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ざっくばらんに行こう!=ブラジル社会面座談会=ムリやり先読み!=政治リアリティショー=「首都スキャンダル劇場」

リオ五輪後の〃大掃除〃

ラヴァ・ジャット作戦を邪魔するような〃汚職擁護法案〃を通過させた連邦議会に市民の怒りが爆発した(16年12月4日の聖市パウリスタ大通りのデモの様子)

ラヴァ・ジャット作戦を邪魔するような〃汚職擁護法案〃を通過させた連邦議会に市民の怒りが爆発した(16年12月4日の聖市パウリスタ大通りのデモの様子)

【深沢】さあ、久しぶりに『ざっくばらんに行こう』座談会です。
 なんといっても旧年中は、大統領罷免、下院議長解職、あわや上院議長まで解職という、とんでもないことが続々と起きました。今回の座談会は、そんなとんでもない一年を振り返って、新年を展望するというテーマしかないよね。
 15年末からずっと、ほとんど「政治リアリティショー」じゃないかというほど、毎日いろんなことが起きたよね。
 国民がこれほど固唾を呑んでテレビのニュースや議会中継を見守った年はないんじゃないかね。
 ということで旧年を振り返って、一番印象に残った出来事をどうぞ。
【井戸】はい。私はやっぱりリオ五輪ですかね。
【深沢】なるほど。どの辺が一番…?
【井戸】直前までのみんなの予想が最悪だったにも関わらず、なんとかなったっていうところですかね。
【深沢】なんとかなったどころか、かなり好評だったんじゃないの?
【井戸】そうですよね。
【深沢】ブラジルの評価を上げたと。まあ、その後が問題だけどね。そこも含めて「ブラジルらしい」みたいな。
【井戸】五輪が終わったと思ったら、リオ州財政が完全破綻して、警察、消防隊はじめ公務員に払う給料どころか、警察署のプリンターのインク代から、州立病院の清掃費すら払えない状態ですからね。
【深沢】でも、本当は6月末の時点で「財政非常事態宣言」を出していたんだから、「予告された破綻」だよね。
 でも、過去の知事が二人も捕まるとこまでいくかというのが…ちょっと「おお~、スゲえな、これ」という展開。
 五輪前に捕まえると大会自体の国際的な評価が悪くなるから、終わるまでほっておく作戦かな。世界中のマスコミが本国に帰って、誰もリオに注目しなくなったとたんに、「せえのっ!」って一斉に〃掃除〃を始めた印象だね。
【井戸】12月初旬には、リオ州政府だけでなく、リオ市のパエス市長の財産まで凍結されました。リオ五輪のゴルフコースに関わる不正があったんですけどね。五輪施設完成をやり遂げたくて、建設会社から環境税を取らなかったことが発覚した。
【深沢】まあ、州政府も市役所もPMDBの〃お仲間〃だからねえ。すごいことになってきたね。これはもう、ただの掃除どころじゃないな。年末だけに〃大掃除〃だね。まだまだ行くんだろうね。
【井戸】はい。毎年やってもらいたいです(笑)


首都はジェット噴射で〃大掃除〃

「はい、五輪はあるけど、医療、教育、治安、雇用、その他がありません」と皮肉るデモ参加者。リオ五輪直前の2016年7月31日、リオで(Foto: Tânia Rêgo/Agência Brasil)

「はい、五輪はあるけど、医療、教育、治安、雇用、その他がありません」と皮肉るデモ参加者。リオ五輪直前の2016年7月31日、リオで(Foto: Tânia Rêgo/Agência Brasil)

