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俳句

ニッケイ俳壇(901)=富重久子 選

セザリオ・ランジェ  井上人栄
ときめきの心にも似て春を待つ
【「春を待つ」丁度この頃の季節である。高階から外を眺めると、墓場の森など枯れ色が目立ち侘しい景色が目に入る。林立するビルの中庭や前庭の草木も枯れ色が目立ち、人の出入りもまばらで冬の様相をなしている。
八月から春の季節で、「ときめきの心にも似て」とは、若々しい作者の心情の表れであって、この一句を瑞々しい佳句となしている】

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ニッケイ俳壇(900)=星野瞳 選

アリアンサ  新津稚鴎

夕立の止みたる鰐の沼匂ふ
汝逝きてわが春愁のやり場なし
天の川潤みみかんの花匂ふ
春寒くわれを見つめて埴輪の眼
早春の深き緑のダムの水

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ニッケイ俳壇(899)=富重久子 選

イツー  関山 玲子

寒の雷一喝されて眠られず
【雷は大体夏に鳴り響き、雲の峰に轟き渡り豪雨を伴ってくる事が多い。サンパウロは此処しばらく降雨が無く、雷も聞かず雨の待たれるこの頃である…

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ニッケイ俳壇(898)=星野瞳 選

アリアンサ  新津稚鴎

土手すべり落ちしは太き穴まどい
棉摘み賃ピンガ呑むなと払いやる
曳いて来し蜘蛛置いて穴掘る地蜂
蟇を呑む蛇の口元蠅たかり
露寒し削がれし耳の又疼く
木菟鳴くや酒気なければ物不言ず

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ニッケイ俳壇(897)=富重久子 選

サンパウロ  串間いつえ

みみづくや夜の長きを聞かずとも

【みみづくは梟と同属であるが、耳という毛角を持っているのでそう呼ばれる。
この句は木莵と漢字を使わず「みみづく」と詠んだことによって、耳のあるづくの姿が想像され一句が実に柔らかい感触を読者に与える。また冬はどうしてこんなに夜が長いのかと、人間に話すように詠み上げたところ、見事な省略の利いた秀句であった】

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ニッケイ俳壇(896)=星野瞳 選

アリアンサ  新津稚鴎

月のぼる口一文字にひきむすび
のぼりたる月の笑顔となりにけり
のぼる月の大いなるかなゴヤスの野
母やさしかりし雑炊熱かりし
雑炊の香も囲炉裏火も母も亡し
とろろ汁重ね恙もなく米寿
【今日は百寿を迎えられた作者の米寿を迎えられた時の句である。次いで百寿の句を期待する】

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ニッケイ俳壇(895)=富重久子 選

アチバイア  吉田繁

ゴヤス路や秋の入日の大あかね

【ブラジルに移民してこの方、あまり旅もしないのでこのような雄大な俳句には、何時も心引かれる私である。
「秋の入日の大あかね」という言葉の選択で、美しいゴヤス路の夕焼け空の光景が、油絵のように心に描かれる巻頭佳句である】

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ニッケイ俳壇(894)=星野瞳 選

アリアンサ  新津稚鴎

腕組を解き炎天に出て行きし
流れ星燃え尽きし如移民逝く
パイネーラ花色濃きが侘しき日
受難日は雨山鳩が啼いている
この森のピッタンガ熟れしを誰も知らず

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ニッケイ俳壇(893)=富重久子 選

コチア  森川玲子

身を縮め朝の着替へや冬の入り

【ブラジルの歳時記では五、六、七月が冬季になっているので、六月はまさに冬季の真っ只中である。
 私もこの句の様に、朝は床から出て着替える時身を縮めて大急ぎで重たい衣服を身につけるが、それだけ年老いたのであろうかと思ったりする。季語の「冬の入り」が柔らかく一句を包むように詠まれている】

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ニッケイ俳壇(892)=星野瞳 選

アリアンサ  新津稚鴎

虻が来て蝶来て天気葱坊主
着ぶくれて南風寒き国に老ゆ
行く秋や牧場に白き月残し
草山の草分けのぼる秋の風
雲の峰一日崩れず牧遅日

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