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ニッケイ俳壇(915)=富重久子 選

ヴァルゼン・グランデ    飯田 正子

釣りに行く孫の恋人夏帽子

【何と若々しい明るい俳句である事、季語の「夏帽子」がぴったりと動かないよい選択であった。
 「孫の恋人」とあるように、自分の子供であるとこの様にのんびりとは詠めないもので、孫となると何となく恋人にも鷹揚になることが、私にも経験があって含みのあるよい俳句であった】

遠くより霞の如き白イペー

【二句目、「白イペー」を詠んで心にしむるよい一句である。白イペーは街中ではあまり見られない。この句の様に遥か彼方の町外れに、今を盛りに白イペーが霞のように眺められたという一句。
作者がここまで写生句を詠めるのは、己が心に偽りのない景を素直に五七五に纏めたからであって、五句をもって巻頭俳句として推奨させて頂く】

南伯よりシャンペン届く年の暮
カマラーダ桑の実食べて吠えられて
炎天下渋滞続く道遠し

コチア           森川 玲子

推敲の堂々めぐり火取虫

【この句の季語「火取虫」は、夏の夜燈に狂う蛾の事であるが、アパートの十五階でも真夏になって、スタンドを付け本を読んでいると何匹もやってくる。
 作者は真剣に俳句を読み返し、推敲を重ねているのであろう。「堂々めぐり」とは中々な言葉の選択で、推敲と火取虫との両方にかけた、珍しい佳句である】

泉にて水櫛当てる老婦人

【二句目、「水櫛当てる」と言う淑やかな年老いた婦人の仕種で、日本画を見るような一句であった。若い人なら、さしあたり掬った水を所かまわず手櫛で髪の毛を梳いたであろう姿が思われる。
 泉に屈んで髪をすく、歯の粗い櫛を使う、「老婦人」の姿の見える珍しくも淑やかな佳句であった】

三本の百合の香に酔ふ応接間
白き花目立つ公園夏兆す

インダイアツーバ      若林 敦子

散歩道今朝の道づれ百千鳥

【最近は私を始め可なりの年齢の人も多い誌友たちの間で、早朝に三十分位早足で歩く事が健康に良いと進められるが、中々億劫で実行出来ない私である。
 しかし作者は小都市の住いで、辺りはまだまだ青々とした樹木の見られる良い環境なのであろう。朝ごとの散歩道には多くの小鳥達の囀りも聞かれ、羨ましい限りである。「百千鳥」と言う季題を持っての限りない自然界の佳句である。
 「百千鳥」とは、春たけなわに多くの小鳥が群れをなして囀り、まるで百千の鳥が合奏している様に聞こえる事を言う言葉で、春の優雅な季語である】

父を追ひペダル踏む子や風薫る
独り住む窓に張りつく守宮かな
早々と忘年会の日も決まり

セザリオランジェ      井上 人栄

踏青や友を訪ねん丘の家

【「踏青」は、春になり野辺に出て青青とした草を踏み悠々自適することである。
 そんな時ふとあの丘の上にある友達を訪ねてみようかな、と思いついた作者であろう。長閑な早春の佳句であった】

気兼ねなき生活春眠欲しいまま
ブラジルの国歌唄へぬ独立祭 
赤鳥居自慢の村や枇杷祭

アチバイア         宮原 育子

婚約のととのひし娘や麦の秋

【「麦の秋」とは、夏であっても麦の熟する時が秋でありこの言葉がある。まだ酷暑と言うほどでなくとも、緑の中に麦が黄色一面に熟れ色となる景は美しい。
 目出度く婚約が整い希望の新しい人生を歩み始める娘さんへのお祝いの一句であろうか。季語の「麦の秋」が実りの秋を想わせる、味わい深い佳句であった】

スクールバス待つ子等の声風薫る
更衣肩に残りし躾糸
手囲ひに風をいなして墓参の灯

サンパウロ         畔柳 道子

踏みしめる脚や行く手に雲の峰

【八十歳を過ぎると「老いは脚から」と言われるとおり、体は元気でも脚の方がよろよろして覚束無くなるものである。私もよく子供たちに「足元に気をつけて」と注意されるこの頃である。
 ゆっくりと踏みしめながらふと仰ぎ見ると、歩く彼方にいかめしく山のような入道雲が聳え現れていたと言う一句で、暫く立ち止まったまま眺めていたのであろう姿の、想像される佳句であった】