【深沢】〃大掃除〃といえば、ブラジリアでも始まって来たね。しかもジェット噴射(ラヴァ・ジャット)で、しつこい汚れを一気に洗い流す、と。ね、沢田くん?
【沢田】ジウマ、クーニャでしょ(笑)
【深沢】戦後一番の盛り上がりじゃない?
【沢田】でしょうね。だって、全世界で大統領罷免が二人あった国っていうのは他にあるんですかね?
【深沢】わずか25年の間に2回だからね。多すぎだよね。
 この間、調べたら、戦後を通して「選挙で選ばれて任期を全うした大統領」というのは4人しかいないんだ。たった4人だよ。
 それ以外は途中で辞任、罷免、クーデター、もしくは軍政だから選挙で選ばれていない。つまり、それだけ民主主義が根付いてないってことだろうね。
【沢田】とにかく大統領の罷免二人は聞いたことないですね。まあ、政情が不安定なアフリカの国とかだったらあるのかもしれないけど。まあ、欧米社会圏ではないでしょうからね。
【深沢】うん。聞いたこと無いね。しかも、手続きが長いよね。長すぎ!
【沢田】あれだけ時間かけたんだから、ゴウピ(クーデター)とは言わせないぞ、と。
【深沢】あれは、民主的だよね。
【沢田】9カ月もかけて「民主的じゃない」というんなら、何してもムダでしょ、というレベル。
 それに、ジウマ氏が大統領の座を脅かそうとする人たちに延々と言い続けている「ゴウピ(クーデター)」という〃呪文〃が、またひどい。
 そのおかげで、せっかく成し遂げた罷免に対して、国民が今ひとつ自信を持てないままになっている。大統領罷免というのは憲法で保障された正式な手続きにも関わらず、ですから。
 そもそもジウマ氏には、公的銀行からの支出を10倍に増やし、国の予算見積もりを大幅に狂わせた「財政責任法違反」という十分な犯罪がある。
 それ以前に、いくら大統領という身分が保証されているからと言って、自分の所属政党(PT)が、国の経済を支える石油公社ペトロブラスの財政を汚職で狂わせたこと、繁栄していた経済をマイナス成長に突き落としたこと、支持率が10%を切ったことなど、「引責辞任」してもおかしくない要因なら、いくらでもあった。
 これが日本なら首相が2、3人、引責辞任してもおかしくない内容だった。
【深沢】2、3人なんてとんでもない。日本なら「首相5人」「大臣20人」は代わっていたね(笑)。
【沢田】ところが、ジウマ氏は「選挙で選ばれた大統領の地位を脅かすのはゴウピだ」とひたすら繰り返した。それが、ただ単に「左翼」という連帯感だけで、南米の左翼系政府、アルゼンチンのクリスチーナとか、ベネズエラのマドゥーロから支持を得てしまった。
 だいたい、ハイパー・インフレと政治犯への圧制で国際的に批難を受けて、国民からも強い反発がでている、あのベネズエラですよ。
 ジウマ氏が使う「ゴウピ」という表現をマドゥーロ氏が真似して、国民を圧制する自己正当化に使っている。ジウマ氏は、そんな悪影響を南米中に広げた。
【深沢】ジウマの罷免手続きがクーデターというのなら、PTがいう「民主的な罷免手続き」には10年かかるね(笑)。それが終わる前に、次の大統領選挙がきちゃうよね。あっ、それを狙っているのか。


変調の兆しは13年6月

【深沢】今の流れを遡れば「最初の変調の兆し」は、2013年6月のサッカーコンフェデ杯だよね。
 あの時に、初めてネットによる呼びかけで大規模なマニフェスタソンが起きた。でも、あの時は呼びかけた側も何が起きているのか分からないような所があった。
【鈴木】そして、翌2014年3月にはラヴァ・ジャット(LJ)作戦が始まった。その頃は皆、ただの「連警の捜査の一つ」位にしか思っていなかったんですけどね。
【井戸】サッカーW杯はそのすぐ後の14年6、7月。リオ五輪同様、前評判は最悪だったけど、大会運営自体は無難に。
 ただし、ドイツに7対1の歴史的な屈辱を受けたこと以外は無難に、ですけど…(涙)。
【深沢】今思えば、LJ作戦が始まった「運命の年」だったよね。W杯の直前にLJが始まって、W杯のすぐあとの9月にLJ初のデラソン・プレミアーダ(司法取引証言=報奨付き供述)が認められた。
 一人目のデラソンはペトロブラス幹部のパウロ・コスタ、二人目が闇ブローカーのアルベルト・ユセフ。とんでもない汚職疑惑が明らかになって、LJ作戦に一気に注目が集まり始めた。
 そのさなかの9月、10月に大統領選が繰り広げられ、ペダラーダ(粉飾会計)でウソをつき、都合の良い数字だけをアピールしまくったジウマが、接戦を制して再選を決めた。


