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高齢者集合住宅の暮し=連載(下)=自宅と同様の環境つくり

 

健康広場

2006年5月31日(水)

 同年代の高齢者が集まって生活するのは、集合住宅を建てていくほど容易なものではない。ホテル「ソラール・ド・マルケス」の水中運動教室に、若い講師が八十歳の男性とこんな会話を交わした。
 ─「リスクの伴う手術を受けて、彼女が病院から戻ってきた。今はもう、自立して生活するのが難しい」。
 ─「何歳ですか?」。
 ─「六十二歳くらい」。
 ホテルのロビー、廊下、レストラン、遊戯室、プール……。一日中、病気が話題に上っている。リオデジャネイロの〃塀の中〃(ファベーラ)より、死は身近なものだ。
 「このような場所は人工的な状況を再生産。健康的ではない性格をつくりだしているのではないか」。サンパウロ大学第三世代心理研究プロジェクトのコーディネーター、カシオ・ボチノ氏はそう指摘。
 「同年代の高齢者で囲まれる環境では、健康問題が悪化する危険が高まり、心理的にネガチブな影響を与える」と言い切る。
 同氏によれば、個人の所有物に囲まれていると、自身の過去を振り返ることになる。それは、自然な老化現象。
 「孫をみるといった、役割を担うのは積極的な行動で、世話を焼くのは極めて刺激が多いもの。自身が有用な人材と感じることにつながる」という。
 しかし問題は可能なかぎり、理想な環境をつくることだ。
 老人科医でサンパウロ連邦大学教授のクリネウ・デ・メーロ・アウマーダ・フィーリョ氏(45)は「もちろん最善な場所は自宅です」と賛同。
 その上で、「ここに生活するのためのよい条件が整っているのだから。ホテルにくるのは、それを必要としている人。つまり、身体的な理由や家族の事情などにより自宅に住めない人。衰弱した人は、このようなホテルでなく、病院にいるのでは」と指摘する。
 コンドミニオのプラス面は何か。フィーリョ氏は「都会で高齢者は孤独になりがち。一人で外出するのが不安。ホテルでは社会的な活動があり、専門チームが〃統合〃を促進させる」とみる。
 イギリス人の未亡人、ジェーン・トンプソンさん(69)は昨年九月から、ホテル「ソラール・ド・マルケス」に居住している。サンパウロとロンドンを往復する生活だ。
 ノートブック、携帯電話、書籍、雑誌……。居室は半分の歳の女性がもっているようなアイテムでびっしり。母国に二人の子供がいる。仕事は翻訳業。〃自宅〃に留まっていない。
 劇場、コンサート、美術館に入り浸り、パチオ・イジエノーポリス・ショッピング・センターで買い物。パウリスタ街の書店、クルツーラ・リブラリアまで歩いていき、マッケンジー大学でポルトガル語の学習に励む。
 高齢者集合住宅ができたことで、老後の生活の選択肢が増えたといえそうだ。

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