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政治家風刺で話題のタイヤ屋=最近のパラグァイ情勢雑感=パラグァイ在住 坂本邦雄

8期35年間に渡りパラグァイ大統領を務め、独裁者として君臨したアルフレド・ストロエスネル大統領( [Public domain], via Wikimedia Commons)

8期35年間に渡りパラグァイ大統領を務め、独裁者として君臨したアルフレド・ストロエスネル大統領( [Public domain], via Wikimedia Commons)

 アスンシォン市のサクラメント大通りで再生古タイヤの商売を生業とするアルフォンソ・アンドレス・ヴァルデス氏は、これまでにも滑稽な政治家批判の風刺でもって人気を呼ぶ事ことで知しられている。
 今度は『フォンセカ参議員のお尻の様に素敵で、イバニェス衆議員の面の皮のように固くて強く、なお選挙時に投票を求める政治家の様に〃お買い得の―(お安い)”弊店の再生古タイヤをどうぞ!』とスペイン語ごとグアラニー語で堂々と剽軽に揶揄した横断幕を自分の店の前に掲げて話題になっている。
 ちなみに、フォンセカ参議員(49歳、15歳年下のH・サマニエゴ氏、「黄金の婚約者」と同棲)とは青党のブランカ・フォンセカ女史の事で、自党にそむき左派はルーゴ前大統領やカルテス大統領の赤党主流派に組みして、問題の大統領再選の憲法改正運動に加担したかどで取沙汰された。
 他方、同じく横断幕に書かれた赤党のイバニェス衆議員(48歳)は、国会の予算で別荘の多くの使用人の給料を支払っていた等など、数々の不正が発覚し、もう随分前から糾弾されているが、国会議員の免責特権のかくれみのに隠れて、いまだに訴追を逃れているスキャンダルを突いているものだ。
 なお、政治家の票集めの甘言で、選挙運動が盛んな時にだけ、有権者に旨い話をして近付づき、その後は公約を決して果たす事は無い厚顔の政治家連を皮肉ったものである。
 この横断幕で商売は繁盛するのかどうか、その効果はまだ聞かぬが、これを見てフォンセカ参議員は激怒し、例の横断幕をただちに取外すように要求し、さもなくばヴァルデス氏を名誉棄損で告訴すると、おおいに息巻いて脅迫の電話をかけて来たと言う。
 しかし、ヴァルデス氏は馬耳東風を決め込んで、横断幕は絶対におろしはしないとガンバっている。
 これは、政府のいろんな許すべからざる罪(失政)に愛想を尽かした民心を代弁する清涼剤のような話だが、一方考えて見ると、国民の発言や行動の自由が保障された民主政体の恩恵であって、かつては多くの人達には悪夢だった、長期のストロエスネル独裁政権下では夢にも望めない事だった。

▼憲法改正の問題

 戦後の日本を腑抜けにした、いわゆるマッカーサーがおしつけ、左派がいまだに後生大事に守り続ける「平和憲法」は、このたび、ようやく安倍内閣の力量のもとに改正の気運が熟しているようだが、一口に改憲とは言いっても、大変な問題なのは、日本に限った事ではない。
 わがパラグァイではちょっと意味は違ちがうが、ストロエスネル政権の崩壊後、革命大統領ロドリゲスが1992年に発布した現行の「デモクラシー憲法」の大統領再選禁止条項の修正を歴代の大統領は望み、その実現に各人それぞれが画策を試ろみたが、意外に規制のハードルは高く、結局は改憲の野望を果たせなかった。
 そもそも、わが現行憲法は鶏が卵を産むようにそうやすやすと出来たものではないのだ。
 各主要政党の政治家、またはそれぞれの分野の法律家、学者などのうちから選ばれた錚々397名にもおよんだ大先生達(代議員)の参加する「憲法改正議会」が招集され、約1年弱にもわたり、改正案の検討が鋭意繰り返された結果、1992年6月20日に晴れて全効力をもって発布された力作の憲法である。
 この「憲法改正議会」の運営・進行を終始一貫して滞りなくつかさどったのが、今では赤党コロラドに残された最後の元老オスカル・ファクンド・インスフラン博士(87)で、ストロエスネル政権二代目の内務大臣を務め、結局は切れ者すぎたために、最後はストロエスネルに睨まれて更迭された、故エドガー・L・インスフラン博士の末弟である。
 当のオラシオ・カルテス現大統領も、ご多分に漏れず本心は自身の再選を得ることにあったが、周知の通りその野心は実らず、代わりに寵児のサンティアゴ・ペーニャ前大蔵大臣を、来年の総選挙に与党コロラドの公認大統領候補者として立候補させることにした。
 同じく与党コロラドからは反主流派のマリオ・アブド・ベニテスが対抗馬に立候補している。
 ちなみに、その他一連の野党側はどうかと見ると、大同一致、連合して赤党に対抗する動きにあるが、必ずしも足並は揃っていなく、予断は許されない。
 先述の「92年の改憲議会」のインスフラン元議長は、元青党リベラル出身のサンティアゴ・ペーニャ及びストロエスネルの元秘書官の子息マリオ・アブド両若手新人の立候補そのものになんらの意義がある訳ではないが、問題はわが永遠の政治危機の震源たる大統領再選制度の復旧を求めて止ない陋習にあると言いう。
 そして「私としては、再選制度の再設置を国は決して必要とはしていないと思う」とし、さらにその復元を望むなら全面的な改憲以外の道はないと断言した。
 「これまでに、もう口が酸っぱくなるほど繰り返して申してきた事だが、もし再選を望むならば、憲法が規定するように正しく改憲すれば済むことだ。
 時勢は目まぐるしく変化している今日、相変わらず「自分のへそ」ばかり見詰ていては進化はない」と強調する。
 インスフラン博士は、伝統の赤党コロラド古参の党員であることを認め、同僚達に真面目で真摯な党員たるべく示唆し、偶然のリーダ(カルテス大統領に触れて)の指図などに跪坐しないように誡しめた。
 そして、現代の政治階層は必要時には国民に近寄って頼るが、逆に国民が彼等を必要とする場合は、時計の時間一つさえも教えて下ない非情の輩どもであると痛評した。
 その意味において、いずれの政治家もすでに20年の余命はもうないので、有意の若手新世代層に期待すべく、本気にその養成にこころがけなければならないと言う。
 わが赤党内には、かつての偉大な政治知識人がいなくなり、破廉恥な政治屋ばかりが横行しはびこっているが、かかる事態が近い将来改善されることを期待したい。
 悪いのは、政治家は永久にいすわって、引退しない傾向があり、これはまさに老害だと指摘し、政治家は国民の公僕たるべきことを忘れているのだと、締め括った。

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