大きな変調は15年8月

8月31日、初めて正大統領として声明を発表するテメル氏(Foto: Beto Barata/PR)

8月31日、初めて正大統領として声明を発表するテメル氏(Foto: Beto Barata/PR)

【深沢】2014年11月にジウマ再選が決まってから、どんどん不況感が強まっていたのに、発表される経済数値は悪くなくて、なんか奇妙な状態が続いていたよね。
 明けて15年前半の生活実感としては、フェイラのトマトの値段が30~40%も上がるとか、インフレが悪化し、明らかに景気が悪くなっている。
 でも、6月頃の失業者率が史上最低ぐらいに低かった。発表した担当官も、「なんでこんなにいい数字なのか僕らも良く分かりません」みたいな奇妙なことを言っていた。あの頃が、ズレのピークだったような気がするね。
 14年10月の大統領選にむけてやっていたペダラーダ(粉飾会計)を、そのまま続けていた。だから実態経済との差があまりにひどくなり、隠しきれなくなって、15年8月以降に最悪の数字が出てきた。6月の時点では「時間の問題」という状態だった。
【沢田】LJ作戦で明らかになった汚職への国民の怒りが集まって、15年8・16デモではパウリスタ大通りで35万人(軍警発表)とかなり盛り上がった。
【鈴木】ジウマは粉飾会計をできる限り続けて、不人気な緊縮財政をとらずに、経済拡大政策を押し通したかった。
 だから、ルーラ政権の財務省局長で、国際的な知名度が高く、市場からの信頼感も厚いジョアキン・レヴィ財相(当時)を連れてきた。だけど、緊縮財政を主張する彼と経済拡大政策を押すジウマやネルソン・バルボーザ企画相(当時)との対立が目に見えてひどくなったのも、この頃ですよね。
 最後はルーラからの圧力もかかって、レヴィ財相は15年12月に辞任。翌月には本来の彼の持ち味を知る世界銀行にひっぱられたけど。
【深沢】国民の怒りを背景に、連邦検察庁はLJ作戦(LJ)の一環で、クーニャ下院議長(当時)への起訴状を8月20日に最高裁へ提出。罪状は収賄と資金洗浄。
 焦ったクーニャは、ジウマに言うことを聞かせようとして、最大会派セントロンを動かしてジウマ政権が提出したCPMF復活とかの経済振興法案をことごとく蹴散らした。
 今思えば、クーニャはジウマに連邦検察庁の動きを止めさせようとしたんだろうね。でも、ジウマは司法に干渉しない主義を貫いた。
 本当はそれが当然なんだけど、おそらくPT政権以前、大統領府と最高裁や連邦検察庁は、どこかなれ合っている部分があった。
【沢田】今もまた「談合」を再開しているしね(笑)。


映画『ペトロロン』できたら誰がクーニャ役?

罷免される直前、必死の形相のクーニャ下院議長(当時、Foto: Lula Marques/Agência PT)

罷免される直前、必死の形相のクーニャ下院議長(当時、Foto: Lula Marques/Agência PT)

