ホーム | 日系社会ニュース | 《ブラジル》堀越・ラナリ協定60周年=ウジミナス関係者200人祝う=「両国の協力関係のシンボル」

《ブラジル》堀越・ラナリ協定60周年=ウジミナス関係者200人祝う=「両国の協力関係のシンボル」

州議会より記念プレートを受け取る江川常務

州議会より記念プレートを受け取る江川常務

 ミナス・ジェライス州政府は19日、州議会本会議場で「日本・ブラジル合弁製鉄会社設立に関する協定(堀越・ラナリ協定)」の調印60周年式典を開催した。同協定は、同州イパチンガ市にミナス・ジェライス製鉄所(ウジミナス)を設立することを目的に57年6月3日に調印され、のちに二国間における基本原則となった。会場には日本とブラジルの政府関係者、ウジミナス社OBら200人以上が集まり、式典の開催を祝した。

 冒頭、デルマ・リベイロ・シルバ州議会第二副議長、フェリペ・アティエ州議員、佐藤悟駐ブラジル日本国特命全権大使、新日鉄住金常務執行役員・江川和宏氏らが壇上に着席。両国歌斉唱の後、ウジミナス及び新日鉄住金の歴史を紹介するビデオが上映された。
 本式典発案者のアティエ州議員は挨拶で「ウジミナス鉄鋼事業がもたらした貢献は多岐にわたる」とし、「日本とブラジルの距離は遠く離れているが、だからこそパートナーシップを維持し、精神的には近い存在でありたい」と述べた。
 佐藤大使は「当時の日本は大戦から立ち直り、工業化の一歩を踏み出したばかり。クビチェック大統領は日本移民の勤勉さを見て日本への協力要請を決めた」と話し、「ウジミナス設立は二国の協力関係のシンボル。汗と涙が礎となっている」と功労者を称えた。
 新日鉄住金はウジミナスを持分法適用会社としている。江川氏は、ともにウジミナスに出資するアルゼンチンの鉄鋼大手テルニウムと経営を巡り対立が続いていることに触れ、「新日鉄住金(当時、八幡製鉄)は延べ400人余の社員を現地に派遣し、技術支援をした。60年の歴史は、ここ数年の争いでなくなるものではない。私たちはミナス州発展のための経営を考えている。皆様には引き続きのご支援をお願いしたい」と述べた。
 来場者のフレデリコ・アルベルトさん(74)は、68年から42年間、製鉄設備エンジニアとして勤務。研修で6回も訪日したことがあり、「日本人の仕事への真摯な姿勢からは学ぶことが多かった」と振り返る。「日本人もブラジル人も力を合わせて業務に取り組んだ。とても懐かしい」と話し、式典での旧友との再会を喜んだ。
 ジョゼ・アウリシオ・ファリアさん(60)は社内システムを構築する部署で働き、退職したのはつい1カ月前。近年の経営権争いについては「残念としか言いようが無い」と漏らす。「古参の人材を大量解雇し、会社としての方針を失っている。部下を指導し育てるという日本のスタイルもなくなりつつある」と内情を悲観した。
 ウジミナスは50年代後半、クビチェック大統領が急速な工業化の実現を目指し、重工業部門拡大の一環として設立された鉄鋼メーカー。日系社員が通訳や両国文化の媒介者として担った役割は大きく、66年には400人まで増加した。

 

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 14年の訴訟以降、ウジミナスの経営者選定を巡って法廷での争いが続く新日鉄住金。今年4月、3度目の訴訟に踏み切っている。江川常務は「経営地盤が弱くなり、社員が大量に解雇されている。(製鉄所のある)イパチンガの町は活気がなくなってしまった」と話す。「解雇により社内技術が無くなってしまうことが非常に不安。早期に経営の主導権取り戻す必要がある」とし、「人材、資金など経営資源を投入する準備がある。町が再び活気を取り戻すためにも、法的争いは避けられない」と強調した。一事は撤退も検討していたが、現在は争う姿勢を明確にしている同社。今後も動向が気になる。
     ◎
 ウジミナスでは、一時日系人が400人余働いていたが、式典会場にはその姿を見ることができなかった。「一般常識に明るく日本語・ポルトガル語両方の日常会話とある程度の読み書きができる」という条件で、募集は主にサンパウロ州とパラナ州で行なわれたという。多くの日系人が関わった事業の式典で、誰も来ないというのは少し寂しい。

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