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「拝啓、Aさんお元気ですか?」=ジアデマ 松村滋樹

 ブラジル事情に詳しくて、いつも新聞や実業雑誌に投稿されていたAさん。街でお会いすると、いつも向こうから声を掛けて来られ「元気ですか」と挨拶される。私の人生の師であった。
 停職となったジルマ大統領が属するPT(労働者党)はルーラ元大統領の人気で与党となったが、貧乏人の集まりの労働者党やその支持団体CUT(労働者組合ウニオン)が政権を握れば、『金のなる木』の政府が崩壊すると心配されたAさん。
 コロネル(大佐)と呼ばれる有力な大地主や世襲政治屋に永年騙し続けられたブラジル国民は、Aさんの警告に耳を貸さず、当時『清潔・清楚』な印象を持った労働者党に半数以上が一票を投じた。
 政治屋の御曹司コーロル大統領が1992年にインピーチメント(政治追放)された時、「ブラジルで政治的に右寄りの考え方をする者は、右手で盗み、左寄りの考え方をする者は、左手で盗み、そして、真ん中(中道)の考え方をする者は、両手で盗む」(有力週刊誌『ベージャ』)というピアーダを、ポルトガル語に通じていなかった私に教えて呉れたのはAさんだった。
この警告は二〇〇六年の総選挙にも通じると私なら信じていたのだが。 
 ブラジルの国が経済発展し、国民の生活水準も高まると信じたブラジル国民。あれから40年(ごめんなさい10年です)、世界第8位の豊かな国にまで成長したブラジルボク(木)が『シロアリ』の如き労働者党とその同盟党の幹部に食い荒らされている事をほとんどの国民が知らなかった。
 新聞・雑誌やテレビで報道される最近の『シロアリ大捕り物事件』は〝LAVA JATO作戦〟と呼ばれて、ブラジルの2億総国民を人気ドラマの如く惹きつける。私は早くAさんにお会いして、熱烈に褒めて上げようと探したが消息不明だ。
 先週、世界的に著名な小川全夫(たけお)先生が来伯された。熟年クラブでは『生涯現役社会をめざして』、援護協会では『老いる日本を誰がみる?』を講演。サンパウロ大学老年学科では、学生を交えて『老年学と認知症者の介護』についての学術交流がなされた。日本や東南アジア各国の高齢者問題に詳しい彼の話に聴講者や学生は魅了された。

援護協会での講演の様子

援護協会での講演の様子

 講演会の合間に、私は彼をブラジルの幾つかの介護施設に案内した。とある施設に案内し、お昼の食事に呼ばれた時だ。入居者は食事を済まされた後で、私は従業員の皆さんといっしょに食事した。テーブルには入居者の席が決まっていて、写真や名前や献立作りが書かれた票が貼られている。
 お皿に食事を盛ってテーブルに座った私は驚いた。なんとAさんの写真だ。探していたAさんはこの施設に居られたのだ。ブラジルの崩壊を予想されたAさん。ブラジル経済界でも有名で、日系コロニアの名士であった。あの頃の背筋のピンと張った往年のお姿は見られなかったが、まさしくAさんだった。
 車椅子の上で顔を沈め、瞑想されている。時折、強いうなり声を発する。きっとブラジルの悪徳政治屋や官僚達にカツを入れておられるのだ。「ブラジル国の発展と善良な国民の為に粉骨砕身して働け」と。
 私は今、ボランティアとして県人会や県連で活動している。毎日、朝出て行って、あちこち街をうろつき、夕方遅くしか帰らない。恐らく家族からは『路上生活者』とか『ホームレス』とか思われているかも。どうせ私は『となりのシムラ』の様な『普通のおじさん』なのだ。家族にダメオヤジと言われながら、そして老いて、Aさんと同じ道を進むだろう。
 いえいえ。そうではありません。小川全夫先生によると、今『老い方革命』が起こっており、『新しい介護』のはじまりだと言う。「歯を毎日磨いて、隣の人とおしゃべりし、くよくよしないで、人の為に働いて」健康な長生きをしよう。先生の話の様に、私も『恰好いい老い方』が出来るのだと思った(信じよう!)。

小川全夫先生とサントス厚生ホーム訪問

小川全夫先生とサントス厚生ホーム訪問

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