【鈴木】そんな2015年8月26日に「ラヴァ・ジャット作戦」を指揮して一躍名を上げていた辣腕の連邦検察庁のロドリゴ・ジャノー長官の再任を、上院は正式に承認した。
【沢田】この時にすでに、検察庁から容疑をかけられていたコーロル上議は、ジャノーの諮問会に朝一番ではせ参じ、最前列を陣取って「フィーリョ・ダ・プッタ」と叫んで、ジャノー長官に怒りをぶつけた(笑)。
【深沢】ああ、あの時のコーロルの憎しみのこもった表情はすごかったよね。「般若の面」そのもの。人間、あんな怖い顔ができるんだとびっくりした。〃悪役〃をやらせたらコーロルの右にでる役者はいないよね。
 もし将来、映画『ペトトロロン』や『LJ作戦』ができたら、コーロル役はこまるだろうね。あんな、こわい顔できる俳優がいるだろうか。
【沢田】おっと悪役といえば、クーニャを忘れちゃいけませんね。
 14年12月から15年9月までクーニャは、ブラジル政治史上に残る〃悪役〃振りでしょ。記者会見では極めて冷静なふりをして、裏ではとんでもなく激怒している。
 しかも目が離れているからか、オデブレヒト社の汚職分配部門でのあだ名は「カランゲージョ(かに)」。あの怪しい雰囲気を再現できる役者は難しいでしょ。
【鈴木】ええと、それはおいといて…、と。
 2015年8月に起きたことで、みのがせないのは、地理統計院(IBGE)が28日に発表した第2四半期の国内総生産(GDP)ですね。2期連続で前期を下回って正式にリセッション(景気後退)におちいった。
 同じ8月、国際的には中国発の世界株安が起きて、サンパウロ証券取引所でも8月24日には一時的に6・4%も大下落していましたよね。
【深沢】国際的に見てそんな大変な時に、最悪の国内の経済数値が発表され、政局もジウマとクーニャの対立が行き詰まっていた。それなのに、ジウマはそれに輪をかけて自殺行為をした。
 クーニャ率いる下院議会が、年初から経済政策を否決し続けるのに嫌気がさして、当てつけのように8月31日、前代未聞の赤字予算案を提出した。「経済が悪くなったのはアンタら議会が悪い」と言わんばかり。
 でも本当のところを言えば、ペダラーダをやりきれなくなってお手上げを宣言した部分も。
【鈴木】あの直後にブラジルCDS(金融派生商品)がグッと急上昇しました。その流れで、今度はスタンダード&プアーズなどが投資格付を次々に引き下げて、9月はドル高が一気に急進した。
【深沢】この流れで、外国からブラジル国債を買っていた投資家たちは大損し、さらに資金が大挙流出した。その結果、94年のレアル・プラン導入後初の1ドル4レアル超えを記録した。そのまま国債を持ち続けていればいいのに、危機感を持ち過ぎて売り急ぎ、傷口を広げた感じかな。
 とにかく15年の8月、9月は大激動期だった。実態経済が悪いということが暴露され、隠されていたウミがブワーッと吹きでてきた。
【鈴木】ブラジルの場合は経済数値と、大統領支持率が完全に比例しますよね。16年初めには大統領支持率が10%以下に。なんとインフレ率より支持率の方が低い!!!
【深沢】「大統領制」がよくないのは、支持率が下がっても、それが罷免の理由にならないことだよね。
 日本の様な「議院内閣制」だと、支持率が下がれば、首相が即「議会解散」を宣言して、国民の信を問うことができる。そうすれば、国民が一から議員を選びなおせる。
 今のテメル政権のように汚職議員ばっかりだと、政治不信が高まるばかり。一から選びなおすのが一番いいと思うけど、ブラジルの制度ではそれができない。そのへんの政治改革が今後の大きな課題だよね。


