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健康に長生きするコツ=ボケないための生活作法=こんなとこに気をつけて!

高齢化の波はブラジルにも迫っている(Official White House Photo by Pete Souza)

高齢化の波はブラジルにも迫っている(Official White House Photo by Pete Souza)

 「長生きするなら元気でいたいし、ボケたくない」――。ブラジルの平均寿命はここ30年で10歳以上伸び、最近は高齢者人口の増加も取りざたされる。長生きは喜ばしいけれど、できることなら心身ともに健康でいたい。どのように生活すれば年齢を重ねても元気でいられるかは、大きな関心ごとの一つだ。JICAシニアボランティアとして高齢者の健康指導にあたる鈴木京子さんは、「当地の高齢者は日本より活発だし、元気な人が多い」と話す。いつまでも元気な高齢者は何が違うのか。「ご長寿老人」に話を聞き、彼らの生活を垣間見ることで、そのヒントを探した。

趣味の三線に没頭=夫婦で元気な島袋さん

食後、おいしそうにアイスをたいらげる島袋金十さん。妻のしげさん曰く「アイスが大好きでいつも食べている」とのこと

食後、おいしそうにアイスをたいらげる島袋金十さん。妻のしげさん曰く「アイスが大好きでいつも食べている」とのこと

 沖縄県人会本部で「スザノ支部に元気な高齢者がいる」と聞き、聖州スザノ市に向かった。沖縄県は既に平均寿命1位の座を他県に譲り渡しているが、それまでは長らく「長寿県」として知られた。
 スザノ在住の島袋金十さん(沖縄県)は現在95歳。戦前は出稼ぎでサイパンにいたが、終戦後にブラジルに移住した。
 「若い頃は家族と共に畑仕事に打ち込んだ」と話す金十さんだが、仕事が落ち着いてきた60歳ごろから三線に打ち込み始め、指導者にもなった。今はさすがに耳が遠くなったようだが受け答えはしっかりしている。
 妻のしげさん(86・沖縄県)に、夫婦ともども元気な理由を尋ねると「家族と一緒に暮らしているからかしら」と答える。島袋家は金十さん、しげさん、息子夫婦、孫ひとりの5人暮らし。日ごろから昼と夜は家族と一緒に食事を取るし、外出したいときは家族が車で送迎してくれるので、家にこもらない。
 しげさんは琉球舞踊指導者としての経験があり、今でも練習に顔を出している。方や金十さんは5月にスザノのカラオケに大会に出場し演歌を熱唱。二人とも精力的だ。
 話しを聞きながら昼食をとっていたが、金十さんはとにかく食べる。煮物、野菜の天ぷら、豚汁とご飯。肉と野菜をバランスよく取り入れた食事だ。金十さんはご飯をお代わりし、食後にはどんぶりいっぱいのアイスを平らげた。
 そんな健啖家の夫の姿を笑顔で見ながら、しげさんは「好きなものを好きなだけ食べるのも長生きの秘訣かも」と笑いながら話した。

日本舞踊、民謡、カラオケ=「毎日忙しい」と玉井さん

友人たちと一緒に民謡を楽しむ玉井さん(写真右)

友人たちと一緒に民謡を楽しむ玉井さん(写真右)

 ブラジル日系熟年クラブ連合会の民謡教室に参加していた玉井須美子さん(90、宮城県)は「毎日忙しくてしょうがない」とせかせか話す。
 玉井さんは聖市ピニェイロス区で息子夫婦と孫の4人暮らし。今も舞踊指導者として活動し、週に3日は朝7時から9時まで盆踊りを、11時から15時半までリベルダーデ区で日本舞踊を教えている。他にも民謡、カラオケなどイベントにも足繁く通い、「やることが多すぎてボケている暇が無い」と老いを笑い飛ばす。
 移動手段はもっぱら歩きと地下鉄。階段の上り下りも不自由なく、友人からは「怪物みたい」と評される。昨年は友人と日本に行き、たっぷり40日間の旅行を元気に楽しんだという。
 本人に健康であり続ける秘訣を聞くと、「よく食べて、よく寝て、くよくよしない」と話す。「よく食べるといっても昔から腹八分目までにしている。でも食べなくなるのはダメ。好き嫌いは全く無い」。
 玉井さんの持論では「楽したら早くボケる。人生は張り合いが無きゃダメ」とのこと。やはり「たのしく身体を動かす」には民謡、舞踊が最適のようだ。

 

「テレビ生活はボケやすい」=家族と楽しく会話を

 サンパウロ日伯援護協会に介護で派遣されたJICA青年ボランティア岡本洋美さん(37)は、聖州内50カ所以上の日系移住地を巡回し、診療の同行や認知症予防について講演を行ってきた。
 岡本さんは、認知症になりやすい生活パターンのひとつとして「退職後にやることがなくなって、テレビばかり見て過ごすこと」を挙げた。「頭を使わないと認知症になりやすい。特に今まで働いていて急にやることがなくなると急速に物忘れが進むことがある」という。
 「巡回先で会う高齢者の方から『ボケたくない』という声をよく聞くが、日本と比べて認知症の症状が進んでいる人が少ない印象」と話す。その理由として「ブラジルは核家族が少なく、日ごろから家族と会話をする機会が多いからではないか」と推測。「老後の楽しみを持っている人は、やはりぼけづらい。ここでは高齢者が習い事したり、友達と話したり、活動的。楽しみが増えると次の日への希望が芽生える。何もしないのは良くない」と話した。

 

健康の秘訣は人生を楽しむこと!?