風が来てほっとひと息炎天下
汗ぬぐふ晩年の顔明るくて
毒舌を聴き流しをり青葉風

ソロカバ          前田 昌弘

更衣女らしさを失はず

【もうそろそろ衣替えの頃かなと思っていたが、今日など冬支度そのものである。
 日本は四季がはっきりしているので紺のセーラー服から純白のセーラー服に替わる時は、真に清々しい女学生姿であったのが忘れられない。「女らしさを」失うことなく暮らしたいものである】

薔薇を手に思はぬ人の尋ね来し
百合香る浅き眠りの枕辺に
盛んなる文化交流文化の日

アチバイア         吉田  繁

蘇る妻との日々や墓参の日

【最近は年老いたせいか、時々「私に後どれ位の余生があるのだろう」と考えさせられている。我が家にも身近に二人の位牌があって仏壇にお花やお供えで弔ったが、何といっても若くして亡くなった人は、何時までも諦められないで居る。
 この句の様に、早く連れ合いを亡くされた方は、寂しく不自由でもあろうかと推察させられ、身につまされる想いで毎年のお盆を迎えている】

イサを獲る女子供等奇声あげ
七曲り森の旧道風薫る
花作り麦秋に似た日々ありし

ピエダーデ         国井きぬえ

盆ちかしみんなと会える楽しみに

【内容の良い印象に残る俳句でしたが、季重なりがありましたの添削させてもらいました。お気を付け下さい】

電話線にサビア二羽きて囀りぬ
思ひ出のミナスあじさい花芽持つ
シャワー浴び坐れば窓に春の月

サンパウロ         秋末 麗子

日の丸と黄緑胸に国旗の日
夏の雲急に黒ずみ雨となり
野に詫びつ山百合切るも一抱へ
ユネスコや平和を守る国旗の日

サンパウロ         上田ゆづり

恋唄は調子はずれて若サビア
天道虫孫の晴れ着の裾模様
夏の雨日増しに深む葉の緑
百合の束拾レアイスに午後の市

サンパウロ         上村 光代

知らぬ間に巣立ちし鳥は今どこに
ジャカランダ花舞ふ道を歩き行く
春来たと若き苗まで花が咲く
かぎりなく大事に育て巣立ち行く

サンパウロ         小林 咲子

宇治の春雨に煙りて風雅なす
みどり濃き早蕨(さわらび)の路風情あり
柳ゆれ白雨たばしる宇治の山
春雨や山すがすがし古都の旅

サンパウロ         日野  隆

灯籠流し俄か雨にて姿消し
春野ゆき涌水に会ひほっとせる
春雷に驚く犬やカーマの下
菜の花や黄一色に波立たせ

【内容は良かったのですが、五・七・五のリズムに整えるようご注意下さい】

ポンペイア         須賀吐句志

浮力ごと幼なに持たすゴム風船
今日あたり孫の来そうな春の午後
そっと見やう消えない様に春の虹
春を待つ一と足先に花屋かな

リベイロンピーレス     中馬 淳一

鉄柵にそふて咲き満つ藤の花
ベランダで本読む老や暖かし
夜半までテレビドラマや大朝寝
墓地に咲く大木数多ジャカランダ

アチバイア         菊池芙佐枝

仏前に薄紫の韮の花
風薫る夫の選びし丘の墓
初雪に会ふパリの孫母案ず
夏衣似合ふ弱視の余生かな

アチバイア         池田 洋子

バス停の思はぬ出会ひ風薫る
ひと口のビールに至福の刻過ごし
幾年も果たせぬ父母の墓参り
冷蔵庫開けて思案の夕餉かな

カンポグランデ       里  晋平

ジャカランダむかし愛した女に会ふ 
花曇りやさしき風にまかせ行く
サビア聞きつつ故障車に手を貸して
鶏合せインジョカリジョに裸鳥

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