15年12月から罷免カーニバルに突入

最後まで「ゴウペ」を繰り返したジウマ大統領(当時、Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

最後まで「ゴウペ」を繰り返したジウマ大統領(当時、Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

【深沢】LJ作戦では15年11月に「ルーラの親友」ブンライが逮捕され、一気にルーラ包囲網が狭まった。
 そんな12月、クーニャの議席剥奪を審議する下院倫理委員会で、同じ与党であるはずのPT議員が審議開始に賛成票を入れることになった。それを聞いたクーニャは12月2日、ジウマ罷免審議開始を決断。そこから先は、もう凄いことになったね。「罷免カーニバル」状態(笑)
【井戸】何といっても、サンパウロ州検察が16年2月頃から、ルーラのトリプレックス(三層住宅)捜査を本格化したのが大きい。
【沢田】そうそう。あれでルーラがひょっとしたら逮捕されるかも、となった。「これはやばいぞ」とルーラやPTのメンバーがあせったから、ジウマが血迷い、「大臣不逮捕特権」を与えようとしてルーラを官房長官に指名したから、国民も怒った。それが、16年3月15日にパウリスタ大通りで100万人規模のマニフェスタソンが起きることにつながった。
 反PT、ジウマ罷免の声が高まるなか、3月にPMDBが与党を離脱してからは、リオ五輪を目前に控えて、インピーチメントの流れが一気に現実味を増した。
【深沢】16年4月以降はクーニャの裏技がさえて、一気に下院議会で罷免審議を承認。ジウマが停職になってテメルが暫定大統領になったら、今度は、レナンが上院でも罷免を成立させた。圧倒的多数をPMDB、PSDBら現与党が占めていたから、PTが何をいってもムダという状態の中で、罷免が粛々と強行された。
 でも今になって分かるのは、あの時にジウマ罷免に賛成していた議員の多くは、「LJ作戦を止めたい」という動機で罷免の側についていたことだよね。
 ルーラに言われても、ジウマ大統領とジョゼ・カルドーゾ法相は司法に口出しをしなかった。今思えば、その点は立派だった。LJ作戦が今のように進んできたのはそのおかげ。でも、それゆえに反発が強まり、ジウマは罷免された。
 だからテメル暫定政権ができた時から、次々とLJ作戦を邪魔する意図があることが盗聴などで暴露されて、大臣が辞任させられている。LJ作戦を止めるために大臣になっている、みたいな。
【井戸】リオ五輪では、ネイマール率いるサッカーのセレソンが優勝して「サッカー王国復活」を印象付け、そのすぐ後にジウマ正式罷免となり、一瞬「もうブラジルの最悪の状態は底を打った。あとは良くなる」というあかるい未来像、今思えば幻想ですが―が広がった感じでしたよね。


司法と立法の対立の内幕

【深沢】テメルが16年8月31日に正式に大統領に就任して約100日が過ぎた12月初めに、一気に政局が流動化した。
 最優先課題の「歳出上限法」が成立せず、いらだちが高まっていたところへ、ジェデル大統領府総務室長官が文化相に自分のアパートのことで不当な圧力を掛けていたスキャンダルが発覚し、一気に政局が沸騰状態に。
 テメルは下院議長と上院議長と一緒に、日曜日の昼という異例の時間帯に記者会見を開いて、「国民の声に従う。Caixa2容認法案が来ても拒否権を行使する」と大見得を切った。
 そこへ突然、最高裁判事からレナン上員議長の解職仮処分が出た。大統領府が取り持って最高裁と裏交渉し、「大統領継承権は剥奪するが、議長職は継続」という談合判決がでた。
 どうやら、上院が職権乱用防止法とスーペルサラリオ問題を一時的におさめるのと引き換えに、レナンを残留させることを約束したとの報道が出ている。
【鈴木】生き残ったレナンは年末に歳出上限法を正式成立させて見事にお役目を果たし、大統領府的には「めでたし、めでたし」と。
【深沢】テメルが「国民の声に従う」と言ったその後の展開を見ていると、一番、従っているのは、やっぱり「議会の声」だよね。
 はらわた煮えくり返っているのは、ここでレナンを辞めさせたかった連邦検察庁。さっそくオデブレヒト社のデラソンをリークして、今回の裏取引を主導したテメル大統領およびPMDB、PSDBの汚職スキャンダルをマスコミに報道させたらしい。
 怒ったテメルは、ジャノーに名指しで「LJ作戦のデラソンの内容が断片的にリークされると、政局を流動化させて、大事な経済政策を決める邪魔になる。早く作戦をすませろ」との文章を送った。
 つまり、「お前がリークしていることは分かっている。そのせいで迷惑をもうむっている。なんとかしろ」と名指しで脅した。
【鈴木】そんな感じで司法が、最高裁と連邦検察庁で大きく分裂している感じがでてきたのが、この12月の特徴でしょうか。くわえて「汚職防止法案」を下院に差し戻したフックス最高裁判事の判決は、「立法府の総意といえる決議を、判事の単独判断でひっくり返した。司法が立法に口を出し過ぎ」と反発を招いている。


