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サッカーW杯ロシア大会を総括=ブラジル代表の課題明らかに=守備陣の世代交代が必要=サンパウロ市在住サッカージャーナリスト 沢田啓明

優勝したフランス代表(RFS RU)

優勝したフランス代表(RFS RU)

胸が熱くなるクロアチアの戦いぶり

 6月14日からロシア各地で行われてきた第21回ワールドカップ(W杯)が、7月15日、幕を閉じた。
 優勝はフランス。アフリカ各国など多様なルーツを持つ身体能力の高い選手を揃え、堅守をベースに小柄なテクニシャンのMFグリーズマン(アトレティコ・マドリード)が攻撃を組み立て、19歳の快足FWエムバペ(パリ・サンジェルマン)らがゴールを襲う。
 1次リーグを2勝1分けの首位で突破すると、決勝トーナメント1回戦でアルゼンチンを4―3、準々決勝でウルグアイを2―0と、南米の強豪を連破。準決勝では、日本、ブラジルを下して勝ち上がったベルギーの強力攻撃陣を封じて1―0。
 クロアチアとの決勝では、グリーズマン、MFポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)、エムバペらの得点で4―2と快勝。自国開催の1998年大会以来となる20年ぶり2度目の優勝を達成した。
 W杯の通算優勝回数はブラジルの5度が最多でドイツとイタリアが4度で続くが、フランスはウルグアイ、アルゼンチンと肩を並べる4位タイ。現役時代は名ボランチで1998年大会で優勝したデシャン監督は、ザガロ(ブラジル)、ベッケンバウアー(ドイツ)に次いで選手としても監督としてもW杯を制覇した3人目の男となった。
 準優勝のクロアチアは豊富な運動量と高い技術を備えた選手が多く、大会MVPに選ばれたMFモドリッチ(レアル・マドリード)、MFラキティッチ(バルセロナ)らは攻守両面でチームに貢献した。
 1次リーグを3戦全勝で突破し、決勝トーナメント以降はデンマーク、地元ロシア、フットボールの母国イングランドに3試合連続で先制されながら延長の末(デンマーク戦とロシア戦はPK戦までもつれた)に下し、同国史上初めて決勝まで勝ち上がった。
 延長戦は30分間だから、全試合を規定の90分間で勝ち上がったフランスより1試合分多くプレーしたことになる。しかも、日程の都合で準決勝から決勝までの間隔がフランスより1日少なく、スタミナの点で大きなハンディを負っていた。
 しかし、決勝でも選手たちは懸命に走ってフランスに対抗した。後半、さすがにスタミナが尽きて4―1と大量リードを許したが、諦めることなく1点を返し、残り20分余り、がむしゃらに攻め続けた。そのひたむきな姿には、胸が熱くなった。
 クロアチアは東欧の小国で、国土は5万7千キロ平米(世界124位)でブラジルの約150分の1、人口は約415万人(世界129位)でブラジルの約50分の1しかない。1998年大会で3位に入ったが、2014年大会では1次リーグで敗退している(1勝2敗)。今大会は主力選手がキャリアのピークを迎えた時期に当たったとはいえ、驚異的な躍進と言うほかない。

本領発揮できなかったネイマール

 ブラジルは、一次リーグ初戦で堅守のスイスと1―1で引き分け、続くコスタリカ戦では相手の人数をかけた守備に苦しんだが、追加タイムのMFコウチーニョ(バルセロナ)とネイマール(パリ・サンジェルマン)の得点でこの大会初勝利。これで選手たちが精神的に吹っ切れ、続くセルビア戦には2―0で快勝してグループを首位で突破した。
 決勝トーナメント1回戦のメキシコ戦ではエース・ネイマールの1得点1アシストの活躍で、3試合連続の2点差勝利。優勝候補のドイツ、スペイン、アルゼンチンが早々と敗退したことから、優勝への道が大きく開けたと思われた。この時点で、個人的には準々決勝でベルギーを下せば準決勝でフランスと対戦し、その勝者が頂点に立つと予想していた。
 しかし、ベルギー戦は前半、セットプレーとカウンターから失点を重ねるまさかの展開。後半はほぼ一方的に攻め、途中出場のMFレナト・アウグスト(北京国安)が1点を返し、なおも多くの決定機を作ったが、レナト・アウグスト、コウチーニョらがシュートを失敗。ネイマールの強烈なミドルシュートは身長199cmのGKクルトワ(チェルシー)が懸命に伸ばした指先に弾かれ、1―2で敗退した。
 ベルギー戦のシュート数がブラジル26、ベルギー8という数字が示すように、試合内容では優勢だった。前半の守備のミスはあったものの、後半、絶好機を迎えながら決め切れなかったのが痛かった。
 敗退に至った理由は、いくつか考えられる。
 まず、ネイマールの心身のコンディションが万全ではなかった。2月末にクラブの試合で右足首を骨折し、3月初めの手術を経て約3カ月半のリハビリを経てW杯に向けて懸命に調整を続けた。
 しかし、やはり体調に不安があり、セレソンのエースとしての責任を感じて神経質になっていた。自分がイメージしたプレーができず苛立ち、それがさらにパフォーマンスを低下させる悪循環。彼の混乱した心理状態が他の選手にも伝わり、ミスの連鎖反応が起きていた。
 大会直前に右SBダニエル・アウベス(パリ・サンジェルマン)が故障して欠場を余儀なくされ、1次リーグ初戦で代役のダニーロ(マンチェスター・シティ)が先発したが彼も故障し、以後は代役の代役であるファグネール(コリンチャンス)が出場。守備面ではまずまずだったが攻撃力の低下は否めず、チームの攻撃が左サイドに偏ってしまった。
 また、チーム最年少のCFガブリエウ・ジェズス(21、マンチェスター・シティ)が緊張のせいか力を出し切れず、無得点に終わったのも痛かった。
 さらに、大会前と大会期間中を通じて多くの選手が故障し、攻撃の切り札と期待されたMFドグラス・コスタ(ユベントス)らがプレーできる試合が限られていたのも響いた。
 2014年大会準決勝でドイツに大敗を喫した最大の理由は、精神面の弱さにあった。チッチ監督はこのことを良く理解しており、キャプテン持ち回り制を実施して個々の選手たちに主力としての自覚を促し、メンタル強化を図っていた。しかし、それでもまだ十分ではなかったということだろう。
 過去21回のW杯でブラジルは5度優勝しているが、それは16回敗退したことを意味する。これほどのフットボール王国であっても、W杯で優勝することはかくも難しい。

チッチ監督の続投で期待もてる4年後に

 通常、ブラジルではW杯で敗退すると監督、主力選手が徹底的に批判される。
 しかし、今回は少し様子が違う。チッチ監督のチームの作りの方向性の正しさは国内メディア、国民の大半から認められており、留任を望む声が圧倒的だ。ブラジルサッカー連盟もチッチとの契約延長を望んでおり、本人が承諾すれば継続的な強化が期待できる。
 国民が切望していた2014年大会のリベンジはならなかった。しかし、同じ敗退でも4年前よりは希望が持てる。
 今後は守備陣の世代交代が必要だが、攻撃陣では若手、中堅がおり、今回は招集されなかった有望な若手も育っている。
 前回大会ではブラジルとアルゼンチンがベスト4に残ったが、欧州で開催された大会とはいえ、今大会のベスト4に南米の国は皆無だった。また、最後に優勝した2002年大会以降、ブラジルは4大会連続で欧州の国に屈している。今後は、欧州の強国と可能な限り多くの強化試合を組み、世界の潮流を見極めながら強化を進める必要がありそうだ。

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