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明治維新の心意気を二世、三世に

日ポ両語の『日本文化』4巻

日ポ両語の『日本文化』4巻

 「坂本龍馬についてポルトガル語で読みたい。NHKのドラマで見たが、細かい所がよく分からなかった。やっぱり自分の言葉で読まないとしっくりこない」―今年の日本祭りの本紙ブースで会った三世男性が、そう残念そうに言うのを聞き、ハッとした。日本語は得意でないが、日本の文化や歴史には大変興味があるという若い層はかなりいる。彼らにもっと十分なポ語情報を提供すべきだったと襟を正した▼あれだけ絶大な人気があり、日本では無数に本が出ている坂本龍馬だが、ポ語文献は聞いたことがない。西郷隆盛や山岡鉄舟など明治維新のヒーローたちの血沸き肉躍る物語は、二世たちには伝わっていないのだと愕然とした。日本の歴史や文化を好きになってもらうのに、その魅力の源泉はなんといっても個性的な登場人物たちだ。それに関する多彩な情報が二世、三世の手に届きやすい言葉に翻訳されていない。これは一世の怠慢だと反省した▼だから『日本文化』第4巻のテーマを、明治維新=「明治を創り、生きた人々」に決めた。今週から日系書店で取り扱いを始める予定だ。武力で迫ってくる欧米列強に対して、海外貿易と海軍建設によって日本を守り、繁栄することを夢見た龍馬。彼が成しとげようとした「海洋立国」の大望は、明治政府の開国政策となり、その流れから笠戸丸を運行させた水野龍という男が出てきた▼だから表紙には、坂本龍馬と水野龍の二人が並び立っている。龍馬が暗殺された時、水野はすでに8歳だった。土佐藩の先達、板垣退助、後藤象二郎が自由民権運動の中心人物となり、中央で活躍している後姿をみて、水野は憧れた。19歳にして過激な自由民権演説をして警察に捕まり、その流れの中で、なんと大隈重信(外務大臣、首相)の爆殺未遂事件を起こす。若気の至りとはいえ、今でいう「過激派」だった▼心を入れ替えて事業家となり、移民会社社長になった。でも彼の過激な性向は変わらなかった。だからこそ、当時誰も見向きしなかったブラジル移住に目をつけ、単独渡航してサンパウロ州政府との移民送り出し契約を勝ち取り、第1回移民船を運行させた。過激な彼の性向なくしてブラジル移民は始まらなかった▼しかし、笠戸丸移民から預かった金の問題がもつれて、長い間、彼はその業績に相応しい歴史的評価を受けてこなかった。息子の水野龍三郎は「父は1年かけてお金を作り、本人に返そうと探して回ったが、大半が夜逃げしていて渡せなかった」という。つまり返そうとしたが、できなかった―のが真相のようだ。大事なことは、龍馬の流れを継いだ「明治の日本人」、気宇壮大な理想を持った水野がいたからこそ、今のブラジル日系社会はあるという点だ。現在、移民史料館で水野龍特別展を開催中であり、『日本文化』4巻を読んでから特別展をみれば、感動ひとしおのはずだ▼幕末の日本が内乱になっていれば、北からはロシア、西からは中国、東からはアメリカが襲って、日本は分断されていたかもしれない。そんな存亡の危機から救ったのは山岡鉄舟と西郷隆盛による敵味方の雄だった。「命もいらぬ、名もいらぬ、金もいらぬ」という無私の精神で交渉し、江戸城の無血開城を果たし、最悪の内乱を話し合いで避けた。すぐに戦争で殺し合い、内乱になる現代社会だからこそ、大きな教訓となる歴史的なできごとだった▼その他、岩手県の酒蔵『南部美人』5代目蔵元の久慈浩介社長から、1300年も続く日本の伝統文化の結晶・日本酒について寄稿してもらった。年末年始だけに日本酒を飲む機会も多いだろうが、これをまず読んで、そのうんちくを周りに語って欲しい▼そんな珠玉の逸話がつまった『日本文化』。ぜひクリスマスのプレゼントとして子や孫、日本語学校生徒、従業員などに贈ってほしい。(深)

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