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ニッケイ俳壇(912)=星野瞳 選

アリアンサ         新津 稚鴎

信濃村のポルトガル人煙草干す
鳩車に似て葦舟や湖は春
アリアンサの鳳梨も供え念腹忌
睦みつつ濁流越えて行きし蝶
富士の絵の額の後に守宮棲む

北海道・旭川市       両瀬 辰江

行く秋を惜しみながらも明日を待つ
ひらめきの減りし齢や萩の道
秋風やとんぼの死骸踏みしあと
台風の災害ニュース案じ見る
露草の一日のいのち我もまた

プ・プルデンテ       野村いさを

学園を吹き抜けて行く木の芽風
大会の句友等偲ばる素十の忌
ジョギングの行く手を阻む大南風
街路樹を補植する児等樹木の日
ゆったりと流るる春の雲に夢

サンジョゼドスカンポス   大月 春水

三寒四温まだ来ぬ春をよび止めぬ
一とはけの雲を残してつつじ咲く
暁春を衝いて迎えぬ御来光
春泥の車を先づは洗わねば
父の日をしたいて子等は来て居りぬ

カンポスドジョルドン    鈴木 静林

新移民草を摘み行く帰り道
摘み草や母に教わり今日も摘む
花苺仕合せを知らず老いしひと
花苺今年も去年の場所に生え
山笑う口は達者な草野球

 【今日十月一日、カンポスさくらホームから、作者・鈴木静林(本名・正植)さんが九月二十一日九十六才で急逝されたと知らせが来た。ご冥福を祈ります】

ペレイラバレット      保田 渡南

忘却を現に生きて春を待つ
蝶の如舞ひて体操リオ五輪
最速の黒き弾丸リオ五輪
テロ人に人命軽し木の葉散る
ウルブの輪悠然と空移りゆく

ピラール・ド・スール    寺尾 貞亮

バングラデン拝人殺し冬寒し
寒月や雲の間に隠れけり
春の風邪しばらくぶりに風呂絶ちぬ
春うらら希望飛びたつ黄色蝶
老いを生き故郷の思い春めける

サンパウロ         武田 知子

還らざる日々流れゆく春の川
生かされて生きぬく命春の星
草萌えや野に被爆の足今軽く
五臓六腑染まれとばかり緑吸う
踊るかにアーリョの花の浮かれ咲き

サンパウロ         小斉 棹子

惜春や傘寿の胸を去らぬ詩
郷愁の常より濃ゆく灯朧
住み古りし異郷下野鳥帰る
名吟並ぶ北民季寄念腹忌
あたたかし心急がれ開ける文

サンパウロ         児玉 和代

たよりなく記憶たゆたう朧かな
とめどなく人を想ふて春の宵
愛しめど剪定はみ出す木の芽切る
午後のお茶明るく降りて春の雨
忙しなく連れ来て囀り翔び立ちぬ

サンパウロ         西谷 律子

東京へ渡る五輪旗鳥雲に
コーヒーのほどよき濃さや春寒し
春窮や町ひっそりと店閉ざし
大都会の中のオアシス百千鳥
朝市の匂ひ残して蠅生まる

サンパウロ         西山ひろ子

紙風船軽き重さにはこばれて
春哀しまだ消されぬ住所録
素振り歩めしパット片隅春ぼこり
何もかも笑ってすまさむのどかなり
笑ひ声通りすぎ行く影朧

ピエダーデ         小村 広江

太陽に天地返しの春の土
春彼岸今日の一と日を仏の子
てらてらと雨のあしたの雨蛙
崖くずれ生き埋めとなる夜の秋
冬ぬくし高原の花嬉々として
冬深しアルーガセの札あちこちに

サンパウロ         谷口まち子

両親を見る娘にやさし春の風
うららかに女性知事受くオリンピック旗
潜み居し庭石菖も咲き初めし
うす曇る夕べに淋しげサビア鳴く
子や孫も親達遠き独立祭

サンパウロ         玉田千代美

春の水たっぷりかける夫の墓
恋唄を口ずさんでは春の宵
花は葉にもう打ち明けてよき頃か
かなわざる夢追ふ日々の春時雨
一日が過ぎ過去となりゆく老いの春

サンパウロ         山田かおる

春愁や相次いで逝きし友二人
春一番高原の宿雲の上
高原の夜明けは早い春の朝
曽孫の頬ずり恋しい梅の花
折角の花を隠して藤若葉

サンパウロ         新井 知里

長閑さに芝生駆けたき旅の宿
大王椰子ホテルの前に仁王立ち
行儀よくユーカリ天つく春の旅
春光を浴びて白牛は群れをなし

サンパウロ         竹田 照子

アセローラ淡雪の如地に白く
砂浜に蟹かくれんぼ冬ぬくし
大空の風をとらえて鳥帰る
月の出のおぼろに見ゆる夜やさし
おぼろなる人影ありて門に立つ
春なれば日だまりの中居眠りす

