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米本土攻撃の秘密基地建設にメキシコ日本移民?

左が『Base Secreta La Palma』表紙、右がラ・パルマ秘密基地の地図(『五百年』119頁)

左が『Base Secreta La Palma』表紙、右がラ・パルマ秘密基地の地図(『五百年』119頁)

 『海を越えて五百年 日本メキシコ交流史』(荻野正蔵著、2016年、メキシコで刊行、以下『5百年』と略)という440頁、フルカラーの大著をめくりながら、メキシコと日本の絆は実に深いとしみじみ考えさせられた。
 特に驚いたのは、「日本人初の榎本植民地と、真珠湾攻撃直後の米本土攻撃用の在メキシコ日本軍潜水艦基地の不思議な関係」という〃歴史的事実〃だ。環太平洋時代にふさわしい、すごい歴史が羅列された本だ。
 日本初の集団地「榎本植民地」を構想したのは、幕末に函館の五稜郭に立てこもって幕府軍最後の攻防戦をした旧幕臣・榎本武揚であることは有名だ。
 『五百年』63頁には、《明治になって20年というのに、旧幕臣は相変わらず冷や飯を食わされていた。(中略)そんなとき、日本にいたメヒコの公使がチアパス州の土地を買わないか、という話を榎本のところに持ってきた。広さは6万7千ヘクタール、琵琶湖がすっぽり入る大きさだ。太平洋の向こうなら誇り高い旧幕臣も気兼ねなく暮らせる、と榎本はひらめいた》とある。
 だから徳川家康を支えた三河武士の根城である愛知県で30人の募集をかけた。だが20人しか集まらず、残りを播磨(兵庫県)から8人集めた。《三河は吉良上野介、播磨は浅野内匠頭の地である。忠臣蔵の世界が再現した。移民団は2つのグループに分かれ、お互いに口もきかなかった》(同64頁)とある。
 明治という時代は「江戸時代の延長」だと強く感じる。
 1897年5月19日、榎本らが買った土地のあるメキシコ国最南部チアパス州エスクイントラに、植民団35人が到着した。これが彼らの「移民の日」だ。しかし2カ月で10人が逃亡、日本から資金送金されず、契約労働者は逃亡し、わずか5年足らずで事業は崩壊した。
 でも、13人は榎本植民地のあったアカコヤワ村を中心にチアパス州内に残った(115頁)。同村では2010年までに6人も日系村長が誕生、うち2人は2期も務めた。日系人への信頼は絶大だ。
 その村から30キロほど南西に向かうと太平洋岸。同118頁には、そこに《謎の潜水艦基地 チアパスの日本人が建設に協力?》という興味深い逸話が紹介されている。
 1941年12月7日(メキシコ時間)の真珠湾攻撃は有名だが、その2週間後の同月20日頃から、日本軍は潜水艦で米国本土への攻撃を始めていた。日本海軍の巡潜乙型潜水艦9隻がカナダ、アメリカ、メキシコの海岸線で通商破壊戦を始めた。
 《それからひと月足らずの間に、アメリカのタンカーや貨物船5隻を撃沈、5隻を大破、その総トン数は6万5千トンに上った。西海岸に面する住宅街の沖合、多くの市民が見ている前で撃沈するなど、派手な作戦だった》(同119頁)とある。
 これを読んで、ふと思いだした。ほぼ同じ頃、ブラジルの海岸線でもドイツ軍のUボートが同様の作戦を展開していた。南米大陸を補給基地と考えていた米国にとっては、大西洋のドイツ潜水艦、太平洋の日本潜水艦は大きな脅威だったはずだ。
 日本軍潜水艦の航続距離は1万4千海里(2万6千キロ)もあり、太平洋横断を優にできる能力を持っていた。だが、緊急事態が起きた時のために補給基地「ラ・パルマの秘密基地」が作られたようだ。
 2005年に現地でドイツ系二世が『Base Secreta La Palma』(ラ・パルマの秘密基地)として小説の形をとって、父が関わった秘密基地建設の様子を描いて発表した。ドイツ本国からの命を受けて基地建設を計画し、アカコヤワ村周辺の日本移民がこっそり建設を手伝った。つまり、日独の両軍が使う基地だった。
 しかも《ドイツではロケット発射装置を曳航してカリフォルニア湾に入り、フーバーダムを爆撃、破壊する計画を立てていた》(同119頁)とも。
 同ダムはニューディール政策の柱として1937年に竣工し、約400億トンの貯水量を持つ。琵琶湖のそれが280億トンだから大きさが分かる。ブラジルのイタイプーダムと同様に、「米国の誇り」といえる巨大国家事業だ。破壊されればカリフォルニア州、ネバタ州、アリゾナ州が停電する事態に。
 もしこの計画が実現していたら、歴史が変わっていたかもしれない…。(深)

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