ホーム | 連載 | 2018年 | 110周年記念リレーエッセイ=若手・中堅弁護士が見た=日伯またぐ法律事務の現場 | 110周年記念リレーエッセイ=若手・中堅弁護士が見た=日伯またぐ法律事務の現場=第2回=労働法、税法の理解のために

110周年記念リレーエッセイ=若手・中堅弁護士が見た=日伯またぐ法律事務の現場=第2回=労働法、税法の理解のために

 ブラジルにおける労働法、税法は、日本の駐在員にとって一番分かり難い法制度になっています。私は2年間ほど日系企業との付き合いがありますので、日伯の比較をしながらブラジルの労働法、税法について幾つかの問題点を取り上げたいと思っております。
 まずは労働法についてお話したいと思います。
 ブラジルは、労働訴訟大国です。ブラジルの労働法が、労働者に手厚い保護を与えているためです。ブラジルでは、ポルトガルによる植民地化や奴隷制などにより、労働者は歴史的に搾取の対象とされてきました。1943年のCLT(労働法)施行で、労働者の過剰優遇が定着しました。施行から74年経った現在、この労働法は現実に合わなくなったため、今回の改正に至ったわけです。
 特に、訴訟案件を含め、労働コストの増大は企業の競争力をそぐ原因になっております。労働法改正で、労使の関係がバランスのとれたものになることが期待されています。労使協調という日本の考え方を参考に、ブラジルの労使関係を改善していくことができるのではないかと思っております。
 労働改正法は2017年11月11日に施行されました。しかしその3日後の14日、にブラジル大統領より労働暫定例808号が発令され、労働改正法の多くの項目に変更が加えられました。
 暫定令は、緊急で重要な案件に限って、大統領の権限により発令されるものです。法令と同様の効力を及ぼしますが、法令として確実なものになるためには、60日以内(60日の延長可)に議会(上院・下院)の承認が必要になります。したがって、とりあえず現在のところ、労働暫定例808号が二〇一八年四月二三日までに有効なのですが、議会で承認されなければ、オリジナルの労働改正法が再度効力を発生するため、法的不安定な状況にあります。
 一方、ブラジルの税制はとても複雑で、ブラジル人の税専門家にも分かり難い点がたくさん存在します。
 たとえば、ある租税に関して納税者側に有利な最高裁判決が出たとします。日本の場合なら納税者には、過剰だった分の納税が自動的に戻ります。ブラジルの場合にはいちいち裁判所を通して訴訟を行う必要があります。
 つまり、日本の場合では自動的に税金が戻りますが、ブラジルでは訴訟を行わないと税金が戻らない。ブラジルの税制制度は論理的ではないと思われるですが、ここではもう一つの社会的背景があります。
 ブラジルは「狩猟民族」、つまり自分から行動を起さないと解決できない面がたくさんあります。その反面、日本は「農耕民族」、つまり協調性を好む国民性です。
 最後になりますが、国ごとの法律は大切ですが、法律の社会的背景も考える必要があるのではないでしょうか。

古藤ウイルソン忠志さん

古藤ウイルソン忠志さん

古藤ウイルソン忠志(ことう ウイルソン ただし)

 ブラジル生まれの日系二世(コチア青年二世)。1998年島根大学農学部地域開発科学科卒業。日本やブラジルでサラリーマンをした後、2014年パウリスタ大学法学部法学科を卒業して、ブラジルの弁護士資格を取得。2016年エスコラ・パウリスタ・デ・ディレイト契約法専攻卒業。2015年から、アベ法律事務所所属。現在ジャパン・デスクに在籍し、一般法務、税法、労働法、民事、会社法で、日本進出企業をサポートしている。連絡先:wkoto@abe.adv.br

image_print