手芸上達を
道譜請弁当がかこむ大榾火
一日燃ゆる山家囲炉裏の大榾火
薪不足今年は暖炉飾り物
三日続く霜は山野を焼きつくす

   ペレイラ・バレット     保田 渡南

牧枯れて牛無き起伏哀しかり
臥牛の起きしぶくあり牧枯るる
抱擁の背を叩けば冬ぬくし
夜学子の父なき故にかしこけれ
汚職劇世界に見せて夜半の秋

   イタチーバ         森西 茂行

清らかな白木蓮の雰囲気を
リッシャ咲く土地は肥沃と知られおり
目覚ましの規定に副って起床する
朝寝して春眠家して過ごす人
サビア鳴く自然の調べ美しき

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

リベイロンを囲む山々皆眠る
手土産は冬苺なり孫娘
悴む手さすりさすりて俳句記す
月は蔭り山手部落は暮れ早し
日本種の口当たり良き冬苺

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

寒波入り又降霜の報頻り
敬老の思ひ出写真撮られ居り
杯を汲む又一才を重ね持ち
古き電話帳探してかける君の名も
やがて来る春に千鳥がとび交わす

   ソロカバ          住谷ひさお

春隣りオリンピックへ十五日
凧の空ソロカバに聖火着きにけり
紅イペーの並木くぐりて聖火リレー
花マンガ側走りぬけ聖火行く
冬晴れや聖火迎える人の波

   サンパウロ         鬼木 順子

通い路や足止め眺む冬椿
路上人荷高く積みて寒をよけ
風少し青空ながめ干葉吊る
手にのこる蜜柑の香り春来たる
立春や洗顔の水手に溢れ

   サンパウロ         寺田 雪恵

晩年に宵長しながしと春隣
さくら見ず逝きし移民や桜咲く
さくら湯に入りしと云ふ友声やさし
散り止まぬさくらと遊ぶ老移民
塩漬けのさくら静かな老二人

   アルバレスマッシャード   立沢 節子

新築の成りと山荘牧小春
ぬれ細り小犬飛び込む初時雨
鷹とんで親どりひよこを呼び集め
首おとす如くに落ちて寒椿
着ぶくれてポケットの物さがす

   ヴィネード         栗山みき枝

重ね着も毛糸づくめの部屋ごもり
目覚めてももう少しと床の中
窓ごしに朝のしるき円か月
人世は一歩一歩の峠道
枯木立一山下枯れ寒々と

   サンパウロ         小斉 棹子

バイオリンの銭乞ふ音色春浅し
灯明も春の灯となり亡夫照らす
健脚の亡夫を偲び青き踏む
公園を横切る小路春浅し
今日も又いつか昔に亀鳴ける

   サンパウロ         武田 知子

歩も弾み鳥語も弾み青き踏む
吹く風の未だ刺のあり春浅き
春浅き湯気立ち登る中華街
七転八起の曽孫や青き踏む
ふと口をついて出る歌早春賦

   サンパウロ         児玉 和代

雲切れし薄日に風の春めけり
本を閉じ眼閉ざせば亀鳴ける
遅れる歩風に誘そはれ青き踏む
野菜切る刃切れよき音春浅し
解き放つ日常旅の青き踏む

   サンパウロ         西谷 律子

春浅き少年うすき髭生やし
亀鳴くや亡き人偲ぶ句座の池
水を出て鳥羽根ひろげ青き踏む
子ばなれの子の背を押して青き踏む
春浅き日本館訪ふ訪伯団

   サンパウロ         西山ひろ子

聞き忘れ言ひ忘れかも亀の鳴く
頼りなき声の受話器に春浅し
ふと思ふ今夜の食事青き踏む
目じるしの紅イッペーや右折する
続け出る欠伸に泪日向ぼこ

   ピエダーデ         小村 広江

踏青やたまわる命生きぬかん
日溜りに座して実梅をまぶしめり
亀鳴くや返事なき人と話もし
青春の燃え立つ色のスイナン花
小春日の句座なごやかに花あふる

   サンパウロ         原 はる江

亀鳴くや卆寿の多き俳句会
紅イペーの玉咲きゆれる朝市へ
