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わが移民人生=おしどり米寿を迎えて=山城 勇=(28)

 生産と消費を直結させ、自分の創意工夫を原点に「儲かる農家」の実践躬行、これが究極の目的であると彼は誇らし気に語る。
 こうした理念に立って照屋さんの「理論と実践」は有言実行の代表人物として皆さんから尊敬されていた。それに目の敵としてよく口にする言葉は日本の「官僚主義・官僚精神」の改革であった。いわゆる日本はタテ社会で必要のない上司が多く仕事の能率をさまたげているばかりでなく働かずして高給を貪り、しかも鼻をたかくしている階級意識の改善が絶対必要だと訴える。これは昔の武士道精神の流れとあれば一朝一夕に改善は無理かも知らん。でも国際社会を見渡して若い君たちが果すべき課題だ、となかなか厳しい見解を提言するのであった。
 氏の一日の活動日程を見てみよう。

 パパイヤ収穫日

 毎朝夜明けまでにはコーヒーとパン、夜明けと同時に農場に出る。前日に準備された農機具を持ち出して作業開始、フィリッピン人(60歳位)1人と県人定年退職者1人(65歳位)の2人が就労時間朝8時にくる。
 前日でちゃんと作業は約束されている。各々作業開始、作業内容はよく把握しているので別に指示することはない。私を含めて4人でパパイアの収穫作業を朝8時に始め午後5時までに48ポンド入り紙箱110箱分収穫する。
 ちゃんと出荷準備、箱詰め1週間に2回出荷する。それを2日間収穫し1回出荷を繰返す。48ポンド1箱480セントで配達するので220箱だから1.056,00ドルの売り上げ額となる。これも照屋さんにとっては何回か試行錯誤の上決定した仕事プランだという。

 出荷の一日

 前日出荷準備を整えて車に積み込んでおく。出荷当日は3時に起床、車を点検し出発する。早朝交通量が少ないため速度をあげ5時半には目的地に着き、少なくとも6ヶ所の店に配達する。夜明けまでには配達完了する。それからコーヒーをすませて銀行や商店の開店を待つ。車社会のホノルルでは車の駐車場求めが大変であり、特にトラックは時間内で規制されている。そのため早朝から争うように早起きするのだと云う。
 得意先の銀行や商店は大方電話で用事は済ませるが、特に今回はアメリカ式の横社会を直接私に見せるために機会を作ったと云う。いわゆる農産物、商社、金輸機関の流通と対人関係などを時下に見学させるのが目的で時間をかけてでも見学を実現と云うことであった。
 実に頼もしい人格者として感謝の他ない。しかも大学の農学部教授や商社の専門家、銀行頭取など知人が多く、年末か年始には毎年このパパイヤをプレゼントしていると語っていた。
 世の指導者や有識者との絆は極めて大事なものだ。自分の事業を進め、また今日を築いたのも皆彼たちのお陰であり、その恩義も忘れてはいけない。美徳こそ信頼の原点だと説くのである。
 沖縄は去った大戦で物資源は灰塵になったが、優れた精神文化は永遠に生き残さねばならない、などとトラックの運転中も決して時間を無駄にしないとばかりに助手席の私への講義は続くのであった。こうして、昼食時間には家に着く。照屋さんは、昨日の天気予報で低気圧前線が近づくので天気が荒れ近日中に雨の報道が伝えられたらしく、そこで食後一時間の午睡をとり、その後労務者全員でその排水溝作りをする。ここにも照屋さんの「考える農業」の気構えが働いている。即ち彼の農地内の高低を測量した地形図が既に出来ていて、排水溝も一応作られている。しかし、それを確認して整備するだけのことであった。

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