実は司法にもある引け目

【深沢】最高裁は本来、最後の砦として国の安定化を最優先した判断を下す「パシフィカドール」だと言われてきた。でもその役割をすて、立法府(連邦議会)や行政府(大統領府)に干渉しすぎという声がでている。
【沢田】ほっておけば、オデブレヒト社のデラソンだけで200人からの政治家の汚職が告発されるとも言われている。だから、上下両院の3分の1近い政治家に容疑がかかるような空前絶後の大混乱が、新年の前半に予想されますよね。
【深沢】連邦検察庁やクリチーバ連邦地方裁判所が徹底的にLJ捜査を進めて、立法府(連邦議員)を苦しめ、それに反発した政治家が最高裁を味方に付けて、談合で反撃するような図式が、9月以降強まっている。
 政治家側からの反撃の方法としては、違法な高給をもらっている高級司法官僚のスーペルサラリオ問題や、リークを止めさせるための「職権乱用防止法」を振りかざしている。
 でも、よく考えたら司法自体が「違法なリーク」を武器にして、政治家を追い詰めている構図というのは、とても危険なものがあるよね。
 それにスーペルサラリオ問題は、違法な高給をもらっている司法の方が悪い。ネット上のいろいろな告発には「LJ捜査陣の××もスーペルサラリオを貰っている」とかいうものもある。司法側だって、けっして完璧な〃正義の見方〃じゃないよね。彼らも身を正すべきところがある。


「復讐としてのデラソン」もありえる?

【鈴木】今年も首都ブラジリアは、クリスマスからカーニバルまではほぼ動かないですね。
【深沢】毎年のことですけど、12月20日頃から2月半ばまで、ほぼ2カ月間も国の中枢が完全に止まるのって、ほんとオカシイですよね。1日で世界中の株式相場が大変動するこの時代に。
【沢田】この1月、何といっても気になるのは、この12月末に最高裁に提出されたオデブレヒト社のデラソンですよね。
 テメル大統領が1千万レアルの賄賂を要求していたとか、数多くのPMDB要人への疑惑はもちろん、いままでペトロロンに引っかかっていなかったアウキミン聖州知事(PSDB)の名前が初めて疑惑の人物として出てきたでしょ。
【深沢】議会や最高裁よりも一足先に1月から仕事を始める検察庁や連邦警察によって、オデブレヒト社のデラソン証言が続々とリークされる可能性があるよね。
 去年の今ごろは、ルーラのアチバイア豪邸問題や三層住宅賄賂問題がいきなり出てきて大沸騰したように、今年も議会が動き始める2月中頃までに、ふたたび国民の不満が溜まっている可能性があるよね。
【沢田】だいたい、オデブレヒトの証言といっても、マルセロ元社長はルーラ元大統領と長年ビッタリとくっついて利益を吸ってきた人物、いわばペチスタ(PT派)に近い人でしょ。
 だからオデブレヒト幹部らの証言には、PTを政権からゴウペで引きずりおろした裏切り者PMDBへの報復という意味が込められている可能性がある。それに結託して、2018年の大統領選挙で甘い汁を吸おうとしているPSDBを含めて、デラソンを使って引きずり降ろしてやれ、という力が働いている可能性は十分にある。
 もっとも、PMDB自体は、古くから汚職体質で悪名高い政党だから、その政治家がデラソンで出てくることは当然なんですけどね。
【深沢】おおっ! そりゃ、深い見方だね。PMDB、PSDBへの復讐になるような証言を選んでしつつ、自分たちも減刑してもらうというオデブレヒト流「一石二鳥」作戦か。たしかに200人の政治家の名前が汚職リストになっているという話だから、ほぼ政界全滅に近いよね。
【沢田】このまま汚職暴露、逮捕、罷免が何十人も続いて起きたら、国民からは「今の政治家は誰がやってもダメ」という怒りが強まる。
 あまりにそっちに行き過ぎると「いっそのこと、軍政に戻った方が良い」という極端な方に振れてしまうんじゃないか、という恐れがありますよね。
 だいたい、ここ数年、欧米国家ではポピュリズムによる右傾化が進んでいますから、ブラジルにもその影響が出てくるでしょうし。
 軍政では、事態は解決するどころか、もっと悪くなるだけの可能性が高いですよ。独裁政権では一部の力を持った人だけに恩恵が集中して、その分、モラルより欲を優先させた汚職も悪化するだろう。
 議会は意味を持たなくなり、憲法だってないも同然になっちゃう。1964年から21年間も軍政下で自由のない生活を強いられ、それを屈辱に憲法を再び獲得した国なんだから、本当は分からないとオカシイ。
【深沢】だからこそ、今の段階では、軍政に強い嫌悪感を示す国民の方が多い。
 だけど、あまりに「政界が汚職まみれ」「憲法を修正しないと総選挙やり直しはムリだけど、政治家はそれをやりたがらない」という状況が続くと、国民のストレスが高まるよね。


