ホーム | コラム | 樹海 | 《ブラジル》ヒアリより怖いものは?

《ブラジル》ヒアリより怖いものは?

3月にアカカミアリらしき虫に刺された痕

3月にアカカミアリらしき虫に刺された痕

 「“殺人アリ”が日本上陸!」――最近、日本では「ヒアリ」のことを盛んにそう報じている。南米大陸原産のアリの一種らしく、ウィキペディアを要約すると《世界の侵略的外来種ワースト100選定種。毒性の強い近縁種であるアカカミアリよりも強力な猛毒の針をもち、刺されると傷のような激しい痛みだけでなく呼吸困難、血圧低下、動悸などの複合症状を起こし、死亡する場合もある》とおどろおどろしい。
 これを見ていて少々複雑な気分になった。日本が「無菌室のように安全」と感じる反面、かつての移住政策では、その原産地である南米に何の注意もなくバンバン送り出していたからだ。
 今年3月にアマゾン河上流のロンドニア州都ポルト・ヴェーリョのグァポレ移住地にある日本人墓地を取材した。
 その際、現地の戦後移民、田辺俊介さんから「この辺にはトカンデイラという、噛まれたら強烈に痛いアリがいますから、足元に気をつけて」と言われた。だが取材中はだいたい気付かない。
 案の定、サンパウロ市に帰ってきてから左足首の刺された痕が赤黒く腫れ上がって鈍い痛みが広がった。
 調べてみたらトカンデイラはとんでもなく凶暴なアリだった。インディオが〃儀式〃に使う2センチ前後もある大型アリで、2014年5月6日付けG1サイト記事によれば「100匹に噛まれると数日間、高熱を発する」という。ならコラム子が噛まれたのはもっと「優しいアリ」だろう。体長2ミリ程度の赤い小アリだったので「アカカミアリだったか」と思い至った。
 とはいえ、移住地取材に虫刺されは「つきもの」だ。レジストロの茶畑の写真を撮ろうと付近の草むらに踏み込んでアリの大軍に刺されたこともある。パラー州のトメアスー移住地の森林農法の畑ではウンカのように細かい羽虫に刺され、その時は痛くも痒くもなかったが、夜になって腕が真っ赤になった。サンタカタリーナ州のラーモス移住地でも夕方、ビールを飲みながら取材していてブヨにやられた。
 どこへ行っても、新参者は何かに刺される。移民の夜話では「畑仕事をしていてスナノミに卵を産み付けられ、尖った針状のもので、それを破らないようにツルリと取るのが夜なべ仕事だった」というのは珍しくない。
 試しに、田辺さんにメールで「ヒアリに何回ぐらい刺されましたか?」と尋ねたら、《刺された回数なんて数え切れませんよ。沢山刺された痕などはピンガ(火酒)でも塗って消毒していたのかなあ…。刺されて酷い目にあうのはトカンデイラぐらいでしたね》とのこと。
 いわば、「ヒアリごときには危ないうちに入らない」というのがアマゾンの常識のようだ。
 そんなところに国策で送り込まれたのだから、アマゾン移民はスゴイと改めて痛感する。
 そういえば中央公論1951年6月号には、当時の日系社会リーダー座談会が掲載され、《アマゾンに行けば三代目は猿(マカコ)になる》というその一節が当地の連邦議員からブラジルを侮辱していると問題にされ、「マカコ事件」と呼ばれた。もちろん三世どころか四、五世も生まれているが、当然マカコになっていない。比喩的表現とはいえ、今ですらサッカーの試合で黒人系選手がそういわれると差別発言と問題になる。要注意の言葉だ。
 移民にとってヒアリに刺されることは「日常茶飯事」であり、大敵はマラリアを伝染する蚊だった。サンパウロ州でも同じだ。平野植民地で入植当初3カ月で80人がマラリアで亡くなったことは有名だ。でも、それを乗り越えたから現在のブラジルの発展、そして日系社会がある。
 だいたい「危ないから近寄らない方がよい」という発想では南米移住自体が成り立たない。日本の日本人は無菌状態のところに住んでいることを痛感する。
 とはいえ、ブラジルには地震も台風もないので、どっちの方が危険かとの議論もある。だが治安を考えれば、ブラジルの方がかなり分が悪い。ヒアリより人間の方が百倍怖いからだ。
 とはいえ日本の青年もたまには移民に倣って、“外”に出て虫に刺されても良いのでは。(深)

こちらの記事もどうぞ

  • 《ブラジル》JBS社主兄弟の司法取引は罪深い「完全犯罪」2017年5月23日 《ブラジル》JBS社主兄弟の司法取引は罪深い「完全犯罪」  テメル大統領は20日午後3時前、緊急声明で「盗聴者は完全犯罪を行った」との異例の糾弾をした。ここから分かることは「JBSのバチスタ兄弟にはめられた」と大統領が激怒していることだ。ブラジルには「大物役者」がそろっていると思っていたが、今回ばかりは度肝を抜かれた。いくら政 […]
  • サンパウロ州を「ブラジルの機関車」にした鉄道=(上)=帝政の終わりとサッカー王国の誕生2017年6月27日 サンパウロ州を「ブラジルの機関車」にした鉄道=(上)=帝政の終わりとサッカー王国の誕生  トレンディ・ツーリズモ主催の「鉄道の町パラナピアカーバ(Paranapiacaba)観光ツアー」に参加し、現地ガイドと歴史話をしていて思わず興奮した。サンパウロ州最初の鉄道であるサントス/ジュンジャイ線(S/J線)が開通したのは1867年2月26日だから、今年は記念す […]
  • ブラジルにとって五輪よりも大切なことは2016年7月30日 ブラジルにとって五輪よりも大切なことは  24日、オーストラリア代表選手団が五輪選手村マンションに入居しようとしたら工事が未完――電球なし、電気なし、物置部屋がゴミの山、水漏れなどが各部屋で発見され、入居を延期した。その批判を聞いてムカッときたリオ市長は「彼らが自宅でくつろいでいると感じられるようカンガルーを置いとい […]
  • 《ブラジル》3・26デモ「来年の選挙は、汚職一掃投票を!」2017年3月28日 《ブラジル》3・26デモ「来年の選挙は、汚職一掃投票を!」  26日のパウリスタ大通りで、「今回で14回目のデモ召集だ」とVPR(VemPraRua、街に出よう)のロジェリオ・シェケル代表が、街宣車の上から叫んでいたのを聞き、年3、4回の一般市民デモという「ブラジル式民主主義」が根付いたのを痛感した。コンフェデ杯中の2013年6 […]
  • ただでさえ遅れているリオの建設現場に、さらに遅延が生じるかも(Foto: Fernando Frazão/Agencia Brasil)2015年7月2日 ラヴァ・ジャット作戦によるリオ五輪への深刻な影響  ラヴァ・ジャット作戦で6月19日、最大手建設会社オデブレヒトの社長を含む7人、アンドラーデ・グチエレス社の社長を含む5人の計12人が逮捕された▼6月26日付エポカ誌電子版は、ルーラ政権開始時に前社はすでに最大手だったが、政権との良好な関係から売り上げを6倍に伸 […]