特別寄稿=孤立する米国、忍び寄る中国=資本主義支持の驚くべき増進=パラグァイ在住 坂本邦雄

メルコスル首脳会議の様子(7月21日、アルゼンチンのメンドーサで、Foto: Alan Santos/PR)

メルコスル首脳会議の様子(7月21日、アルゼンチンのメンドーサで、Foto: Alan Santos/PR)

 地域の最近の世論調査によると、意外にもラテンアメリカの自由市場に対する好感のムードは記録的なレベルに達している。
 更に驚くべきは、常に帝国主義を非難する左翼の大衆迎合主義政権の国々で、資本主義は最高の人気を集めている事だ。
 Miami(マイアミ) Herald(ヘラルド)及びNuevo(ニュー) Herald(ヘラルド)各紙が排他的に取材したLatinobarometro(ラテンバロメーター)の地域調査結果に基けば、「自由市場貿易は国家の開発を遂げ得る唯一の経済体系である」との理解を前提とした者は、2003年の57%から2017年の記録的な69%にも増えた。
 「この結果に私は驚いています。過去において、ラテンアメリカは歴史的に自由市場や公共事業の民営化に抵抗して居ましたが、この度は急激に一般の支持の強化を見た訳です」と、チリ在ラテンバロメーターの創設者、マルタ・ラーゴス女史は語った。
 奇妙なのは、この調査で自由市場を最も支持しているのは、特に左派リーダーが統治する国々である事だ。
 その中で最も資本主義志向の強い国は、左派革命家を自己宣言する、ダニエル・オルテガ大統領のニカラグアで、その79%の国民は、自国の発展・開発を成すには唯一、自由市場経済政策に依らざるを得ないと答えた。
 次に位置するのは、自由市場支持78%のホンジュラスで、ボリビア、エクアドルとベネズエラのそれぞれ76%が続く。
 比較的に、この志向に同意するのは67%のアルゼンチン、それに66%のメキシコと59%のチリである。
 このデータが示しているのは、先ずラテンアメリカ地域の大衆迎合主義の盛衰を反映している事である。
 年次調査で解るのは、地域の自由市場に対する支持率は2007年が最も低いレベルを示していた。
 これで、ベネズエラ、エクアドル、ボリビア及びアルゼンチンの諸国はコモディティーの国際価格の高騰で財政は大いに潤い、湯水の様に資金を寛大に散財した。
 しかし、2010年に諸原材料の国際価格のブームがパンクし、萎み込んだのを見た時、市民の多くはこれまでのそれぞれの為政者は、〃人気取りの祭〃等に、好景気で得た折角の大事な金を教育、衛生や公共事業のインフラ整備に活用せず、無駄遣いし、国家財政の破綻を来した事実に気が付いた。
 その後の選挙で、中道派、中道右派の新世代リーダーの台頭で、アルゼンチン、ペルー、ブラジルやその他の国々の政権は右寄りに変わり、どうやら少なくも今の処は、いかなる国も事業に民間の資本投資が無くして経済の発展は決して有りえない事を納得せしめたもののごとしだ。
 この新たな自由市場との蜜月は続くであろうか? 歴史は恐らく長くは続かないだろうと教える。
 ラテンアメリカの政治は「振り子時計」で、毎度10年か15年の間に周期的に変わる。
 世界市場でのコモディティーの価格が上れば大衆迎合主義や事業の国営化主義の人気が上昇する。
 逆にそれが下落すると、民間資本投資家は、王様の様にチャヤホヤと大事にされる。
 しかし、楽観主義者はこのラテンバロメーターの調査データの中で、多少は〃希望的な理由〃を見出す事が出来る。
 つまり、アルゼンチンでは自由市場支持が2007年には51%だったのが、2017年には67%に上昇した。
 コロンビアでも同期間に57%から67%に伸びた以外に、同じくベネズエラでは51%から76%に増進している。
 理想的な話として、アメリカ合衆国とラテンアメリカ諸国は、この機会に経済の統合政策を強化、確率し、中国との競合を効果的に展開すべきである。
 西半球自由貿易圏の創設の案は過去、H・W・ブッシュ大統領からバラク・オバマ大統領までの歴代米国大統領の崇高な構想だった事は忘れてはならない。
 しかし残念なのは、今こそアメリカは長年にわたり考えられなかった、ラ米地域との経済交流改革の絶好なチャンスを、惜しくも逃しているのだ。
 不幸にして、メキシコ及びカナダと夫々のFTA・自由貿易協定の破棄を迫る、孤立主義の大変な大統領を戴くアメリカは、最近はアルゼンチンからのバイオディーゼル油の輸入関税率の増加を決定した。
 そのようにアメリカは信じられないほどに、又と無い良い機会を正に無駄にしている。その隙に、中国は米国のホームグランドたるラテンアメリカへの経済攻勢を侵略的に日増しに強化し、積極的な政経影響力の強化を伸ばし続けて居るのである。(註=この記事は、マイアミ在のアンドレス・オッペンハイマー記者の、当地ABC紙への寄稿文を引用、抄訳したものです)。