本当のどん底は2017年前半か

LJ作戦を牽引するクリチーバ連邦地裁のセルジオ・モロ判事(Foto: Pedro de Oliveira/ALEP)

LJ作戦を牽引するクリチーバ連邦地裁のセルジオ・モロ判事(Foto: Pedro de Oliveira/ALEP)

【鈴木】新年2月には上院も下院も議長選挙。新しい議長が気になるところですね。
【深沢】いまのところ新年2月に選ばれる新上院議長はレナンの後継者、新下院議長もテメル派の人が就く可能性が高いような感じがするけどね。セントロンではなく。
 でも、基本的に〃泥だらけ〃の人ばかりだから、綺麗な人を探すのは難しい。調整能力がある人は大体〃泥だらけ〃。
【鈴木】あと、最高裁のテオリ・ザヴァスキー判事は2月初めに、オデブレヒトの報奨付供述を認めるか否かの判断をするつもりだけれど、その頃になればデラソンのリークを抑えようとする政治家の動きがさらに高まって、「司法と立法の戦い」が次の段階に入るかも。
【深沢】それに対して3月にまた大きなマニフェスタソンが起きる可能性もある。その時にテメルが標的になるかどうかで、その後の政権の揺れ具合が変わってくる。
 来年の前半、どこまでオデブレヒトのデラソンの内容が出てきて、どうなって行くか。その間、政局は安定しない可能性があるね。その中で、年金法を改正していくのは、大変な力技が必要だろうね。
【井戸】でも、来年前半のテメル政権の最優先課題は「年金改正法案」ですよね。
【深沢】大穴の開いた風呂桶に、いくら水を注いでも漏れるだけだからね。
 「歳出上限法で政府支出」「年金改革法で年金支払い」という2大赤字の〃穴〃をふさがないと、景気刺激策という水を注いでもダダ漏れするだけで効果がない。
 それに「年金改革法」を通したら、次は「労働法改革」が待っている。テメル政権を支持してやるから、その間に不人気政策を全部やっておいてくれと、PMDBあたりがせっついている気がする。
【鈴木】とにかく新年の前半に年金改革法を通さないと、後半に本格的な景気刺激策が打ち出せない。旧年12月に出された景気刺激策は、ジェデル、レナン問題で大統領支持率が落ちたのを回復させるための、その場しのぎの人気取り策といわれていて、本格的な景気刺激策にはほど遠い、「パコッチーニョ」とバカにする専門家も多いみたいですね。
【深沢】本格的な景気刺激策を開始したって、半年ぐらいしないと回復の結果は見えてこないでしょ。だから2017年後半にいい数字が出てくるかどうかは、疑問。
 政治家の皆さんは、次の統一選挙がある2018年を見ている。その前半に景気上向きのサインが出てきてくればOKと思っていると思うね。
【井戸】中銀が出したレポートでは2017年末のインフレは4・93%に抑えられ、SELICは10・5%に下がっていて、経済成長はプラス0・8%に転じている、といってますけどね。
【沢田】…希望的だね。
【深沢】怖いのは、リオ五輪直後に「今が底だ」とみんな思っていたけど、実は新年前半が底だったと分かった時の絶望感。ガックリして、さらに撤退する進出企業が出てくるかも。
【沢田】新年の前半まで政局はもめにもめて、6月越えたら「もうそろそろ大統領が変わることはないな」と皆が思いはじめ、そこでようやく「18年の大統領選まではテメルで行くんだな」と腰が落ち着くような気がする。
 2017年6月をテメルで越えたら、あとはもうそのまま、と。
【鈴木】選挙高等裁判所(TSE)のジウマ―テメル連記名簿(シャッパ)の裁判では、テメルも同罪で資格剥奪となる可能性もまだまだ残されていますよ。
 そうなっても、大統領選挙やり直しではなく、議会内で連邦議員同士の間接選挙で選ばれるだけだから、結局はテメルの後継者かなと。それなら「テメルのままでも一緒」といえなくもない、という諦めの力が働く訳でしょうね。


