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自分史 戦争と移民=高良忠清=(6)

 福地(フクヂ)村の入り口に馬小屋があって、そこに入ってみると、そこにも数人の住民や兵隊達が隠れていた。
 その仲間に入れてもらい、又数日がたった頃、偶然兄が四、五人の兵隊と一緒に、一袋のお米をここに居合わせた部隊に配給するために現れたのです。
 兄が上官に自分の親兄弟ために少しを分けてもらうようにたのんで、手のひら一杯ほどのお米をいただきました。その後、兄は別れを告げ去っていった。
 この馬小屋には毎日避難民達が出たり入ったりしていて、ある日の夕方、二十歳前後の娘が顔に傷を負って運び込まれた。その女は座ったまま眠ってしまった。
 女が寝ている間にも屋根の上に大砲の弾が落ちて、私は左手の親指の根元に破片で傷を負い、血が股間に落ちた。見ると指先ぐらいの傷で破片が中に入っていないか、右手の指で中まで開いてみたが何も入ってはいなかった。
 そんな騒ぎの中、大人たちはそれでもまだ眠ったままの女に気がつき、起こそうと揺す振ってみたがもう息絶えていた。
 そのままにして置くわけにはいかず、まだ力の残っていた大人たちが小屋の後ろにあった大きな艦砲弾の穴に運びこんだ。
 二、三日すると膨れ上がった死体の上に又艦砲の弾が炸裂して、娘の亡がらは跡かたも無く飛び散った。

火を噴く戦車

 その翌日、両親と姉は、私一人をそこに残して別の隠れ場所を探しに出た。しばらくして不思議な音が聞こえてきた。だんだん近く高くなる音のする方を見ると、大きな敵の戦車四台が小屋の前を通って二百メートルほど前方に止まった。その周りには上陸した敵兵が後に続いていた。
 小屋の中に居た日本兵達は敵を目の前にしてとび出て行くがバタバタと倒れた。戦車は火炎砲で家々を焼いた。中に隠れていた者は激しい炎の中で焼け死んだに違いない。戦車は戻ってきて私の隠れていた小屋の前で止まった。
 今度はこの小屋だと、自分は子供ながらもう諦めていました。すると一台の戦車から敵兵が降りて仲間のところへ行った後、戦車は又歩き始めそのまま去って行った。戦車がもう見えなくなってから、私はやっと安心して胸をなでおろした。
 夕方には母が私を探しに来てくれて、皆で又そこを逃げ出したが、もう沖縄の最南端、それより先は無いところまで来た時、家族連の人達が、「どうせ死ぬのなら、自分の家(部落)で死ぬほうが良い」と言って戻ってきた。那覇に帰りたいがここからどうやって帰ればよいのか分からないと父に悔やんでいた。
 そこで父が、俺は道を知っている、もしあんた達が俺と子供を担いでくれるなら一緒に行こうと持ちかけると皆が同意した。
 二人が父を二本の棒で担ぎ、私は背負われて昼間、戦車が帰った道を歩いていった。

敵に助けられ

 糸満(イトマン)に着いて、父が「ここは糸満です」と言った時、そこから先はもう自分達で分かるからと、私も父もその場で降ろされた。

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