110周年記念リレーエッセイ=若手・中堅弁護士が見た=日伯またぐ法律事務の現場=第3回=知られざる「日系三世ビザ問題」

 まもなく日系四世ビザに関する新制度が開始になるが、実は日系三世の間にも、ビザに関する格差、いわば「日系三世ビザ問題」が存在することは、あまり知られていない。
 筆者は国外就労者情報援護センター(CIATE)で訪日就労者の相談に答えているが、たまにサンパウロ以外の州に住む訪日就労希望者から「サンパウロに住所を移さないとビザが出ないと就労斡旋業者に言われた」という不満の声を聞く。
 1990年に改正された出入国管理及び難民認定法は、日系三世に対し「定住者」の在留資格を認めた。その後、多くの訪日就労者は総領事館で観光や親族訪問を名目にした短期滞在査証を取得し、日本に渡航してから在留資格を「定住者」に変更して就労するようになった。
 というのも、はじめから「定住者」として渡航するには、日本国内に居住する本人の親族が入国管理局で「在留資格認定証明書」を取得し、それをブラジルの本人に送付して、本人は在留資格認定証明書を添付して在ブラジル日本国領事館に特定査証を申請する必要があるからだ。
 親族でない就労予定先企業が在留資格認定証明書の申請をすることは法律上許されていないため、日本に親族のいない日系三世はこの方法では日本に渡航できない。
 1997年以降、在サンパウロ総領事館に限って、在留資格認定証明書なしで定住者として渡航するための特定査証を発給するようになった。
 したがって今では、在サンパウロ総領事館管内に住む訪日就労希望者は、就労予定先企業との雇用契約書やその人事担当者の作成した身元保証書等を総領事館に提出し、特定査証を取得してはじめから定住者として日本に渡航している。
 しかし、在サンパウロ総領事館以外の領事館は日系三世の特定査証についてこのような取り扱いをしない。
 しかも、在留資格変更手続の運用は限定的に行われるようになっていて、以前に広く行われていたように観光を名目とした短期滞在査証で日本に入国し、その後定住者に在留資格を変更することは今では難しい。
 そのため、在サンパウロ総領事館管内に住む三世は就労予定先企業を見つけさえすれば訪日就労できるが、それ以外の領事館の管内に住む三世は、日本に親族が暮らし、在留資格認定証明書の申請手続をしてくれなければ訪日就労できない。
 ちなみに「日本人の配偶者等」の在留資格で渡航する日系二世については、在サンパウロ総領事館以外の総領事館においても在留資格認定証明書なしで特定査証を発給している。そのため、日系三世のような格差は存在しないようだ。
 法律だけでなく、在外公館における特例的な取り扱いがからんだ手続は複雑で、専門家にも知られていない。
 以前サンパウロに暮らす三世を採用しようとした企業が、行政書士に渡航手続の支援を依頼し、当該行政書士から本人に日本に暮らす親族がいないため渡航は不可能であると告げられて筆者にメールで相談してきたこともあった。
 こういった格差はできれば存在しない方がいい。この機会に、日系四世問題だけでなく、日系三世問題も改善に向かうことを期待したい。

永井康之(ながい・やすゆき)

【略歴】愛知県出身。42歳。日本の弁護士。2009年愛知県弁護士会に登録。2015年サンパウロの国外就労者情報援護センター(CIATE)に専務理事として赴任し、サンジョアキン街の文協1階CIATE事務所で訪日就労者からの様々な相談に無料で応じている。
【連絡先】CIATE, Rua Sao Joaquim, 381 – 1º and., CEP 01508-900 – Sao Paulo – SP
TEL: (11)3207-9014 E-mail: nagaiyasuyuki@gmail.com