サンパウロ         岩﨑るりか

息つめる襟元の風花冷ゆる
旅の空鳥雲に入り時とまる
春旱あばら骨浮く牛あわれ
念腹忌常に想われん道しるべ
念腹忌今なほ句師と慕われて

サンパウロ         原 はるえ

街路樹のどれもが咲いて春迎え
朧気の追憶さます古写真
鉢植えの山吹一輪咲きうれし
鳥曇り日本人もう居ぬ田舎町
濃紫思ひ出深きジャカランダ

ヴィネード         栗山みき枝

垣ぞいにサンミゲオゆれて庭小春
ショッピング確かな足どり嬉しくて
冬古木裸木の風格おとろえず
ジャボチカバ大木びっしり季告げて
雨の日やついつい背中丸くなり

サンパウロ         川井 洋子

詠みつがる大地の暮らし念腹忌
薄墨に淀む物皆おぼろ影
本の貨に読めとばかりの春陽射し
読みかけを胸にうたた寝のどかかな
挨拶は今日の花冷え云い合いて

サンパウロ         大塩 祐二

ほの温き風枯れ葉巻き春一番
釣り舟の遠くにありて海おぼろ
空高く集いつどいて鳥帰る
耕せる畑地や今朝は冴えかえる
夕なずみ名も知らぬ花おぼろなる

サンパウロ         大塩 佳子

街おぼろ夜のミサ帰り青春の日
鳥帰る命つなぎて又ここにと
春寒しルアをねぐらに難民とか
骨老いて届かぬがふえ春の厨
娘と習う一時無心春手仕事

リベイロンピーレス     西川あけみ

鳥帰る緑あざやか野菜畑
春の旅夫たのもしと思いけり
春の風邪孫に始まり家中に
鳥帰る帰国はたせず祖母二人
きびきびと働く嫁に春の風

サンパウロ         平間 浩二

鳥帰る我に故郷はすでに無き
遙かなるジャラグァの峰鳥雲に
一滴を絶やさず大河に念腹忌
移住地をくまなく行脚念腹忌
おぼろ夜の窓に灯りし子等の部屋

サンパウロ         太田 英夫

父の日や子等の都合で又の日に
父の日を知らずに居るは父一人
父の日ついでに済ます誕生日
父の日や居眠る父に威厳失せ
父の日や財をなさねど子沢山

サンパウロ         佐古田町子

春めきて聖市の空にヘリコプター
春の空燕尾服の北つばめ
南国のつばめは背広軽く飛ぶ
かすむ空まだ晴れぬ午後三時
気晴らしに春の庭掃く老の日々

アチバイア         吉田  繁

入植の記念の植樹椰子並木
山頂は桃太郎岩山山笑ふ
ひとにぎり摘んでうれしい早蕨を
牡丹餅に父母恋しお彼岸会

サンパウロ         柳原 貞子

受験子の遠き目をして暗誦す
過去形で語る雑談春の宵
束ね髪ゆれてジョギング春の園
この不況いつまで続く春の雨
囀りの一ときわ姦し日の出どき

サンパウロ         坂野不二子

バラの芽の赤きを増して日暮れゆく
蜂鳥やダイヤの如く陽に映えて
たんぽぽの咲き終える待ち庭手入れ
山頂は車のショウめき山笑ふ

アチバイア         宮原 育子

公園の樹毎に名札植樹祭
アマゾンに樹海を戻せ樹木の日
焼鳥屋麓に出来て山笑ふ
風が来てたんぽぽの絮背伸びする
ホバリングしては蜂鳥花のぞく

アチバイア         沢近 愛子

山笑ふバス停までをいそいそと
春うらら連山霞みいぺーも咲き
イペー咲き小鳥が来れば蜂鳥も
春蘭を庭木に宿らせ愛でてをり
芝の中たんぽぽの黄の健気さよ

マイリポラン        池田 洋子

植樹せし桜遠くで育ち居しか
埃舞ふ春の野を行く二頭馬車
春眠を誘ふ演説心地良し
孫の絵が入口飾る花卉まつり
山笑ふ何のことやら友笑ふ

東京都・中野区       伊集院洋介

リオ五輪強冷房でテレビ漬け
イグアスの虹の向こうにリオ五輪
イグアスの虹の向こうに金の五輪
リオ五輪朝ひぐらしが鳴いてるよ
テレビ漬朝ひぐらしが鳴いてるよ

 【オリンピック大成功、心からおよろこび申し上げます。その上、サッカーの記念すべき金メダル、実に素晴らしかったものでした】

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