病床の遠き妹よ春浅し
久に来し山家の庭の青き踏む
人々の寿命が伸びしと亀の鳴く

   サンパウロ         川井 洋子

青き踏む大地に生きる移民かな
亀鳴くや火星移住のプロゼクト
スリッパに戯れる子猫の野生かな
暮らす中感じる春のまだ浅し
春が来た三つやり度き事がある

   サンパウロ         岩﨑るりか

赤靴の幼女は跳ねて青き踏む
何もかもわすれて句作春の人
老の春句にめぐり会い歳時記をくる
花冠皇女気取りで青を踏む
厳かに静まりかえる春の寺

   リベイロン・ピーレス    西川あけみ

浅き春人出少なき夕市場
春の風うれしき知らせ連れて来し
春寒し夫婦別れのぐちを聞く
春の夜シネマにバイレ送くなる
春浅きハウスのビニール飛ばす風

   サンパウロ         西森ゆりえ

血の色のスイナンふと倦む時ありぬ
新しき生命育てつ春を待つ
寒いことばかりが話題の電話かな
ことの外今年色濃しイペーロッショ
女性知事誕生の春来たりけり

   サンパウロ         大塩 祐二

湿原に霞たちいて春浅し
踏青や子等嬉々として野に遊ぶ
野に遊なつかしさを呼ぶ蓬草
民宿の馳走や山菜蕗のとう
春浅しバス停の人風をさけ

   サンパウロ         大塩 佳子

オリンピックブラジルの子等に新世界
上向いても涙こぼれしわが青春の日
女学生夢歌いつつ青き踏む
眼とじれば村の夕べ亀の鳴く
祈りから作る平和へ原爆忌

   ヴィネード         栗山みき枝

落葉焚きいつもの山あい里の暮
里の暮牧広々と枯葉色
寒風に椰子大木のゆれにゆれ
冬蜂の限りの生命削る

   ピラールドスール      寺尾 貞亮

玄米や滋養も味も老の春
紅色で人を慰さむ寒桜
寒月や満月にして登りけり
友の訃を三度も聞きて冬寒し
早春や小山羊鳴いて乳を乞う

   サンパウロ         平間 浩二

青き踏む芝生に宿る生気かな
病める身に居座る寒波耐えてをり
浅き春山一面に萌え木色
亀鳴くや逆縁の子の夢枕
春浅し平和の祭典リオ五輪

   サンパウロ         太田 英夫

良薬に勝るる小春日和かな
逝き方を羨む人の墓参かな
全快す妻にうつせし春の風邪
近よれば尻を向けたる雨蛙
御馳走に春蝿止まり箸とまる

   アチバイア         吉田  繁

移民船イルカの群や大西洋
メキシコの国民の花ポインセチア
薪フォゴン皆で囲んだ暖炉かな
虎落笛枕に泣いた新移民
枯枝の剪定終えて春を待つ

   アチバイア         東  抱水

啓蟄や宇宙開発進みをり
啓蟄や宇宙の息吹き聞こえ来る
空低く残る寒さの雲流る
麻州路の大農地帯一番雨
春立つや専業農家多き村

   アチバイア         宮原 育子

吟行兼ね訪ひ呉れし郷つつじ咲く
鮮烈なポインセチアの花明かり
虎落笛牛売り尽くせし牧減る
戯れつ船に従き来る群れイルカ
花卉祭近づく街に霜降りる

   アチバイア         沢近 愛子

冬の蘭ミニ咲きなれど健気なり
バス通りポインセチアの似合う家
吟行の空に飛行機雲延びる
ポンイセチア見事に店を飾りたる
寒さ来て部屋にとり込む胡蝶蘭

   アチバイア         菊池芙佐枝

冬晴れや小さき孫連れ飛機の旅
冬木立風鈴の鳴る出湯の宿
これぐらい暖房要らぬとひとり言
毛糸編みほぐして又編む椅子の人
日曜や水面に映る寒桜

   マイリポラン        池田 洋子

寒空にわら運ぶ鳥いっ心に
孫だけを見てるサンジョン祭の輪
猩々花賑う人の彩赤し
暖房の一つとてなき部屋つらし
イルカショー孫と見ている夢の中

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