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ニッケイ俳壇(908)=星野瞳 選

アリアンサ         新津 稚鴎

冬耕や錆びてキコキコ云ふ耕車
背広着し案山子の哀れ見て通る
故国訪い逢えざりし友の賀状来る
河へだて牛啼き交わす夕立晴
色褪せし旱の蝶のとぶばかり

サンジョゼドスカンポス   大月 春水

三寒四温まだ来ぬ春を呼び止めぬ
一とはけの雲を残してつつじ咲く
暁春をついて迎えぬ御来光
春泥の車を先ずは洗わねばと
父の日をしたいて子等は来て居りぬ

ジョインヴィーレ      筒井あつし

音もなく肩をぬらしぬ冬の雨
おろしにと細き大根選る市場
金髪に似合ふ深紅やマフラの娘
重ね着や老にも似合ふ赤きシャツ
御仕着せのシャツ着て老犬春を待つ

ソロカバ          前田 昌弘

春一番リオの五輪へ草木もなびく
黄金のメダルが光る風光る
九十八の師の温顔や春の句座
釣りにでも出掛けて見るか水温む
素心花や舞うバドミントンの羽根の如

ペレイラ・バレット     保田 渡南

健気なる女性の馬術やリオ五輪
リオ五輪バー跳ぶ人馬一体に
リオ五輪終わり汚職の劇つづく
猫抱けば犬が嫉妬や日向ぼこ

サンパウロ         湯田南山子

盆栽の梅が咲いたと来し電話
丹精の甲斐を見せたい盆の梅
春待つや大きく胸張り深呼吸
移民祭修すや春は直ぐそこに
報道に胸おどらせる日本祭

サンパウロ         寺田 雪恵

梅漬けて晴天を待つときめて
あをむけにして背をかく猫や春浅し
メダルの数で負けぬ日本の強さかな
セルラール盗られし孫に春寒む
風車廻る音のみ響く墓地の昼

サンパウロ         鬼木 順子

一陣の春風に乗り落葉舞う
百日紅古葉落して若葉待ち
春の雨夜のしじまに降りそそぐ
心地良き素足に芝生青き踏む
ふと見上ぐ春曙に弓月の出

ピラール・ド・スール    寺尾 貞亮

始まりも最後もサンバリオ五輪
寒月やしばし雲間に隠れけり
春の風邪しばらくぶりに風呂絶ちぬ
春の野にすこし肥えたる牛の群れ
雨上がり蕨のの字ほぐし延ぶ

サンパウロ         小斉 棹子

礼状を書き終えて聞く春の雷
はじまりし孫等の喧嘩春の雷
素心花の散る径の乞食かな
逝く日まで北国育ち春きざす
椰子並木結界として花杜

サンパウロ         武田 知子

目刺焼き朝餉に〝ひとめぼれ〟も炊き
半干しの目刺は海の色残し
一連の頰を刺しても目刺かな
春暁や言葉交はせぬ夢の人
朝未だ咲き疲れたる牛蒡花

サンパウロ         児玉 和代

空回りする老母心亀の鳴く
飽食の目刺を恋ふているばかり
桜散る母の忌重ね我老ゆる
訥弁の目に物云ひつ春灯し
雨音のやさしき目覚め春の雷

サンパウロ         馬場 照子

なせばなる春は曙リオ五輪
日の丸に受く顕彰の舞いリオ五輪
逆境へ大地の門出リオ五輪
原爆忌に五輪開会黙祷す
縮みたる心揺がす春の雷

サンパウロ         西谷 律子

春浅き少年うすき髭生やし
亀鳴くや亡き人偲ぶ句座の池
水を出て鳥羽根ひろげ青き踏む
小春日の部屋にはじける笑ひ声
郷愁をそそる香りや根深汁

サンパウロ         西山ひろ子

青夕べ記憶たどりて書く日記
飲み薬一つ減りたる春の昼
目刺し焼く瞼閉じれば母がいて

ヴィネード         栗山みき枝

寒くても一度は全開部屋の窓
ふところ手老の一徹絵となりて
一言の云いすぎ悔の夜
椰子切られマナカダセーラにいやされて
ひんやりと朝霧庭にしばし佇つ

サンパウロ         川井 洋子

素心花の咲ける街並サンパウロ
丸窓のステンドグラスに春の雷
亀鳴くや火星移住のプロジェクト
スリッパにたわむる子猫の野生かな
暮らす中感じる春のまだ浅し
春が来た三つやりたき事がある