今の国政に前向きな解釈も十分可能

LJ作戦のデルタン検察官(Foto: Pedro de Oliveira/ALEP)

LJ作戦のデルタン検察官(Foto: Pedro de Oliveira/ALEP)

【沢田】ブラジルのバブル経済は2013年頃に終わってしまった。今は「真の先進国」になるための政治的、社会的なモラルの確立を試みている時期だという気がする。
 13年6月のコンフェデ杯のときのマニフェスタソン以来、国民が政府に抱えてきた「なんとなくの不満」は、3年後には「大統領や下院議長を民主的に罷免」まで行った。
【深沢】大統領を罷免しなければいけない状況自体は悪いことだけど、視点を変えれば、国民が罷免できたことは民主主義としては素晴らしいこと。
 「戦後を通して、選挙で選ばれて任期を全うした大統領は4人しかいない」という「民主主義未成熟状態」から、国民が脱皮を図っている時期―という見方もできるよね。
【沢田】そうそう、「ブラジルの民主主義はそれだけ浸透し、根付いた」と前向きに解釈することが必要じゃないかと思うね。
 だから、あまり大慌てで切迫した気分のまま、あまりに「理想的な社会・政治」を急激に求めようとしない方がいいんじゃないかな。
 1789年のフランス革命が良い例だけど、あれも民衆が求めて王政を打倒したものの、政治の透明性を求めすぎて断罪を繰り返した末に、政治が素人化して世の中が大混乱におちいってしまった。
 その大混乱をまとめるには、結局、独裁者ナポレオンがでてくるのを待つしかなかったでしょ。
【井戸】オデブレヒトのデラソンで200人の政治家に容疑がかけられ、そのうちの半分ぐらいが逮捕・罷免されただけで、国政が大混乱になりますよね。
 逮捕されなけば、されないで、国民からの司法への不満がつのるばかり。司法も信用できないとなると、あとは軍しかないという方向へ…。
 そしてその間、景気刺激策の審議が先送りされる―という最悪の展開の可能性ですね。
【深沢】何事も「やりすぎ」はよくないよね。倫理を求めて捜査をしたはずが、結果的に国政のゴチャゴチャを長引かせて、にっちもさっちもならなくなって、国民は事態を収拾してくれる「カリスマ登場」を待望するようになるっていうパターンかね。
 LJ作戦の元ネタになったイタリアのマン・リンパ作戦も、連立与党4党を消滅させるぐらいの大成果をあげたけど、その後に出てきたのは後ろ暗いカリスマ・メディア王、ベルルスコーニ首相でしょ。彼はマン・リンパ作戦で容疑が掛けられたが生き残って、首相の座に就いた。その結果、マン・リンパ作戦は尻つぼみに―と言われるよね。ブラジルの場合、まさか「ルーラにもう一度」ってことにならないことを祈るけど。
 イタリアでも「汚職は減った」と一定の成果があったことは皆が認めるけど、「汚職がなくなった」とは誰も言わない。結局、「国民の汚職文化を変える」というところまで踏み込まないと、司法の力だけでは限界があるよね。
【沢田】せっかく良い動機で始めたことでも、感情的になりすぎて、ひとつひとつの物事の冷静な判断を見誤れば、命取りにもなる。
 政治の浄化も、経済の建て直しも、思い通りにことが運ばないことへのもどかしさから、国民が「落とし穴」にハマる恐れがどうしてもでてきてしまう。2017年は、そこにハマらずに進んでいけるかが肝心じゃないかな。
【深沢】つまり新年の注目点は、なんといっても「ブラジリア・スキャンダル劇場」の筋書きの行方だね。最後には、とんでもない「大どんでん返し」が待っていたりして…。
 モロ判事やデルタン検察官、ジャノー長官とかが、国民の期待を見事に裏切って、ハニートラップ(敵が仕掛けた女性関係のワナ)に引っかかって愛人スキャンダルを起こして辞めさせられるとか、もしくは殺されるとか。
【鈴木】ああ、やめてください!!(ほぼ悲鳴)。これ以上、政局を混乱させないでください。ただでさえ旧年は大事件が多すぎて、書き切れなかったことが沢山あったのに。新年はもっとですか?!

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