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カナダ日系が強力な助っ人に=戦時中の移民迫害へ謝罪請求=アネスチア委員会14日会議

全カナダ日系人協会からの文書を手にするアネスチア委員会のアブロン委員長(奥原さん提供)

全カナダ日系人協会からの文書を手にするアネスチア委員会のアブロン委員長(奥原さん提供)

 ヴァルガス独裁政権時代(1937―1945年)の日本移民迫害に対して、国に歴史見直しと謝罪を求める運動を進めている奥原マリオ純さん(41、三世)に強力な助っ人が現れた。大戦中の強制収容などの日本人迫害に対する補償を政府から引き出した実績を持つ全カナダ日系人協会(NAJC、オオハシ・ベヴェレイ会長)だ。奥原さんからの協力要請に応え、同協会は国外から同調・支援する意思表明を記した文書をブラジル法務省アネスチア委員会(パウロ・アブロン委員長)に送った。9月14日に首都で開催が予定される同委員会で検討される可能性があるという。

全カナダ日系人協会が送った書類

全カナダ日系人協会が送った書類

 奥原さんは、ジョゼ・カルドーゾ法務大臣(当時)宛でアネスチア委員会に対して謝罪請求文書を送り、15年12月31日に受理されていた。
 奥原さんは1月にNAJCと連絡を取り、協力を仰いでいた。ネットのテレビ電話で会議を重ねる中で、お互いの状況を把握して支援が決定。正式文書が練られ、オオハシ会長、ミキ・アト元会長、ノマ・ケン専務、スズキ・ジム氏ら4人の連名で5月2日付文書を出した。
 それを奥原さんが首都でアブロン委員長に渡し、事情を説明する公聴会が8月3日にもたれた。
 真珠湾攻撃直後、カナダは日本に宣戦布告。1200隻の日系漁船の没収、全日本語学校の閉鎖、保険の強制解約、3社あった日本語新聞が廃刊にされた。2万人以上の日系カナダ人は強制収容所に送られ強制労働に従事させられた。
 これに対し、NAJCは連邦州政府と補償問題を話し合い、1988年9月にブライアン・マローニー首相(当時)は次の取り決めを発表した。戦争中の日系カナダ人への不当行為を認め、被害を被った日系カナダ人全員に2万1千ドルを払うこと、犯罪者とされた犯罪経歴の抹消、日本へ追放された日系人の市民権復権、1200万ドルのコミュニティ基金の設置など。
 さらにNAJCとカナダ政府が半々ずつ出資して2400万ドルを用意し「カナダ人種関係基金」を設立、人種差別撤廃に向けた運動を幅広く行っている。その一環として奥原さんの要請にこたえて文書を送った。

ブラジリアにある法務省

ブラジリアにある法務省

 同文書の最後には《忘れてはいけない日系ブラジル人の歴史を確実に継承するために、コミュニティにおける歴史教育の中に組み込み、ドキュメンタリーや他の活動、イベントによってそれが確実になるように支援を提供することを求める。歴史の見直しと継承は、彼らの尊厳と人権の回復に向けた基本的な手段である》と締めくくられている。
 同文書を受け取ったアブロン委員長は「全ての社会は、過去の人権侵害に対して歴史的な見直しを試みる、客観的なまなざしが無ければいけない。正義に国境も時代もない。もしブラジルが自らの歴史を清算したいのであれば、殺戮や搾取、差別の歴史を知らなくてはいけない。それでこそ、もっと民主的で自由な将来を指し示すことができる」とコメントした。次のアネスチア委員会は14日に予定されており、この件が討議される可能性がある。


サントス強制立退き初ミサ=クルトゥーラ局でニュースも


写真1=ジョルナル・ダ・クルトゥーラで証言をする森口さん

(★サイトのみ)
写真=リオ市のサンタテレジーニャ教会のミサ(ダヴィ・レアルさん提供)

ジョルナル・ダ・クルトゥーラで証言をする森口さん

ジョルナル・ダ・クルトゥーラで証言をする森口さん

 法務省アネスチア委員会が呼びかけた人権擁護週間(8月22~28日)の期間中、奥原さんの呼びかけでサンパウロ市のセントロ・クルトゥラル・サンパウロで8月27日午後、若者向け討論会が行われ、約40人が集まって1時間以上、戦争中の歴史に関して議論をした。
 同日夜9時のクルトゥーラTV局ニュース番組では、1943年7月にサントス市から日本移民6500人らが24時間以内に強制立退きをさせられた件を3分半に渡って報道した。

リオ市のサンタテレジーニャ教会のミサ(ダヴィ・レアルさん提供)

リオ市のサンタテレジーニャ教会のミサ(ダヴィ・レアルさん提供)

 子供時代にその強制立ち退きを経験した森口イグナシオさんは、「強制収容所には仕切りもなく、今の災害時の避難所と同じだった」などと語った。同番組は「人種差別、迫害は今も日系社会にトラウマを残している」と報道し、奥原さんは「金による補償ではなく、歴史見直しと謝罪が欲しい」と訴えた。
 翌28日午前9時半からは、日本移民迫害を描いたドキュメンタリー映画『Perigo Amarelo』のダヴィ・レアル監督の呼びかけで、戦争中に連邦政府に資産凍結され、強制収容所に送られた日本移民を顕彰する初めてのミサがリオ市のサンタテレジーニャ教会で行なわれた。


□関連コラム□大耳小耳

 昨年末、奥原マリオさんが法務省に送った謝罪請求文書の結論部分の意訳は次の通り。《歴史的間違いを正し、日本人の価値観における最も重要な要素、第2次世界大戦の時に受けた侮辱の名誉回復が必要だ。あの時代には、国家主義の名において、社会的差別による人種迫害が半ば制度化される不正義があった。ブラジル国民を構成する一つの民族が受けたトラウマ(外傷)は、物理的な面だけではなく、心理的な部分も大きい》。戦中の迫害があったから、当時の移民の多くは帰国を熱望し、その結果、終戦直後の帰国詐欺や円売りなど数々の悲劇につながった。やはり名誉回復は必要なことではないだろうか。

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