サンパウロ         柳原 貞子

選挙戦云いたい放題春の雷
お隣に赤ちゃん生れ朧の夜
年重ね自適の日々や敬老の日
敬老の日今日も新聞読みつくす
荒れ畑に人影もなく囀れる

サンパウロ         山田かおる

お祝いとお悔み多かりし冬は行く
淋しかり師も友もなき移住祭
アリアンサ総出で祝いし移住祭
アリアンサ第二のふるさと移住祭
校庭の昔を偲ぶパイネイラ

サンパウロ         新井 知里

日向ぼこ二時間にせぬ身となりて
寒波来るドミノのように早々と
冬晴や日本語習うと初孫に
早朝の輪唱の声囀れり
陽を追ふて生干にする目刺かな
一と年を重ねて寂し南風忌

ピエダーデ         小村 広江

月下香ほのかな香おり句座に満つ
朝茜生気あふるる今朝の春
遠霞探しあぐねし置き忘れ
木の芽風熟睡の嬰の寝息かな
春風や移民記念の大鳥居

サンパウロ         大塩 祐二

季移り日永の気配日々に増し
一人食む夕餉の目刺ほろにがし
春雷にさそわれ土中の虫さわぐ
暮遅し童ら嬉々と群すずめ
吹く風も野山も淡し木の芽時

サンパウロ         大塩 佳子

桜かと遠くにきれい牛蒡花
朝寝せしか化粧朝餉はメトロ中
それぞれに一病あると春体操
目覚ぬればさえずり聞こゆ明けの空

サンパウロ         岩﨑るりか

赤靴の幼女は跳ねて青き踏む
何も彼も忘れて句作春の人
貝寄風に乗りて帰浜のジャンガーダ
風に乗りかえたんぽぽの種の旅
手に取れば母の温くもり春の土

リベイロンピーレス     西川あけみ

古アパートトタン屋根鳴る春の雷
素心花咲く老人ホーム静かなる
ブラジルにポケモン上陸春の雷
旅戻り目刺白飯旨きこと
物溢れど目刺旨しと食進む

東京都中野区        伊集院洋介

リオ五輪朝ひぐらしが鳴いて居る
リオ五輪残暑寝不足テレビ漬
イグアスの虹の向こうに金五輪
(その上サッカーの金五輪、実に美しいシーンでした)

サンパウロ         坂野不二子

春雷を遠くに聞きて眠りおり
風ひかり野に満ち満ちる青の色
風ひかり水ひかる日に遠出する
春風のごとく駆けゆく素足かな
手にとれば母のぬくもり春の土

サンパウロ         原 はるえ

時雨るる日友の葬儀を見送りぬ
父母を知る者なく淋し移民の日
禁酒され父のすすりし根深汁
寒続老はひたすら春を待つ
五輪会意気上がらず寒き日々

サンパウロ         西森ゆりえ

寒桜師の祝ぐ句座に凛とあり
春待つや家族の増える日も近く
子や嫁と暮らす気はなく根深汁
冬の雲遠くに住めば親を恋ふ

サンパウロ         平間 浩二

お土産の赤味噌の味根深汁
今日も又家族そろって根深汁
待春や笑顔ほころぶ深き皺
寒続きラジオ体操はげむ朝
しぐるるや晩鐘の余韻街静か

サンパウロ         太田 英夫

今日も又一つ覚えの根深汁
母の日やいよいようすき父の影
ほめ言葉待つか女房の根深汁
日向ぼこ話相手は今も猫
移民の日子に手をひかれ寺参り

サンパウロ         岡野  隆

桜の花水につかりて赤く咲き
桜の花風に舞い散り花吹雪
恋人の日我が青春をなつかしむ
さるすべりただ見る庭に咲き
春雷や夜半にはじまる雨の音

アチバイア         吉田  繁

終戦を天命として移住せり
春うらら南米初のオリンピック
ベランダにブランコ二つ孫等来る
春浅し月例句会に厚着して
下萌えるタンポポの絮いづこより

アチバイア         宮原 育子

子猫早や猫派の客のひざに乗り
花卉まつり近づく公園下萌ゆる
ブランコの二人を染める夕日かな
春近し夫は農具を揃え居り
春来たる機具化の畑人見えぬ

アチバイア         沢近 愛子

春旱お風呂の水も芝に撒き
春待たず友は浄土に逝きにけり
満開の桜が句宿で迎え呉れ
庭の樹に寄生の春蘭見事咲き
春夕日真赤に染めて落ちゆけり

アチバイア         菊池芙佐枝

別れ告げし草萌える土手今は無く
テレフェリコへりもゆっくり春めく日
ブランコやテレフェコの子も半ズボン
オリンピック地図の上での春の旅
春立ちて孫の旅立ち直ぐそこに

アチバイア         池田 洋子

おはようにふり向く子猫分かったの
春寒やバイクの背なの温かみ
ひっそりと咲きても春を告げて居り
春の川波紋広げて鳥遊ぶ

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