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連載小説

パナマを越えて=本間剛夫=106

 彼らはボリビアで選ばれた青年六百五十人のレインジャーの緊急訓練を始めていた。この青年たちは十九週間訓練され、小銃や迫撃砲の撃ち方、装備のカモフラージュ、目標の位置の確認法、夜間移動者の足音、その他の聞きわけ、敵の待ち伏せ、自身の待ち伏せなどの要領などを教わる。 ゲバラはこの訓練所を襲うことにした。この地点は澄み切った水がリオ・ ...

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パナマを越えて=本間剛夫=105

「読むわよ。わたしラパスの小学校出たんですもの」女は白い歯を見せて微笑んだ。 それから小一時間も話が弾んだ。ゲリラと軍の活動状況が聞き出せると考えたゲバラ一行はパンを頬ばり、カフェを呑みながらサンタクルース周辺の治安について突っ込んだ質問をつづけた。そのあとで女がいった。「……奇妙なのは、このまわりがこんなに物騒なのに、政府は何 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=104

 すかさずゲバラは隙間から続けざまに拳銃を発射した。手ごたえがあって一人が「おおっ!」と叫んで前こごみに倒れ、一人はびっこをひきながら走り、乗ってきたジープに跳び乗って走り去った。ジープにもう一人の影があった。 倒れた男の胸を黒い血が染めていた。 ゲバラの数発の弾は肺と胸を貫通していた。そこへ老村長が驚いた顔を出した。「死んでる ...

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ガウショ物語=(35)=赤いスイカと青いヤシの実=《3》=丘陵の高みに敵軍の一隊

 馬具をつけるのを待つ間ももどかしく、伝令は馬に飛び乗ると駆け去った。脇目もふらずまっしぐらに目的地をめざした。 野営地に到着して携えてきた書簡を届けると、さっそく旧知の若者、つまりコスチーニャを捜し出して、タラパ嬢さんが従兄と結婚することを知らせた。 若者は、まるで沼地に足を取られ、肩まで投げ縄をかけられた牡牛のように怒り狂っ ...

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ガウショ物語=(34)=赤いスイカと青いヤシの実=《2》=娘と若者の秘密の取り決め

 「お前さん笑っているが、下らないことだと思っているんだろう?……まあ、あの時代、あんたはまだ生まれてなかったからな……リオ・デ・ジャネイロの宮廷が独立宣言した時……、それから、ファラッポス戦争が起こって、ベント・ゴンサルヴェス将軍の指揮の下、丘陵地帯で戦った時……。そうだよ、有難いことにな……。将軍はいうまでもないが、他にも勇 ...

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ガウショ物語=(33)=赤いスイカと青いヤシの実=《1》=刺繍のシーツと腰抜け野郎

 「お前さん、まあ、ちょっと止まりなさい。馬具をしっかり締めなおさなきゃ、腹帯が後ろの方にズレちまっているぞ。それから、わしがあそこを行く爺さんにちっとばかり挨拶してくる間、タバコでも喫んでてくれないか。――たしか古い知り合いのような気がするんだが……いや、間違いない!……インディオのレドゥーゾおやじだ。イビクイーのコスタ親方の ...

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パナマを越えて=本間剛夫=103

 この移住地は戦後、日本政府の事業として成功した約百家族の日本人の集団地だった。そこまで行けばブラジル国内の山地も平野も道路が整備されていて二、三日でラパスに着ける。ロベルトは軍人としてゲバラ以上に大陸の地理には明るかった。「俺はアルトパラナからコチャバンバのペルー組と連絡をとって合流する。君はサンタクルースでジャングルの先進グ ...

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パナマを越えて=本間剛夫=102

 私は疲れていたので、男たちに挨拶して夫人の案内で寝室に入り、着ている服装のままベッドに横になって、小一時間も軽寝したと思ったとき、隣室の男たちの声で眼を覚まされ、起き上がって隣室に入った。 隣室の声はゲバラと彼の中学時代の友、ロベルトとの会談だった。田代夫人も同席していて「お目覚めですね」と迎えてくれ、ゲバラに向かって、「日本 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=101

 この運動に対してアメリカは既に十余年も前からパナマを基地としてレーンジャー遊撃隊を養成していた。これは南米の国の大小を問わず、各国の青年十名ずつを選んでパナマに集めて高地、ジャングルにおける戦闘要員を訓練していることに対する反発、憎悪だった。この訓練にはレーンジャーの意味するように高所に張ったロープを伝うなどの訓練、ジャングル ...

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ガウショ物語=(32)=娘の黒髪=《7》=「ザルみたいに穴だらけ」

 ある日、農場主があし毛の駿馬をわしにくれた。ちっこいやつだったが、可愛いのなんのって。そいつに馬具を着けようとしていたとき、相変わらずぼろをまとったピクマンが現れた。「あんたにいい贈り物を持ってきた」と汚れた布を広げながら言った。「わしが編んだ物だが、黒いからそのあし毛にぴったりだ……」 そして、みごとに編まれた黒い轡と端綱を ...

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