笑顔を作るだけで脳が楽しいと勘違いし、ストレス解消に役立つ (Photo by NicoBorie)

笑顔を作るだけで脳が楽しいと勘違いし、ストレス解消に役立つ (Photo by NicoBorie)

 玉井さんも、スザノの島袋さん夫妻も自分たちの趣味を持って、それを楽しんでいる。しかも、島袋金十さんは三線を本格的始めたのは60代から。
 平均寿命が伸び続けている今、どのように余生を過ごすかが悩みの種となる。ただ、だからこそ若い頃にできなかったことを、思いっきりできる絶好の機会とも考えられる。
 新しいことに挑戦したり、今までの趣味にさらに力を入れたりして、とにかく人生を楽しむことが最大の健康の秘訣なのかもしれない。

JICAボランティア=鈴木さん「自立した生活を」=笑顔、あいうべ体操を心がけて!

 JICAシニアボランティアの鈴木京子さん(66、宮城県)は、日本で20年以上に渡って老人介護に携り、現在は各地の老人クラブに訪れて健康維持のための運動や習慣を教えている。
 鈴木さんは「自立した生活を送ることがなにより大切」と話す。「家族が何でも世話を焼いてしまうと、自分で動かなくなるし、考えなくなってしまう。例えば買い物をして、店まで歩いたり、何を買おうか考えたりすることによって、体と脳が衰えるのを抑える」という。
 高齢者層が厚い日本では介護事業が進んでいるが、鈴木さんはそれを一長一短と考える。
 「日本では家族や介護職員が些細なことまで世話をするのが普通。でも高齢者ができることまで、代わりにやってしまう」と経験に基づく意見を述べた。
 前述の玉井さんは、目的地まで自分で向かい、様々な趣味を楽しんでいる。民謡の練習では「囃子(合いの手)を入れるタイミングが難しい」といい、真剣そのもの。まさに自分で行動し、考える「自立した生活」を体現している。

身近な健康法あれこれ

 鈴木さんは、日ごろから簡単にできる健康法として「とにかく笑顔を作ること」を挙げた。
 「口角を上げると『エンドルフィン』や『ドーパミン』などのホルモンが分泌されて、脳が楽しいと勘違いする。そうするとストレス解消やプラス思考になるのに役立つから、ただ笑顔を作るだけでも効果がありますよ。朝起きて鏡の前で笑えば、自分の笑顔も確認できるのでおすすめ」と話す。
 食事に関しては「嚥下機能が低下すると、食べ物が飲み込みづらくなり、柔らかいものしか食べられなくなる」と指摘する。

腕を上げる運動は体の老化防止に効果的と話す鈴木さん。補助的に棒状に丸めた新聞紙を使用

腕を上げる運動は体の老化防止に効果的と話す鈴木さん。補助的に棒状に丸めた新聞紙を使用

 「口周りと舌の筋肉がしっかりしていると、嚥下機能が衰えにくい」とし、普段高齢者に教えている「あいうべ体操」を教えてもらった。やり方は次の通り。
(1)「あ~」と口を大きく開ける。
(2)「い~」と口を横にあける。
(3)「う~」と口を尖らせる。
(4)「べ~」と舌を出して伸ばす。
 この運動を1セット10回繰り返し、日に3セットするのが理想的だが、「やってみると結構大変。慣れないうちは無理をせず」とのこと。

意外に高齢者に優しい社会

 鈴木さんはボランティアを始めてから、ブラジルと日本との高齢者を取り巻く環境の違いに気付いたという。「私が使う聖市内の交通機関の乗車券は男性だと65歳以上、女性は60歳以上が無料。車内には優先席が設置されているし、ブラジルの人は高齢者を見ると必ず誰かが席を譲ってくれる。日本とは大違いで驚いた」と話す。「これだけ高齢者が優遇されているから出歩くのが億劫にならず、好きなことができる」との考えを示した。
 また、「日本では高齢者が一人行動していると、近所の人から『あそこの家は年寄りを一人で出歩かせている』と白い目で見られることがある。だから家族もおじいちゃん、おばあちゃんをあまり外に出したがらない」と、日本の事情に触れた。
 「日本の介護施設で働いていたとき、バスから降りる施設利用者に手を差し伸べたら、他の職員から『そこまでやるのは過保護だ。海外の高齢者はもっと自立している』と言われた。だから、実際に自分で海外の高齢者や介護環境を見てみようと思ってボランティアに募集した」と話す。
 日本の専門家からすれば、ブラジルは意外に高齢者には〃向いた〃場所なのかもしれない。

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