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日系人向け特別定住ビザを全世代に解禁したら?

「ブラジルタウン」を売りにする群馬県大泉町観光協会のサイト

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 東京五輪と東日本復興のために、日本では労働者不足が深刻になり、外国人技能実習制度を5~6年に延長する検討(現状3年)がされていると聞き、〃足元〃を見ていない考え方だとガッカリした▼元々この実習制度は「途上国の外国人に技能の習得の機会を与える」という金看板だが、実態としては中小零細企業の単純労働者不足を補う役割を担ってきたと多くの専門家が指摘している▼だから「非人道的な長時間労働」や「最低賃金を下回るような賃金支払い」が問題視され、2015年の失踪者は5803人という新記録を作った。それほど歪みのある制度を、なぜ期間延長するのか理解に苦しむ▼それよりも、現状は日系三世までに限定されている「特別定住ビザ(以下、特定ビザ)」を全ての世代に解禁したらどうか。せめて四世まで。イタリア系の様に何世でも「国籍」が取得できる制度を日本でやるのはムリがあるが、「日系人に限って特定ビザを与える」だけなら可能ではないか▼ただし、その前提として在日二世には日本人児童・生徒と同じ「義務教育」を適用するべき。当地では、ブラジル人も移民の子も同じ様に扱われる。それは最初から「移民政策」だからだ。先進国たる日本では、外国人労働者は「一時滞在」で、その子弟の教育の面倒を見る必要は無いとするのはオカシイ▼日本が「移民政策」をとらないために、日本で育った日系人には日本語もポ語も会話のみ、きちんとした読み書き能力がないものが多数いると聞く。世界に冠たる先進国社会のど真ん中で、外国籍児童の多数がそんな風に育って誰も問題にしないのは異常だ▼一部で聞く「公教育の中で外国人子弟にバイリンガル教育を」という考え方は理想的だが、現状からすれば困難が多過ぎる気がする。大事なのは、どの言語でもいいから「論理的な思考能力」を発達させることだ。必要であれば、高校生・大学生になってから第2言語としてポ語を勉強すればいい▼「家庭内で親と会話ができなくなる」と言う人もいるが、家庭内で会話をしない親も相当に悪い。ブラジルで日本移民の子供が日本語を片言でもしゃべるのは、親が日本語で通したからだ。日本の場合、親のせいで、子供の論理的思考能力まで失われるのでは、親の知的能力の低さを、世代を超えて拡散させる手伝いを日本がしている形になる▼在日二世を公教育システムに受け入れ、日本人と同じように扱えば、彼らの将来は開ける。論理的思考能力の低い、会話だけのバイリンガルよりも、能力の高いモノリンガルの方が社会の役に立つ。国籍の違う子供や混血児を受け入れる雰囲気を、日本の教室内に醸成すべきではないか▼日本の教育を受けた在日二世世代が20代になれば、家庭内で親を指導する立場に変わる。「日本社会はこうだ」「日本文化はこういうもの」と仔細に親に説明するようになり、親自体の日本理解も深まり、地域住民との溝も浅くなる▼「在日一世に日本語を教えて、日本人並にしゃべらせる」という発想はエリートのもので、社会階層が中流以下の移民労働者向けの考え方ではない。大事なのは在日二世への教育だ。日系人でそれができないなら、他の外国人受け入れは更に難しい▼ブラジルの日本移民をみたら一目瞭然だが、ブラジル人なみにポ語をしゃべる一世がどれだけいるのか。日本人ですらできないことを、どうして日本で外国人に強いるのか▼ブラジルの日本移民がどう適応してきたか、なぜ二世を大学にやったのか。そこに在日ブラジル人二世が日本社会に適応するためのカギが隠されている。日本の政治家や官僚は移民史をもっと知るべきだ▼国策で移民を送り出し、そこから190万人に増えているのに、この人的絆・資源とどう付き合っていくのか、どう活かしていくのかという長期的ビジョンがない。まったく残念だ。(深)

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